泣 か な い で の 日 









1st泣かないで

オレの誕生日、ちゃんは俺のことを「清純くん」と呼んでくれた。
次の日にはもとにもどってた。
「千石くん」って。
別にいい。
だって俺のことを呼ぶのはちゃんで、そこはかわらない。
というはなしを南にしたら
「ごちそうさま」
と呆れた顔をされた。
だからオレは言ってやった。

「なんだよ!せっかく人が名ゼリフ言ってやったのにそのリアクションは!
薄いよ、薄い!南のキャラくらい薄いよ、そんなだと将来的に頭上まで
薄くなるんだから、確定!」

南は怒ってなにか言おうとして口をあけて、すぐ閉じて、自分の髪の毛を
そっと触った。
俯いてぎゅっと口を真一文字にして...

ご、ごめん。
オレが悪かった。
そんな気にしてたなんてしらなくて、あの、ほんとゴメン。
どうしよう、慰めないと、えっと...


「...そぉ〜お悩み無用ぉ、あなたの髪きっと生え」

「歌うな」

「メ、メンゴ」


泣かないで。




2nd泣かないで

「3年E組千石くん、至急担任のところまできてください」

「わお、お呼び出しかかちった」
「おまえまたなんかしたのかよ」
「えー、してないとおもう。行ってくるねー」


「千石くん...きみ、進路希望はちゃんと書きなさいっていってるでしょう」
「ちゃんと書きましたー」
「これのどこがちゃんとなの!」

進路希望用紙

3年
16千石きよすみ

第一希望:ちゃんの彼氏でいる  

第二希望:ちゃんのヒモになる

第三希望:うちの高等部へいく




「いたってマジメじゃん」
「あのね、将来のことなの、本当にマジメに考えないとね」
「ジョーダンジョーダン、センセーそんな泣きそう顔しないで下さいよ」

俺は進路希望用紙を書き直し、すぐに提出した。
先生はほっと胸を撫で下ろして、紙を見た。

進路希望用紙

3年
16千石きよすみ

第一希望:ちゃんの彼氏でいる  

第二希望:うちの高等部へいく

第三希望:ちゃんのヒモになる




「やっぱヒモはマズいッスよねー」
「せんごくくん...」

え、ちょ、センセ!泣かないでよ、マジ泣き?マジ泣きなの?

「ちゃんと高等部行くんで!だから泣かないでよー」





3rd泣かないで

東方が授業中にシャーペンを逆さまに押してた。


4th泣かないで

生徒指導室にユーキちゃんと亜久津が入っていくのを見た。
ユーキちゃんも大変だよな。





5th泣かないで


青学の正門で待っているとすぐにちゃんがきてくれた。
「千石くん」
息を切らせてる。走ってきてくれたんだ。
「急がなくてもよかったのに。オレ、ずっとここで待ってるから」
「でも」
「次からはゆっくりね。だってそうしないと、急いで教室から走ってきたらドアでたところで
手塚君に衝突して『すまない大丈夫か』『ううん平気。こちらこそごめんなさい』すると
おもむろに手塚君がちゃんの手をとり、放課後の無人の教室に押し戻す。『きゃ』『
話したいことがあるんだ』『え』『オレは前からのこと』ってなことになったら大変だから」

ちゃんはいつのもように控えめに、はにかんで笑った。

さん」
急角度のめがねをかけたオバさんが俺たちのほうへやってきた。

「先生。さようなら」
「ええ。・・・」
先生はオレのことを見た。
オレがアゴを突き出して会釈すると溜息をおとした。

さん。関わる人はもう少し選びなさい」

「え」

「もう少し考えることのできる生徒だと思っていたけれど」

先生とやらはオレのことをおもいっきり睨んで、俺たちの横を通り過ぎていった。
先生は完璧オレのことを見てた。


ちゃんは停止していた。




オレは「なんだよあのババア!すげーむかつく!」と叫びそうになったのを
堪えた。叫ぶとオバハンに聞こえてしまうほどの距離しか離れていなかった
からだ。ここでオレが叫べば、オバハンは(ほらやっぱり)とメガネをあげて
見せるのに違いないから。

「行こう」

ちゃんは目をぱちぱちやった。
オレはちゃんの手を勝手に掴んで歩き出した。ちゃんはよろめき
ながらオレに引っ張られるままになっていた。
オレは言葉が見つからず、ちゃんは小さな小さな声で一言だけ呟いた。


「なんで」













オレは気づけば亜久津の家まできていて、ドアを強くノックしていた。
出てこないから、俺はインターホンを連打した。もう片方の手は君の
手を放さない。

「宅急便です故郷お惣菜セットをお届けに参りました血判お願いします!」

直後に亜久津家のドアは開いて、亜久津が顔を出した。
「うるせーんだよバカ野郎!」
「ユーキちゃんは」
「いねえよ」
「じゃあ入れて」
「なんで」
「ちょっと話があるの」
「なんだよ」

