ばったりの日



今日という日を『ばったりの日』と名づけよう。







3時間目はサボるにかぎる。
屋上から見る空はいいカンジに日本晴れ。(←どんなだか知らないけどねー)
弁当は二時間目の終わりの休み時間に全部食ったからオナカいっぱい。
朝練疲れたから睡魔いっぱい。
辞書ちゃんのおっぱい。
揉みたい。



1stばったり

7月現在、山吹中は期末考査3日前なのでサボる生徒は稀だ。
屋上によくサボりにくる生徒らも大抵は3年生で、受験生だからやはりこの時期来ない。
誰もいないからちょっとしたオチャメ心で叫んでみたくなる。
この前やったら生徒指導の体育のセンセ――通称・宮モッちゃんに発見されてしまった。

”いーじゃんかー。オレテニスのスポーツ推薦来たしー”と言ったらとりあえず怒られてから
微妙な顔された。
だから叫ばないでおくことにする。
えらい、オレ。

おおう?
給水タンクの向こうに、微かに白い煙が立ち上るのを発見。
あー、オレ予言する。
あれは

「亜久津だ!」

給水タンクの反対側へ駆け寄ると、
あ、やっぱし嫌そうな顔。イシシッ

「なにー?あっくんまたサボり?」
「テメェも人のこといえねぇだろうが」

亜久津はもうオレが「あっくん」と呼んでも怒らなくなった。
うんざりした顔して、タバコすって、そんだけ。
「平気なの?オベンキョしないと留年しちゃうよ?」
知るか、と亜久津は白い煙を吐き出した。
そういえば、この前辞書ちゃんと亜久津と買い物した時、亜久津がタバコ吸い始めたら
辞書ちゃんビビってたなー。そりゃそうだよな。
オレは辞書ちゃんがヒくと嫌なのでしばらく前から禁煙中。愛の力だ。
えらい、オレ。

そのかわり牛乳を腹くだすほど飲んでる。
だって背、もちっと欲しい。目指せ東方!
「亜久津さー、身長いくつ?」
「は?」
「なんキロメートル?」

あ、カチンと来た顔した

「183」
「ウゲッ、高っ。いつ測ったやつ?春の身体測定?」
「悪ィかよ」

あ、ちょっとテレてるな?
後から一人で計らされるのが嫌でマジメに身体測定しちゃったからテレてるな!
めんこいな、イシシッ!

辞書ちゃん言ってたよ。あっくん背高いって」
「あっそ」
「だから、オレ言っといたよ。辞書ちゃんおっぱい大きいってあっくんが言ってたよって」
「ゲフゴホゲフッ!」
ムセる亜久津。珍しいものが見れました。

「…っ!ざっけんな!」
「え?なんでおこんのサー。あ、もしかしてあっくんったら印象値気にしちゃって
るの?辞書ちゃんにポイント稼ごうとか思ってンの!?
ご 勘 弁 !
さっき叫ぶのはやめると決めたけど、大声で言ってやった。
男には譲れないこともあるのよ。
「わっ、わけわかんねぇことホザいてんじゃねェよタコ!」
負けず劣らず大声を張り上げる亜久津。
でも”タコ”ってアナタ…イマドキ…
しかし男として、辞書ちゃんの彼氏としてここで黙っているわけにはいかない
「…ムムム。こうなったら、辞書ちゃんはこのオレのだっていう事を亜久津くんに
思い知らせてやらねばならんようだね」

オレはズボンのポッケに手を突っ込んだ。
例の物を出す時が来たか。
フッフッフ

亜久津は少し身構えた。
この学校は私立のなかでも荒れている部類にはいる。
暴力沙汰も頻繁で、世間体を保つために教師が事実をもみ消したりとかしてる。
ナイフとか殴ると痛いとがった指輪とか、持ってる奴なんてザラだ。
だが、そんなヤワでベタな武器よりも、強い武器を俺は持っている。
思うに世界最強の武器だ。
亜久津は神妙な顔になって俺を睨んだ。指をパキパキならした。器用だな、オイ。
「上等だ」と亜久津はタバコを踏み潰した。



「しゃきーん!」



オレは効果音付きでポッケから最強最終兵器ケータイを出して見せつけた。

ちなみにこのケータイ、どのへんが最強かというと

すでにアンテナが折れている!(それだけ使っている証拠だ!)

