シンドリア国民は両手に溢れるほどの花びらをスタンバった。
シンドリア文官は式次第の復唱によねんがない。
シンドリア武官は最正装が落ち着かない。
ご来賓は様々な国籍が入り乱れてさながら仮装行列。
シンドリア八人将−1はあと一人が刃傷沙汰でも起こしてないかと顔を合わせる。
シンドリア八人将残りひとりは、花婿の控え室でうやうやしく袖をあわせていた。



「シンドバッド王よ」

祝典用の文官装、金の刺繍のはいった袖はいつもより高く持ち上げられている。

「御婚礼の日を迎えられましたこと、心よりお慶び申し上げます」

対峙するシンドバッドの装いは、ジャーファルの目に世界一立派で、凛々しく、力強く、羨ましく、精悍で、勇ましい。
ジャーファルは袖を上げたまま、しかし祝詞が続かない。
昨日覚えた、パルテビアの祝いの詞。
シンドリアにはいにしえから連綿と積み重ねられた文化がない。王の婚礼のしきたりも、祝詞も、順序も、なにもない。
一から考えていい。
一から考えなくてはいけない。
ジャーファルは昨日までに一番良い祝いの言葉をつむげずに、困り果て、結局はパルテビアで使われる常套句を暗記した。
あと17行続く。
なのに、声が続かない。



「・・・ジャーファル」

耳に心地よい落ち着いた声だった。
高くもちあげた袖のせいでジャーファルには見えなかったろうが、シンドバッドはいつものシンドバッドみたいに笑った。
シンドバッドはジャーファルをゆっくりと抱きしめた。

「おまえ、いまなんで自分が泣いているか知っているか」
「泣いていません!」
「ははっ、泣いてんじゃねーか」

文句を言おうとしたジャーファルの顔は、頭をおされて、シンドバッドの肩に押しあてられる。

「おまえは俺が大好きなんだよ」
「・・・」

「俺のことが好きで好きでたまらないから、だから泣いているんだ」

頭を何度も撫でる。

「ごめんな、ジャーファル」

「・・・・・・・・・ふぇ」

「おまえと結婚してあげられなくてごめんな」

「うっ、ううっ・・・」

「ごめんな」
























婚礼式典 式次第1番
玉座の間の大扉がひらかれた。
これよりは、喝采のとき






















***



婚礼式典は順調に、式次第7番にさしかかった。
そのときである。



「陛下、た、大変でございますっ!」



息を切らせて、玉座の間に兵士が転がり込んできた。
まわりの武官が慌てて兵を取り押さえたが、声はしっかと玉座の間に響き渡った後だった。

「港に、オオトカゲウオが!!」

式典参加者の全員が息をのんだ。
まさか、この記念すべき式典の最中に南海生物の襲来なんて。
しかし、花婿と花嫁の驚きかたは他の誰ともちがった。



「・・・オオトカゲ王?」

“俺の助手になるには俺みたいに、オオトカゲ王をやっつけられるくらいでないと”

はるか昔の冒険譚

「え?いえ、あの、オオトカゲ、ウオでございます」

兵は王の間違いを不安げに指摘した。
ところが、シンドバッドとは見合ってクッとふき出した。

「よし、俺が行く」

おもむろに立ち上がり袖をまくると、シンドバッドは腕をぐるんぐるんまわしはじめた。

「そ、そんな、シン様御自ら向かわれるなど」

「シンドバッド、助手にしてくれる?」
「ダメ。けど、きょうだけ特別な」

のばされた手をとった。

「そんな、様までっ!式典の最中なのですよ!」
「大丈夫だ」

シンドバッドはドンと胸をたたく。

「俺、そいつ一回倒したことあるからな!」






すべての秘密は石碑の裏に






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