「・・・」

はびっくりしていた。

煙が晴れたかと思うと黒いスーツの男が二人、に向かって手を合わせ拝んでいた。
知っている顔のような知らない顔のような気がしたが、は自分の後ろに拝むべき何かがあるのかと思って振り返った。すると自分が墓石に腰掛けていることに気づく。
さっきまで病院のベッドにいたはずが、ここは屋外
墓地だ。
墓石の群れが夕日に照らされてる。
慌てて墓石から降りたら火のついたお線香を踏み、お供えのものらしき水をひっくり返し、つんのめったところでしっかりした身体に受け止められた。緩みかけた手をぎゅっと握って指輪だけはつなぎとめる。

「っと。大丈夫か」
「はっ、はい、ごめんなさい」

身体を離すが左足の裏を線香の火で火傷したらしく、冷たい石畳に足をついたとたんに小さい悲鳴をあげた。機能しなくなった右足を使うことはできず、痛みは我慢した。
知らない人の前だから。
はいつも病室で着ている薄手のワンピースを着ていた。素足だ。目の前の黒スーツは誰だろう。偏見だが、カタギに見えない。ひとりは黒い細身のスーツでつばのある黒い帽子をかぶっている。このいでたちはリボーンのはずだ。しかし顔が、なんとなく、違う。

もう一人は・・・もうひとりは

「・・・山本さんのお兄さん、ですか」
「やーべー。俺幽霊見えてる、超嬉しいけど幽霊とか俺だめなんだけどリボーン」

帽子をかぶった方の男は山本似の大人の男性にリボーンと呼ばれた。やはりの知る彼らしい。

「牛のしわざか」とリボーンは誰にともなくつぶやくなり、自分のジャケットを脱いでの肩からかけた。
ついでに抱きしめられてリボーンの胸に顔を押し付けられたまま身動きとれなくなる。けれど足を地面から浮かせてくれた。

「少しタバコくさいが今はこれで我慢しろ」
「え!本物!?あーそっかー!10年バズーカでこっちきちゃったんだ」

ぽんと手のひらをうつ山本
(ああ、そうかわかった)
は抱きしめられるのを嫌がるのもわすれていた。
(10年後は・・・もう・・・)

背後を見るのはやめよう。
刻まれた名と没年をみたら何だか、なんだか・・・吐くかもしれない。


いまごろひばりはないていないかしら


ぼんやりしているうちに山本は手早く背後の墓周りを整頓し、リボーンはを胸の位置まで抱えあげた。

「あ、の。下ろしてください」

さすがに慌てたも、腕の中からリボーンの顔を見上げて目があったとたん、ふっと微笑まれたので
言葉がつげなくなった。怖そうな大人の男の人に優しくされている感覚。
それを見た山本があきれ声を上げる。

「いまのさんはコーコーセーだぞ。色目使うなっつの」
「色目じゃない。フェロモンだ」

言いながらの鼻筋やこめかみに唇を寄せてくる。緊張で石のように動けずにいると極めつけに耳元で
(いい子だ)と囁かれ、ボンとの顔は赤くなる。左脚をばたつかせた。
ばたつかせたらピリッ!と足の裏の痛みですくむ。火傷が痛い。

「あーさん超かわいい。リボーンパス、パス」
「あと五分」
「五分待ったらさん戻っちまうじゃねえか!」
「ごふん?」
「そうそう、10年バズーカって五分でもとの時代に戻っちゃうんだ」

たった5分かそこら10年後の君がきて、ぼくを倒せると思ってるの?
こここれは5分じゃないもん!ボ、ボスが特別にくれたんだもん!一時間だもん!