学生さんは金がない、で有名なメーカーのだ!(辞書ちゃんと同じだからだ!)


辞書ちゃんと二人で映ってるプリクラを全面に貼ってんだ!(どうだ仲良しだろう!)


ボタンのとこまで全部貼ってんだ!(勝てっこないだろ!!)


フフ…あっくんめ、ビビっているな。
表情も動きも固まってるぜ。
だが、まだその拳をおろさないのか。
さすが亜久津だ。なかなかやるな。
こうなったら・・・。
「今から辞書ちゃんに電話してオレたちがいかにゾッコンラヴか教えてやろう」
亜久津は下を向いて、さっき上履きでつぶしたタバコを見つめている。
あれ?半分しか吸ってないね。
なんで踏み消したの?

まいっか。

「つーかさ、なんかこのケータイ打ちにくいんだよね。なんでかなー」
「…シールはがせよ」
「ヤダあっくん欲しいの?エッチ」
「いらねぇよ!だいたいな、んでオレがテメェとくだらねぇことでくっちゃべってなきゃ
なんねーんだよ!ザケンナ!ぶっ殺」

「あ、辞書ちゃん?」

亜久津がピタリと停止した。

『ただいま電話に出ることができません。留守番電話センターに接続し』

「あれー?辞書ちゃんでない、寂しい・・・」
あ、青学も今は授業中か。なるほど。
ちぇ。
亜久津を見てみると、振り上げた格好で止まっている拳をゆっくりグッパーさせてから下ろした。
ついでに肩も落とした。
どったの?
薬でもきれた?

『…お名前ご用件をお話しになり、終わりましたら♯を押して下さい。・・・・・ピー』

「オレだよキヨだよ、千石清純だよー!あっくんが辞書ちゃんにソフトタッチするのも許せない
くらいオレは辞書ちゃんのこと愛してるからね、そのへんヨンロクヨンキュウ、ってダセー!
んじゃ、また後でメールすんね」

『♯』を押してから、力強く『hold』を押した。
決まった・・・!

「どうだね!」

「どうしようもねェ…」

キーンコーンカーンコーン








2ndばったり

三限終了のチャイムが鳴って、オレは購買で『昼食その2』を買うために下へ降りることにした。
亜久津も誘ってみたが、ヤツは疲れたと云うものだから置いて来た。
そんなだとどっかのガッコに『タバコとか吸ってて体力続かなかったんじゃねーの』とか言われちゃうゾ。

屋上と4階の間の階段の踊り場で生徒指導の宮モッちゃんにばったり遭遇。
ドリフのコントのごとく、後ろの襟首を掴まれながら生徒指導室まで行かれました。

アンラッキー






3rdばったり

すっげーの!
昼休みに昼練のためにA倉庫開けに行ったら倉庫の中でゴム発見!使用済み!
でもよりによって倉庫でやんなよー。
この倉庫は石灰だらけだからヤバイんだぞー。
辞書ちゃんが言ってた。

"石灰が目に入ると失礼しちゃう"んだって。

あ、いや"失明しちゃう"だったっけかな?
まあどっちにしても辞書ちゃんはかわいいので良し。






4thばったり


さ、三階の一番奥のトイレ(個室)に……こ、これ以上はハシタナイからキヨ言えない!







5thばったり

部活終了。おつかれっした。
さて、
向かうは
いざ

青春学園中等部!

メールで一緒に帰ろうと書いておいたから、彼女は中にいるはずだ。
「お邪魔しまーす」
黒学ランが下校する中、逆流する白学ランは目立つみだいた。
みんなチラ見してくる。
気にしない気にしない。
でもかわいい女の子が横を通り過ぎるときだけ、気にした。

「イカンイカン!いざ辞書ちゃん」

首を横に振って雑念を飛ばし、小走りに校舎へ向かう。
が、
ふと足を止めて無人のテニスコートを見やった。
フェンスにかじり付くように指を掛ける。
たしか、手塚クンとお隣の席なんだよな…
手塚クンかっこいいから、ちょっとヤだ
亜久津みたく辞書ちゃんのこと狙ってたらどうしよ
亜久津はめんこいだけだから平気だけど、手塚クンはさすがのオレでもしのぎきれぬ、やも。
手塚クンのトウシューズとか落ちてないかなー
あったら画鋲で"ウンコ"って文字書いて仕掛けるのに
・・・手塚クンのトウシューズにウン・・・・・・・・・?

