赤丸部分の絵、さてなんに見えますか?
上流側左より三番目、二層アーチの壁石部分
 
 Pont du gardの伝説

その1. 日本人ガイドによる説明

 「ポン・ジュ・ガールは造るたび洪水で流され、大工の棟梁が困り果てていたところ、悪魔がやってきて、「生きた人間を贄に寄越せば俺が一晩で架けてやる」と言ったが、棟梁は生きた人間を贄に差し出すのに忍びず、うさぎを橋の上に放ったところ、人間でなくうさぎと知った悪魔は怒り狂い、うさぎを壁石にぶつけて出来た跡がこちらです」。
 私はこれを聞いて、完全に思考停止に陥ってしまった。いくら伝説とは言え、悪魔がこの巨大な石橋を一晩で架けたなどと、どうして信じられよう!
 

その2.「橋の歴史」山本 宏著より抜粋

−悪魔と野うさぎと女性−

むかし−どれほど前かわからない。流れが急で油断のならないガール川に橋を架けることになった。しかし、工事の責任を負う石工頭の力では無理だった。ガールの洪水は、彼のアーチをたたき壊してしまった。落胆した彼は、破壊した自分の作品を見ながら、「わしが、この橋をつくり直して、これで三度目だ。悲しいかな。悪魔の力を借りるよりほかに手はないのかー」とつぶやいた。すると突然、彼の前に悪魔が現れ、「お前さんがお望みなら、永久に流れない橋を架けてやろうか」という。わらをもすがりたい気持ちの石工頭である。「それならお願いしようか。報酬は何をお望みか?」。悪魔は「たいしたことはない。最初に橋を渡った者が、わしのものになればよい。それだけだ」といって、角とひずめで山腹から石を削り取って、さっそく橋をつくりだした。

 石工頭は妻の所に帰って、悪魔の約束を話した。「橋は明日の夜明けまでには完成するだろう。しかし、そのために不運な魂がいけにえになる。誰がすすんで犠牲者になるだろう」。彼の話を聞いて、妻はいった。「ついさっき、猟犬が野うさぎを追いかけて行ったわ。そうよ。野うさぎよ。野うさぎをつかまえて、橋の上に放てばいいのよ!」。

 妻の発案に手をたたいて喜んだ石工頭は野うさぎをつかまえて、お祈りの時刻を知らせるアンジェラスの鐘が鳴るのとともに橋の上に放った。

 橋の向こうで寝て待っていた悪魔は、素早くうさぎをつかまえて袋に入れた。しかし、それが野うさぎと知って怒り狂い、うさぎを橋に投げつけ、呪いの言葉とともに川の中に消えていった。それ以来、いまでも野うさぎは、この橋に寄りつかない。そして、女性は悪魔をだます、といわれるようになった。

 この伝説との関係はわからないが、ガール水道橋の第2層アーチの右岸から3番目のアーチの上の下層側壁石に、男根の浮き彫りがある。悪魔から守るためである。一般に、ローマ人は公共の建造物に男根を描いたという。ローマの女性たちが首のまわりに同様のものを付けたのも同じ理由からだった。ローマの磁器は、カップやグラスの形をとってこれを描いている。

その3. 南仏の星と東方の三博士−大正初期の日本とプロヴァンス−石塚出穂著
      http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/7929/2/ff026005.pdf参照
 石塚出穂氏はプロヴァンス語で書かれたフレデリック・ミストラル(1830−1914)の「ネルト」の詩の中で、ポン・ジュ・ガールの伝説を紹介している(P.103-104)。

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