「ランボくんが・・・特別だから5分じゃなくて1時間って」





山本が買った缶ジュースで足の裏を冷やすことにして、車に飛び乗った。
運転は山本、はリボーンの膝の上。

「時間ないから飛ばすぜ。ちゃんとシートベルトしめて」
「任せろ」

リボーンは自分だけシートベルトをしめた。膝の上の

「あっ・・・の、手が」

リボーンの長い腕がの身体をしっかりと捕まえている。さらにふとももをさすっていた。

「おまっ、マジであいつに殺されるぞ」

山本がカーチェイスの映画のようにハンドルを切りながらセクハラを指摘する。
近未来的な町並み(近未来なのだけれど)を黒塗りの車が疾走する。

「あいつには直接会わせらんねえだろ。一生もとの時代に戻さないって言い出すぜ」
「ありうる」
「しかたねえ。おまえのために一肌脱いでやる」

帽子を押さえて目元を隠したリボーンが、唇の右端だけキュっと持ち上げて笑った。
が質問やセクハラを訴える暇もなく、車はとある建物の前で急停止した。




















自宅で誰かに背後から一撃食らった。
意識が朦朧とする中で起き上がった。薬でも盛られたのか、まだぼうっとする。
ここは見慣れた僕の家
ソファーベッド
電気は消えてる
外は夕暮れて赤い

さら、と前髪をなぜられた。

「ひばり」

「・・・」

だ。君だ

ゆめだ

ふれたらきえる

うそだって わらって

「これは・・・ゆめ?」





















大人になった雲雀の声があまりに眠たくて、あまりに切なくて、泣きそうな顔をするので精一杯穏やかに見えるよう笑って見せた。
本当は声をあげて泣きたい。

「そう。だからなにも心配しないで、私のひばり」

ソファーベッドに横たわったままの雲雀が緩慢な動きで手を伸ばしてきた。
肌に触れる寸前、何かに怯えるようにビクと指がすくんだけれど顔の輪郭を撫ぜられる。
浅く、やがて深く強く
大人っぽい
少しやせた
手、大人の男の人みたい
雲雀のにおいがする

「あいたか・・・た」

知る雲雀はそんなこと言わない。形があることを確かめるように恐る恐る指が肌をなぞったりしない。
怖いものなどないと言っていたのに、こわいことをされたら言いなさいってゆったのに、”おそるおそる”触れたり目を潤ませたりぼうっとして唇が半開きだったり泣きそうな顔をしたり指が震えていたり縋るように会いかったと言っ


「あいたかった」

泣くものか

「あいたかった」

泣くものか死ぬものか泣くものか

生きる

守る




「だいじょうぶ、もう大丈夫」



まあるい頭を強く抱きしめる。



「未来を変えるわ」







ひばり





ひばり








わたしの かわいい ひばり
























































「君たち、人の家でなにしてんの」
「よっ、ヒバリ」

目が覚めて部屋から出てきた雲雀は、キッチンで侵入者を発見する。
雲雀の家の冷蔵庫をあさっていた山本が振り返り、リボーンは椅子にかけてエスプレッソを飲んでいる。
山本は(これは噛み殺される!)と察知した。

「まあいいけど」
「お、やさしー。なんかいいことあった?」
「・・・まあね」
「なになに?」
「うるさい、君には関係ない」
「おまえがいつまでも起きねえから迎えにきてやったんだろうが」

リボーンがテーブルに靴のまま足を乗せて言い、山本も便乗する。

「そうだぞ、今日はさんの墓ま・・・?うん?あ、いや、誕生日会だろ」

墓参りの日、ではない、誕生日。
思い出せ
思い出せ
今未来が変わった
誰かにとっての過去がかわったからだ
誰かが変えた未来
だれも気づかない

「おまえプレゼント買った?」
「・・・」
「うっそ!彼氏失格じゃね?!んなにユルユルしてると奪っちまうぞ」
「やれるもんならやってみなよ。言っとくけどはぼく一筋だから」
「じゃおっぱい揉む」
「かみ殺す!」

ぎゃーぎゃーバタバタと走り回る成人男子を尻目に、リボーンは誕生日会でこっそり口にチューしてやるために歯を磨くことにした。






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