3月某日

イギリス、ロンドン―――

ポストを覗くと、ダイレクトメールと筆まめな小野田からの手紙のほかにもう一通封筒が届いていた。
裏を見ると、一応、その、なんつーか、去年の夏に付き合い始めた幼馴染の名前がある。
時差でなかなか時間が合わないが、かつてのように窓の外見てたまたまいたら話すような頻度で連絡はとっている。こっちはなにもかもが新しい生活で慣れるのに必死ななかで、いつもと同じ要素がひとつでもあることに多少は救われてもいた。
不満と言えば、めんどくさがりで人嫌いの俺がちょっと問題に思うレベルでから話しかけてくることが少ないことくらいだ。東堂からは俺がオンラインになった瞬間にビデオ通話がはいるというのに。機械オンチのあいつのことだから自分からビデオ通話をする操作がわからないだけだと、そう思っている。
そのとは、一週間前にSkypeで話して以来むこうがオンラインにならないから話していなかったが、今日こうして封筒がわざわざ届いたことに疑念を覚えた。パソコンでも壊れたか。
ロードを抱え、カンカン鳴る階段をのぼり、鍵をあけ、部屋に入ってから封を切った。
中には何枚かの写真が入っていた。

「クハッ、すげえ」

前髪をくずし、思わず笑う。

路肩にまだ雪を残した箱根神社の大鳥居の下、サイクルウェアのが両手を青空につきあげて全力で笑っている。
写真の裏には「パソコンで写真を送る方法がわからなかったです。てっぺんとったッショ!」とサインペンで書かれていた。
今すぐ会って抱きしめて振り回してやりたい。
柄にもなく気が逸り次の写真をめくった。
二枚目は芦ノ湖でが笑ってる。
三枚目は芦ノ湖で東堂が笑ってる。

東堂ブッ潰す



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