ちゃんと話があるの!」

「だったら他でやれよ!」
「いいから入れてよ!」


せっぱつまったオレと
停止したままのちゃんを見て
亜久津はゆっくりとドアをあけてくれた。

亜久津の部屋に通された。
正座で向かい合うオレとちゃん。そして俺たちと三角形を形成する
位置に座る亜久津。

さて

オレは君とつりあってないことはうすうすわかってましたが
そんなの俺たちのラブパワーてか主にオレのラブパワーの前では
風の前の塵に同じだとおもってたんですけれどやはり君は優等生で
オレはなんつーかダメダメで、それはあれですかオレが体育以外
オール2だから先生はオレをみてああいったの?他校まで情報が
及んでいるの?んなこたあない。オレの見た目だよ。オレの全身から
かもし出されるアホオーラを見て言ったんだ。髪がいけないの?顔が
いけないの?カバンぼろぼろだからいけないの?ケータイのアンテナ
折れてるから?パンツ見えてるから?てかマジやめてよ。おれだけな
らいくら中傷してもののしってもかまわないから、ちゃんなんも悪い
ことしてないしなんでオレといるだけであんなこといわれてんのなんで
だよ!俺が悪いのかよ!それならそれでいいよ!でもちゃんだけ
は傷つけんじゃねえよあのクソババア!



亜久津が席を立った。亜久津の部屋なのに亜久津が出て行った。

「...あいつ、いいヤツだよね」
「うん」
ちゃんもいい子だよ」
「千石くん」
ちゃんはいい子だよ」
「千石くん」
「だからさー、あのオバハン。オレがだらしないからいけないのになんでオレのほうに
いわねえんだろうね、イシシ」

君の声は返らない。

オレは自分の頭がだんだん下がっていくのがわかった。
オレは髪の毛で顔を隠そうとしてる。
ズボンを掴む手に力がこもってしまう。

「もしかしなくてもオレのせいで君はひどいことを言われたよ」

「千石くん」
君の口調が少し強まった。
いつもやわらかい君の表情がいまは厳しい。

「あなたが謝ったりしたら私は怒りますから」
君の背はしゃんとしている。

「あの人があなたを傷つけたのなら」

肩が震えている。
君の頭はだんだんさがってく。
スカートを握る手に力がこもってる。


泣かないで







「私があの人のメガネを割るわ」






オレが顔をあげていくと君が泣いていないのがわかった。
君が、オレの大好きな優しい君が、
怒りに震えているのがわかった。
それは確かにオレの大好きな優しい君に違いなかった。
オレを想って怒りに震える様子は優しさそのものだ。と思った。




泣かないで



泣かないで



泣かないで






泣かないでくれよ自分。





オレはまた下を向いた。

「うわ、鼻水でてきた。シシッ」
オレはへらへら笑っている声で言いながら鼻をすする。
ちゃんカッケーし」
ちゃんの手がオレの頭の上にのばされた。
やがて、ゆっくりと手の平がオレの髪を撫でた。

「泣いてもいいよ」

手の平がオレの背中に触れる。

「わたしが隠すから」

オレよりも小さな体がオレを覆うみたいに抱きしめた。
オレはちょっと泣いてしまったかもしれない。よく覚えてない。
でもそれはあのオバハンの言ったことが理由じゃなくて、
君に感動したからだ。
そう。そして今こうして抱きしめ返して逆に覆い被さったのも
君に感動したからだ。

ついばむようにキスをするのもそうだ。
首筋と鎖骨のあたりと耳とに唇をあてるのも。
やわらかい。
ぬくい。
赤みをおびたほっぺたを撫でて、右手を着崩れた制服の裾から入


ガチャ


亜久津が麦茶とお菓子をお盆にのせてドアのところに立っていた。


パタン


亜久津はすぐに目をそらすとドアを閉めて退室した。

ええと。
...ラッキー。

オレは着崩れた君の制服の裾から右手を滑り込ませた。
君がビクリと震えドアがドガシャーンと開き、君の舌を捕まえようと動くオレの
やらしい舌が濡れた音をたてると、ビッシャーンとオレの後頭部に麦茶が降ってきた。
たっぷりの氷がやや痛い。


「てめえ人の部屋でナナナナナナッナニやってんだ!!」






























オレとちゃんは二人で亜久津の前に正座してお説教くらいました。
オレの後頭部に降り注いだ麦茶はその下にいたちゃんにも多少
被害が及んだので、シャツが身体にぴったりしちゃっててセクシーでした。
亜久津がだんだん言葉少なになって前傾姿勢になったので、お説教は
早々終了しました。
んで、オレとちゃんは亜久津の服を借りて夜は亜久津ん家で夜ご飯を
食べちゃいました!

「えー!仁ってちゃんが好きなのー!?」
「そうなんだよユーキちゃん!」
「ちげーよ!」
「じゃあ嫌いなの?」
「嫌いにきまっ」
「あーんちゃん泣いちゃいそう」
「泣かないで、オレがいるから、ね」
「いいんです。私の性格が悪いから亜久津さんは私のことを嫌...」
「...べ、別に嫌いじゃ」
「じゃあ好きなんだ!きゃ!」
「あ、ちゃん醤油とって」
「はい千石くん」
「あんがと。って今の新婚みたいだねー」
「他人の家に住んでる新婚がいるかよ!」
「仁ったら嫉妬したからって怒らないのーアハハー!」



泣くなよあっくん!



オレは今日、君の怒りに最上の優しさを見たんだ

君の横に並ぶのに相応しい男になるよ

そのためならオレは世界中の君を傷つけるメガネを割ってみせるから




back  おまけ