御堂筋とユキちゃんの春夏秋冬



御堂筋とユキちゃんの節分



ユキちゃんは季節行事にアツい。
夜も更けたころ、ノックもなしに16歳の住む部屋の戸を開いたユキちゃんは、袋に入った豆を右手に、頭上に鬼の面をいただき、あいた左手は腰にあて、仁王立ちして、御堂筋が「なんやの」と離れの玄関に出てくるのを待ち構えていた。
うげえという顔して御堂筋が姿を現すとユキちゃんは元気よく言った。
「お豆いかがですか!」
「間に合ってマス」
ピシャリと戸をしめるとまたすぐ開けられた。
「翔兄ちゃんユキと節分のお豆投げよな!」
満面に笑うユキちゃんのメンタルはヨワ泉くんよりよっぽど大したもんや、と御堂筋は思った。
「てかここ寒っ!また暖房つけてへんの、風邪ひくで翔兄ちゃん。うちのクラスあと三人インフると学級閉鎖ゆうトコまできてんねんで」
「湯たんぽあるし」
「あ、使ってくれてるん!?うれしなあ、毛布もええやろ」
「ええよ、ほなら、豆投げたらええの」
「うん!これ豆な」
「えらい少ないな」
「外投げたらもったないやろ」
3粒程度が渡され、ユキちゃんも玄関のなかに入って揃って外を向いた。
「いくで」の合図で
「鬼わーそと!」
「オニハーソト」
「福わーうち!」
「フクワウチ」
鬼が逆に自信を失うのではないかというほどの少量の豆が地面にころがった。
これで仕舞い、さっさと引っ込もうとした御堂筋の背に
「これで箱根の鬼もギッタンギッタンやな!」
と声がかかった。
振り返ると、ユキちゃんは御堂筋と似た歯並びの歯を大きく見せて笑う。
「うち月刊サイクルタイムちゃんと読んでるもん」
「…そら、物知りやな」
「うん!」
「…」
「翔兄ちゃんの記事ほんまは雑誌切り抜いてかわいいスクラップブック作りたいねんけど、かわいいマステ、あ、マスキングテープな、あれ、結構高いんよ。だからうちが高校生になったら作ったげるな」
「おおきに。ほなな」
「でも新開って選手もものっそカッコええなぁ。スクラップブック2個いるわ」
「…」
「あ、でも翔兄ちゃんのがうちダントツ応援しとるよ!はい、めっちゃ福は内。ほな、おやすみー」
袋ごと豆を御堂筋に押し付けユキちゃんは来た時と同じく元気よく母屋へ帰って行った。
「…」
御堂筋はしばらく玄関に立っていて、やがて首だけコキンと傾げた。

「ハコガク ブッツブシマーーーーーーース」





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