七海の覇王・シンドバッドに緊急召集され、錚々たる顔ぶれが円卓を取り囲んだ。
シンドバッドは円卓に両肘をつき沈黙している。
組み合わせた指が彼の口元と感情を覆い隠していた。

集められたのは八人将よりマスルール、シャルルカン、スパルトス、ヒナホホ、ドラコーン。
バルバットの元王子アリババ・サルージャ、そして創世の大魔法使い、アラジンである。

主君の椅子に座すシンドバッド王が静かに口をひらいた。

「みなに集まってもらったのはほかでもない」

アリババはその真剣な表情と、円卓の空気にのまれ、シンドバッド王の一言一句に厳粛に耳を傾けた。
ひらかれた王の瞳が炎を宿す。



のお風呂がのぞきたいです」



「!?」

ガタッ!と椅子を立ち上がって驚愕の表情を見せたのは、アリババだけだった。

「はーい、サンセ〜!」とシャルルカン
深くため息をつくスパルトス
マスルールは無言
「相変わらずですな」とヒナホホ
「女性陣と政務官殿がいない時点でそんなことだろうと思っておりました」とドラコーン。

「シンドバッドおじさんはおねえさんのおっぱいが見たいんだね!」
「ああ。あとお尻も見たい」

シンドバッドは「みなに集まってもらったのはほかでもない」と同じ調子で頷いた。
シャルルカンは円卓に足をおいて、椅子をうしろにギーコギーコしながら「あれ?」と何か思いついた顔をした。
驚愕から立ち直れないアリババをよそに、話は進む。

「そういえば、おーさまはあの人の裸なんてベッドでめっちゃ見まくってんじゃないんですか?」
「ああ、めっちゃ見てる」

シンドバッドはこくりと頷いた。

「だが!」

円卓をドンと押して立ち上がり、力強く拳を振り上げる。



「のぞいたことはない!!」



円卓会議場に「おおー」という野太い歓声と拍手がパラパラ送られた。
アリババはやっぱりまだついていけていなかったが、ついていかないほうがいいような気もしてきた。






■ドラコーン案:「上からのぞく」

「ふむ」とシンドバッドは思案顔をつくった。
「既婚の君にふさわしいスタンダードかつ無駄のない良案だ。背も高いからなおさら現実味を感じる」
「ハッ、良案ですかぁ?」

鼻で笑う声があがる。
一同は声の主を振り返った。

「聞こうか、シャルルカン」
「ちゃんちゃらオカシイ。既婚者の意見なんて聞いていたら一生風呂はのぞけないって言っているんですよ王様」

小ばかにされたドラコーンの目が険しさを帯びる。アリババは気圧され、肌にビリビリと静電気がはしったように感じた。シンドバッドが二人を手のひらで制し、シャルルカンに真意を尋ねる。

「どういう意味だ」
「よく思い出してみてくださいよ」

シャルルカンは立ち上がり、犯行を推理する探偵のようにゆっくりと議場内を歩き出した。

「王様のあなたとちがって、俺たちや様が使うのは宮殿内の大型浴場」

確かにそうだ。アリババもシンドリアに来てから、その浴場を使っている。入り口ののれんに東洋の文字で「男」「女」を意味する文字が書かれており、それぞれの浴場は入り口からわかれている。モルジアナにくっついて「女」の入り口へ入ろうとしたアラジンが蜂の巣にされて放り出されたのは記憶に新しい。
アリババは大型浴場とシャルルカンがドラコーン案を否定した理由が結び付けられずに考えた。

「そうか!わかった」
「さすが俺の弟子だ。アリババ、言ってやんな」
「大型浴場の男女を隔てる壁は、天井まで続いているんですよ!」

ピシャアアン!と円卓会議場の男たちの頭に雷がおちた。
無知の知とはまさにこのこと。

「いくらあんたの背が高くたってなあ、隙間がなくちゃ見れねえんだよ!チクショウ!チクショウ・・・!俺だってくやしい・・・!」

ドラコーンと、彼の案の脆弱性を指摘した張本人のシャルルカンまでもがやるせなさに打ちひしがれ、肩をおとした。
そのときだ。

「嘆くのはまだ早いだろう」

一同がはっとして顔をあげた。

「きみたち、俺のことを忘れていないか」

シンドバッドは口元に笑みを湛えている。その笑みは、円卓の暗闇を朝へ変えるほどの自信に満ち溢れていた。

「アリババくん。俺が何者か、言ってごらん」
「え・・・そりゃあ、七海の覇王、シンドリア王国のシンドバッド王です」
「そう。俺はこの国の王だ。その俺が、風呂を改築することになにか障りはあるだろうか」

ガタタタ!と一斉に男たちが席を立ち上がった。
彼らを見渡し、シンドバッドは大きく頷いた。

「善は急げだ。立ち上がれシンドリアの雄たちよ!」

「おおー!」と円卓に高々と拳が突き上げられた。




































「あかんやん」



「シンドバッドさん、お国のコトバ出ちゃってますよ」
「ジャーファルくんが予算管理しとるから、全然あかんやん・・・!」

というわけで振り出しに戻り、円卓会議場に同じメンバーが集められた。







■アラジン案:「魔法のターバンで天井からのぞく」

偉大な魔法使いに感謝し、さっそくみんなでターバンに乗った。

「それじゃあ、いっくよー!」
「「「ごちになります!」」」

アラジンが杖にぐっと力を込める。
アラジンが杖にぐっと力を込める。
アラジンが杖にぐっと力を込める。

「・・・・・・」

ターバンはいつまで経っても浮かなかった。
しばらくするとアラジンはがくりと膝を地面につく。

「アラジン!」

アリババがターバンを降りて慌てて駆け寄った。

「重量制限とかあるのかな?」とターバンの上からシンドバッド。
「じゃあちょっと降りてくれよ、ヒナホホのおっさんとドラコーンとマスルール」とシャルルカン
「いやです」
「んだと!先輩命令だ降りろこの!ホソマッチョで軽い俺サマと違っておまえは重いんだよっ」
「先輩が軽いのは頭です」
「おうおうおういい度胸だなコノヤロウおもてでろ」
「ここ外です」
「ふたりとも狭い場所で喧嘩すんじゃない。それよりも、おーいアリババくん、アラジンは大丈夫かい?」

アリババはアラジンのか弱い声に耳を寄せて、こくりとうなずいた。
ターバン上の男たちを振り返る。その顔は悲壮に満ちて・・・



「みなさんから黒ルフが溢れていて飛べないそうです」







■スパルトス案:「のぞかないで楽しむ」

会議に非協力的だったスパルトスに、無理やり案をひねりださせたところ、なんだかまだるっこしい言い方をした。
わかりやすくシャルルカンに翻訳してもらうと

”ヤムライハときゃっきゃウフフしているのを壁に耳をあてて聞く”

「おまえ・・・分かっちゃいたけどムッツリスケベだったんだな」







■ヒナホホ案:「のぞき穴を作ってそこからのぞく」

「うん。それもうやった。そしたらジャーファルくんが思春期に入った」



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