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『チカクカビン』




1の色:黒


玄関の扉が開いて一人の少女が我が家に帰ってきた。

「お、智香(ちか)お帰り。」
帰ってきた可愛い妹の出迎えをする俺。

「……。」
だがその可愛い妹は、俺の出迎えを完全無視して家に入っていった。

「なんだよ智香、つれないなぁ。」
「! 触らないでよ!!」
智香の肩に置こうとした俺の手が乱暴に叩き落とされた。


「痛った…… なにも叩かなくてもいいだろうが。」
「……とにかく、触らないで。 近寄らないで。」
「……そんなに毛嫌いするなよ。 ちょっと前まで智香の方が俺にベッタリだったのにさ〜」
そう言って後ろから抱きつこうとした瞬間、下半身…ズバリ急所に重い打撃の感触がした。

「ぐ、ぐぉぉぉぉ……」
たまらず悶絶して崩れ落ちる体。
俺が後ろから抱きつこうとしたところに合わせるように、
智香は前に足を振り上げて、思いっきり後ろへ戻し、俺の股の間を蹴り上げたのだ。
これがまさしく『急所蹴り』
幸運なことに、智香の背が低いせいで威力が弱まったのと、
腿の辺りが当たったからいいものの、もし踵が直撃していたら玉が潰れかねない危険な技だ。
(良い子の妹ちゃんは絶対マネしないように!!)



「お、お前… 兄に向かって、なんちゅう事を……」
「ふん……!」
そっぽを向いて自分の部屋へ向かう智香。
うずくまる俺は、自分の腰を叩きながらそれを見ていた。

「……お前ら、ホントに仲悪いな。」
「うっさい… 偶にしか帰ってこないくせにこんなトコばっかり見てんじゃねーよ…」
通りすがった親父が、手も貸そうとせずにトイレへと籠もる。


……ちょうど半年前ぐらいまでは、俺と智香は仲良し兄妹……いやそれ以上の仲だった。
智香はちょっと意地っ張りな所があるが、実はすごく甘えん坊で、
両親がいない間…つまりはいつものように俺にくっついていた。
俺も、妹を面倒見るのは兄としては当然だと、
そうして妹を思うのは兄の務めだと…いまでも思っている。

だけど…二人の体が大人になるにつれて、それが次第に違うもの……
互いの体への興味、そして性行為へと発展するのに、そう時間は掛からなかった。



しかしいまや、愛し合った可愛い妹…智香は徹底的な兄嫌いへと変貌している。
そのきっかけが何であるのか、俺には皆目見当も付かない。
ただひたすら毛嫌いして俺に触れようともすらしない。
ちょっと前まで一緒の布団で寝て、毎晩可愛がっていたのに…(ノД`)

親父がトイレから出てくる。
俺はようやく痛みが退いたので立ち上がってズボンを直したところだった。


「……2時間ぐらいしたら出るからな。」
「ん。 帰るのは?」
「わからん。 月曜には寝に帰るかもしれん。」
「ん。了解。」
短い会話。 これが親子でのコミニュケーションなのかよ、と思える。

「……母さんは、」
「え?」
「母さんは、元気だ。」
「……あっ、そ。」
親父に言われてもしょうがない。



母さんは、親父以上に家庭という物を拒絶していた。
俺達より親父の方が母さんによく会ってる。
俺は少なくとも今年に入ってから母さんの顔すら見ていない。

明確に確認したわけではないが、親父と母さんは籍を入れていないらしい。
俺達は親父の子供ではあるが、母さんの子供とは認められてない。法的にはそうなる。
その辺の詳しい事情を語ってくれないのには、もう慣れていた。

昔は、母さんもこの家に居てくれたのに…… いまは妹と二人だけ。



だからこそ、仲良くしたいのに、なぜ智香はわかってくれないのだろう……

黙々と食べるだけの食事。 二人きりの食卓が沈黙に包まれたまま終わる。
そのまま黙々と食器を片づける俺。

「はぁ… ちょっと前は一緒に食事を作って、一緒に片づけて…

 そう!裸エプロンしてくれたのに…」
ちらりと見えるまだ小さな胸と丸出しのお尻にかなり欲情でき……

瞬間、俺はなんかの殺気を感じて身を翻した。




ごっ


振り下ろされた拳が、回避したスペースを通過していた。

「はいコレ。」
智香の手にはコップが握られていた。 もし回避していなかったら頭に直撃していたであろう…
「あ、ああ…」
コップを受け取りながら智香を見送る。
無言の向こうに、消し去りたい過去への殺意が感じられた。



「はぁぁ…」
風呂桶に湯を入れながら、ため息を付く。
「そう… 毎日一緒にお風呂に入って、洗いっこして、可愛く喘いでたのになぁ…」
すべすべと滑らかな肌に手を這わす感覚と、
一回り小さな手が俺の体をまさぐる感覚は、切なさと共に快感を……

  !!

風呂場の鏡に、俺の姿と…智香が映されていた。
背後にいる気配が、風呂場に充填されていく。



「ど、どうした智香?」
恐る恐る聞いてみる。
「……別に。」   『  他  言  無  用  』とオーラが語る。

雰囲気を払拭すべく、軽く提案してみる。
「なあ智香… 今日は一緒に風r…」

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怒気が見る見るうちに殺気へと転じていく。
「冗談でしょ?」
「ハイ冗談デス。」 …………_| ̄|○コエエヨ



そのままお互いが顔を合わせることもなく、家の中が眠りの時間を迎える。

……なぜ智香がこれ程までに俺を毛嫌いするのかはわからないが、
俺がいまの智香に対してわかっている事が一つだけある。
それは、まだ智香は俺に甘えたい… 俺に、抱かれたいのだという事……

隣の智香の部屋に対して唯一壁の薄い部分…押し入れの壁に耳を当てる。
「ん、ふぁぁ…」
智香の喘ぎ声が聞こえてきた。 おそらく一人で火照る体を慰めているのだろう。

元から性感に対してかなり敏感な智香が、半年も経ってないのに、
長年染みついてきた俺の感触を振り払えるはずもない。
初めて明確な愛撫というものをしたとき、智香はまだ×歳だったのだ。
それから何年もかけて、俺は毎晩のように智香を愛し続けていた。


「は、やっぱり、怖い……」
智香の囁きは、おそらく膣内に指を入れるのを躊躇っているのだろう。
それよりも大きなものを受け入れていながら、
智香にはそれに対する戸惑いがまだ残っているようだった。

だからこそ、毎晩疼く体を治めてやるのも俺の役目……だった。

…………

『お兄ちゃんのせいで、こんなHな体になったんだよ…… 責任、取ってよぉ……』
『責任、ってもなぁ… 結婚とか、出来ないぞ。……兄妹だし。』
『……わかってる。 でも…………

 智香は、お兄ちゃんの物だから…ね…』



…………そうだ。 最初から智香は俺の物だったんだ。
智香自身がどう言おうと、智香の体を誰よりも俺は知り尽くしている。

そう…俺は毎晩、智香を愛し続けていた。 智香を、愛していた。 智香、も……
それは、兄としてでもあり、『男』としても…

「お兄、ちゃ…… んんん……」
辺りへ、特に隣の部屋には絶対伝えさせまいと噤む口が、逆にくぐもった声を耳に響かせる。

まだまだ全然満足してないんだろ…? いま俺が、イかせてやるからな……

続く