「おまえ、耳からなんか出てる・・・」

「え?」

の耳から白い糸みたいなのが出てた。









そして僕は星になる
あの輝く一番星に











亜久津仁だ。
今日は、起きたら徹子の部屋がやってた。
それからのろのろ学校行ったら三時くらいになってた。
先公が全員、なんとかなんとかシンポジウムに行ったらしくて
午前授業だったんで、生徒もひとりものこってなかった。
顧問がいねえから部活もやってない。
んで、帰ろうと思ったらがいて声かけてきて、あいつはパンとか
三つくらい持ってたから、腹も減ったし3-Aの教室にあがって食った。
食い終わったのが四時くらいで、いい雰囲気になったから、
机6個くらいくっつけて押し倒した。
どうせ誰もいねーんだし。
暇だし。

レイプじゃねえ。
こいつ一応オレの女。


首やら乳やらに触って
もこっちもイイ感じになってきた頃、

ふと見たら
の耳から
白い糸が出てて


















二度見した。















「おまえ、耳からなんか出てる・・・」
「え?」

なんか、白いのが・・・。

「なにが出てるって?」
「わかんねえけど」

白い糸みたいなのが、耳から2センチくらい垂れてる。
・・・まさか耳毛?
ちげーな。こんな長いのが出てたら付き合い始めたか半年にもなって、
今まで気づかないわけない。

「え・・・なに。なんのなの。・・・耳から出てんの?なに?虫とか!?」

がパニクって、自分の耳を押さえて手の平で擦った。

「虫じゃねーけど」
「とれた?とれた?」

取れてなかった。

つか、むしろ。

「奥入ってった」

「はぁ!?なになになになに!」


はさらにテンパって、耳から少しだけ出てる白いのをつまみ出そうとした。
そしたら案の定つかみ損ねてどんどん中のほうへ入ってったみたいで
自分の頭を振り回した。

「さっきより奥に入ってんじゃねーの」

「なにが、なにがはいってるのよっ!君も彼氏なんだから少しは協力しろ!」

あんまり騒ぐから耳ん中のぞいてやったら、奥のほうに引っ込んでんのが見えた。
かなり奥のほうから出てる糸らしい。

「もうとれた?」
「奥のほうにある」
「勘弁!ガッデム!」
「ギャーギャー喚くな。ひっこんだんだからいいじゃねえか」
「いいわけないでしょ!耳から変なものが出たのにそのままにするなんて」
「つーかなんで耳から糸が出んだよキモチわりーな」
「こっちが聞きたいよ!」

そういえば、いつだか千石がそんなようなこと言ってたような。
なんていってたんだっけか。
”耳から白い糸がでてきたら”
でてきたら、のあとなんて言った。
確か

確か


「・・・思い出した」
「なに?亜久津なに言ってるの、何を思い出したの」
「落ち着いて聞けよ」
「・・・亜久津?」
「耳から白い糸出たら」
「たら?」

「抜かねえと死ぬんだ」

は色をなくした。

「うそ・・・」
「耳は脳に近いからどうのこうのって話だぜ」
「・・・どう、しよう」

の目が一気に潤んだ。顔をくしゃくしゃに歪めた。
泣くな

「泣くんじゃねえ」
「・・・うぅ」
「俺が絶対とってやる」

絶対 死なせない

「でもどうやって取るの・・・、奥、いっちゃったんでしょ・・・っ」
「ここに耳掻き持ってっから」
「あくつぅ・・・!」







* * *

わちにんこ!

千石清純だよ。

今、俺はわけあって3-Aの教卓の下に隠れてんの。
今日は先生達がみんな国際なんとか教育シンポジウムとかいうのに
行っちゃったので学校は午前で終わりだったから。
顧問がいないので部活もなくて、他の部活の人はさっさと帰っちゃってさ。
俺たち硬式テニス部は
『室町くん、20人斬りおめでとう記念かくれんぼ』
をしてたんだ。
んでもって、そろそろドラゴンボールの再放送が見たいので帰りたんですけども、

ぶっちゃけた話、

俺のいる教室であっくんが淫行してらっしゃいます。
あっくんと淫行していらっしゃるのは亜久津の彼女のさんです。
俺が3-Aの教卓の下にかくれてから2分後くらいに二人が入ってきたわけだ。
最初入ってきたときはおとなしく二人でパン食べてたのに、食べ終わったら
ほんずれくんずれおっぱじめてしまったのです。
なにをおっぱじめてしまったのかというと、