「ブフッ!」

思いっきり息が漏れて笑ってしまった。

「千石くん」

ああ、
ようやく辞書ちゃんにばったり遭遇。

「テニス部、もう終わっちゃったよ」
「うん。なんか暇だったから見てただけ」
「笑ってた」
「うん。それはね、手塚クンがウ………ウ、ウシワカマル!」
「牛若丸?なにそれ」
辞書は控えめに笑った。
「なんでもないよ。行コ」
「…うん」

オレが手を伸ばすと辞書ちゃんは少し恥ずかしそうに笑って、"恋人繋ぎ"をしてくれた。
オレはもう、今日亜久津が辞書ちゃん狙っているのが発覚したことや、手塚くんに辞書ちゃんを
とられちゃうかもとか、どうでもよくなった。






6thばったり

その帰り道で恋のライバル、亜久津と遭遇した。

亜久津は善良な学生たちを成敗しているところで、オレたちは物陰から成敗が終わるまで
待ち、終わってから飛び出した。
ら、亜久津は地面につっぷした5人から托鉢を頂戴してる真っ最中だった。
「おごって」
オレが可愛くウィンクをきめると、亜久津は悪党ぶって「ぶっ殺す」と言いました。
「…辞書ちゃん。なんかさ、今日オレがケータイ打ってたら亜久津が辞書ちゃんのプリク」

「言ってねェ!欲しいなんてひとっ言も言ってねェ!」

「誰も亜久津欲しがってたなんて言ってませんよ、ウフフ」
「マジぶっ殺す」
亜久津は本日二度目、俺に向かって拳を構えた。
「千石君!」
あー平気平気
この距離ならなんとかよけるくらいは

一瞬で、辞書ちゃんが俺の前に立ちふさがってた。

「「っ!」」






ペチン

寸止めには間に合わず、極弱い力の亜久津パンチが辞書ちゃんの頬に当たった。

「………………………ぁ」
辞書が口の端からこぼすようにぽつりと言った。
「や、待て」
亜久津の制止を聞かず、辞書ちゃんは自分の頬を手の平でさわった。
「ちょっと待てって」
じんわり涙が目の縁に堪り、睫を濡らしていくではないか。
「落ち着け!」
「なァーぐったーなァーぐったー!宮モッちゃーんに言ってやろ!」
マイハニーは半泣き
亜久津はめっちゃ慌てていてオレはこの前と同じ展開に大笑いしてしまった。

場所は都会のベッドタウン、青春台の駅前。
往来の注目の的である。













結局、また折れたのはあっくんでした。
オレが「辞書ちゃんのほっぺ冷やさないと腫れるかも」と言ったら、サーティーワンでアイスを
奢ってくれました。
オレはバナナアンドストロベリーで、辞書ちゃんはオレンジシャーベット、あっくんはなんでも
いいと言うから(「どうでもいい」って言ったたんだっけかな?)オレがワイルドアマゾンを
チョイスしました。
オレは辞書ちゃんと間接チューがしたかったので交換ッコしました。
ちなみに舌でぺろぺろしてるから間接ベロチューです。(キャ!)
どうでもいいけど、ワイルドアマゾンは驚くべき色合いなので、あっくんは心なしかビビッてました。
で、ゲーセン寄って三人でプリクラとりました。
辞書ちゃん真ん中にして早死したらヤなので、テキトーに理由をつけてあっくんを真ん中にしちゃいました。
んでもって、こっそりあっくんのケータイの裏にプリクラはっちゃったー★
あっくんが無理矢理はがそうとしたら辞書ちゃんがショックを受けてたので貼ったままにしてくれました。
辞書ちゃんもそのシールをケータイにはってくれて、オレもはって、三人でおそろいになりました。
辞書ちゃんを家まで送ったら「明日は私が山吹に迎えに行くね」と言ってくれました。
それからまたまたあっくんとワイダンして帰りました。
今日もラッキーでした☆

                                            おしまい。


あ、そういえばね。辞書ちゃんがオレンジシャーベット選んだのはオレの色だからなんだって。

君が好きだよ




おまけ