「みみかき」

です。
たかが耳掻きと侮ってはダメだよ。
お二人、かなり真剣にプレイ真っ最中です。

っというのも、パンを食べ終わったらたぶん亜久津のほうは
エッチしたかったんだと思うんだよね。それで机6個くらいくっつけて
その上にさんを押し倒したの。
そこまではよかったんだけど。
なんか、さんの耳から白い糸がでてるのを目撃しちゃったらしくて
しかもさんが糸を取ろうとして耳の奥のほうに間違って押し込んじゃって
とれなくなってしまったのです。
この二人、勘違いしてることがあります。

誤:耳から白い糸が出たら、それを抜かないと死ぬ

正:耳から白い糸が出たら、それを抜くと失明する


亜久津はオレが教えたことを間違って覚えてしまったようで
愛しい彼女の命のため、懸命に耳掻きをしているわけです。

アホです。

今ここで俺がこの教卓の下から飛び出して、真実を伝えてあげれば
全てまるく納まるんですけど、


「亜久津っ、(耳掻きされるのが)怖いっ!やっぱり怖い」

「ぃっ・・・!(耳掻きが)深いよぅ」

「あんまり(耳掻きを)動かさないでっ・・・」

「はやく(耳掻きを)抜いて・・・おねがいだから」

以上のようなセリフを、さんが切羽詰った声で言ってます。
オレは教卓の下にいるわけで、音しか聞こえないわけです。

出るに出れません。
つーか、まともに立てません。
清純って名前だけどオレだって中学3年生のオトコノコです。













* * *


部長の南健太郎です。

抽選会のときに千石の後ろにいたのが俺です。
「やあ」
と言っただけでホーズが変だ、とかおまえは榊か、とかなじられたのが俺です。
不動峰中の二年に存在を忘れられていたのが・・・俺です。
あ、平気だから。
別に泣いてないから。

うちの部は、今日なぜか
『室町くん、20人切りおめでとう記念かくれんぼ』
とかいうのをやっています。
午前授業だからさっさと帰ってごきげんよう見て、徹子の部屋見て、
2時ッチャオ見て、ドラゴンボールの再放送見ようと思ってたのに、有無を言わせず
参加させられています。

部員全員でかくれんぼをしているわけですが、先生がいないのをいいことに
校舎全体が範囲なのでなかなか見つかりません。
オレは3年A組のカーテン(暗幕)の中です。
足が見えないように窓の桟に乗っています。

ぶっちゃけ、

俺のいる教室で亜久津が彼女を押し倒してます。
俺は目を瞑って、別のことを考えようと努めています。
耳から聞こえる音は夢だと言い聞かせています。
ここは部長らしく、冷静に分析し解決策を考えようとおもいます。

亜久津とその彼女が学校でなにをしようとけど俺にはまったく関係の無いこと
なのでよろしくやってくれてていいと思う。今、俺が窓の桟からおりて軽やかに
手を上げて「やあ」と言って出て行っても誰にも俺をとがめる権利はないじゃな
いか。「お邪魔しました」とか、ちょっと粋なはからいっぽく言ってから出てくれ
ばそれで丸く納まる


わけない。


俺はそういうキャラじゃない。

「実はいま部員でかくれんぼしててな。ほんとアホだよなハハハ」と、
軽く言い訳してみてはどうだろうか。この状況でハハハとか言えないだろ。
普段もいえないのに。そうじゃなくて窓から飛び降りてはどうだろう!

それは死ぬだろ。

死ぬのはさすがにイヤだ。
だがこのまま出て行ってもたぶん死ぬのに近い目にあわされる。
に・・・にげられない・・・。

とか思っていたら、の耳から何かがでてたらしくて、その出てた
ものを抜かないと死ぬ、とかいう深刻な話になってきた。
今にも泣き出しそうなをなだめて、

「俺が絶対とってやる」

そう言った亜久津は男の俺でもかっこいいと思った。

「でもどうやって取るの・・・、奥、いっちゃったんでしょ・・・っ」

の声は震えててかわいそうだった。

でも、この混乱は逆にチャンスなんじゃないか。
ここで出て行って、『救急車よんでくる!』とか言い置いて
走り去ったなら亜久津に殴られずに教室をでられるんじゃないだろうか。


そうだよな。

それしかないよな。

ああ神様、チャンスをくれてありがとう!

今しかない!

よし!

行k



「ここに耳掻き持ってっから」







(なんでっ!)

俺は思わずツッコミそうになったのをこらえました。
どっから出したんだよ!だっておまえ制服きてたじゃねえか。カバンなんか
学校来る時に持ってきてないし、ってことは制服のポケットとかに入れてた
ってことか?そうなのか!?耳掻きって男が常時携帯するようなもんなのか!?
トレンドなのか!?

「亜久津っ・・・」
「おとなしくしてろ」
「・・・ん」
「とらなきゃ死ぬんだ、やるぞ」
「ゆっくりいれて、おねがい」
「ああ」

しかたない。
窓の桟につま先をひっかけた格好は長時間同じ姿勢でいるのは
つらいが、せめてこの耳掻きがおわるまではここにいよう。


「亜久津っ、(耳掻きされるのが)怖いっ!やっぱり怖い」

「ぃっ・・・!(耳掻きが)深いよぅ」

「あんまり(耳掻きを)動かさないでっ・・・」

「はやく(耳掻きを)抜いて・・・おねがいだから」


母さん・・・
健太郎はこれ以上窓の桟に爪先立ちしているのは無理です。
じょうずに立てません。
健太郎の健は健康男子の健なんです・・・









* * *

東方雅美です。
今、大変なことになっています。
の生命の危機です。


亜久津の話によると、
”耳から出てきた白い糸は抜かないと死ぬ”そうです。
俺は全然そんなこと知らなくて、あの亜久津が懸命に彼女の命を救おうと
耳掻きを動かす姿に感銘を受けています。

俺も掃除用具入れなんかで音を立てないように隠れている場合じゃありません。
今までは出て行ったら亜久津に殺されそうだから出れなかったけれど、
同じ学校の人が死んでしまう可能性があるのだから。
今この掃除用具入れから飛び出してすぐに救急車を呼ぶべきじゃないだろうか。
そうだ。
かくれんぼなんかしてる場合じゃない。
すぐにこの掃除用具入れから出て携帯で救急車をっ!
救急車を。
救急車
きゅうきゅうしゃ?

救急車って何番だっけ。
警察は「ひゃくとうばん」だから「110」だろ。
救急車は・・・、えっと・・・。
ええと・・・

あーどうしようどうしよう!
こうしている間にもが死んでしまうかもしれないのに!
どうして俺はいつも肝心なところで焦るんだ!
落ち着け!
落ち着いて考えろ!




・・・・・あ、思い出した。




『109』だ。

よし、それじゃあ今すぐここから出






「ダダダダーン!!!」




「亜久津先輩見っけです!って、あれ?そういえば亜久津先輩もかくれんぼに
参加していたですか?」

こんにちは!壇太一です!
今日は
『室町先輩の20人斬りおめでとう記念かくれんぼ』
をしています!
僕が鬼で先輩たちをさがしまわっていたのですが、3-Aに入ったら、
亜久津先輩がいましたです!

やったです!

うれしいです!

お、おや・・・。

亜久津先輩の膝の上に先輩が横になっているです。
しかも、亜久津先輩は先輩にみ・・・・・みみみみみみ、耳掻きをしているですー!!
ま、まさか!
これはいわゆる
大人のプレイというやつなのですか!?
そうなのですか!?

「ダ、ダダ、ダダダダダダダーンッ!!!ごめんなさいです、僕お邪魔しちゃったです!」

たたたたいへんですー!

「ままままままさか先輩たちがマママ、マグワっているとは知らなくて」

あああ!どうしたらいいんですか!?
亜久津先輩がものっすごい顔でこっちを見てるデスー!
般若ですー!
阿修羅ですー!
金剛力士像ですー!
加藤鷹ですー!

「壇くん、これはちがうのっ!」
「だだだ、大丈夫ですー!ぼく誰にも言わないです!絶対!」
「別にマ、マグワってたわけじゃねえ!」
「亜久津までマ、マグワるとか言わないで!」
「ししししつれいしましたですー!」

僕が慌てて教室を出ようとしたとき、同時に4つの着信メロディが響きました。


ひとつは僕の携帯電話のEメール着信音「森のくまさん」

ひとつは笑点

ひとつはモンゴル800の「小さな恋のうた」

もうひとつは普通の電子音です。


それぞれ、
教卓、カーテン、掃除用具入れから聞こえたです。


































































































とりあえず、僕は一番扉に近いので逃げるです。





おまけ:
母・その愛