俺の目の前で、一枚、また一枚と、身に纏っているものを脱いでいく少女。
邪魔な衣服が取り払われ、
その触れるもの全てを弾き返すかのような瑞々しさに溢れた肌がその下から表れた。
少女が俺を受け入れるように手を伸ばす。
「はい。 これがあたしからのクリスマスプレゼントだよ。」
「……本当に、いいのか……?」
「……うん。 あたしのこと、好きにしていいんだよ。
あたしは、ずっと、待ってたんだから……」
少女の名前は瑞季。 俺の…妹だ。
俺は駅に向かっていた。 年末に俺を実家へ帰省させる為に妹の瑞季が来るからだ。
もう瑞季の乗った新幹線はもう着いていたらしく、俺はすぐに瑞季と合流できた。
「や〜、久しぶりだね。」
「そうだな。」
……色気のない挨拶だ。
「しばらくこっちに居るんだろ。 ホテル代とかあるのか?」
「そんなの、『お兄ちゃんの部屋に泊まれ』って言ってくれなかった。」
「……散らかってるし、そんなに広くないぞ。」
しばらく俺の寝床は冷たい床になりそうだ。
ようやく帰宅できた。瑞季はもう眠っている。
俺の仕事はいわゆるケーキ職人ってやつだ。
年末のこの時期はクリスマスに向けて書き入れ時になる。
俺のような若い下っ端は、まさしく朝から晩まで働かされているわけだ。
(もしかしたら労働基準法違反なんだろうが、
そんなこと言ってたら働けないしちゃんと金はくれてるのでマシなほうだ。)
最初の頃は材料の運搬やゴミ捨てぐらいしかさせてもらえなかったが、
今ではちゃんと製作工程に入れてもらってるし、売り物も作らせてくれる。
なにより一種芸術を作っているとも言えるこの職業を、俺は好いていた。
朝御飯は売れ残ったケーキを食べる。
ケーキが嫌いな女の子なんて存在しない。 例によって瑞季もケーキが大好物になった。
「これ、お兄ちゃんが作ったの?」
「いいや。 俺なんてショートケーキぐらいしか作らせてくれないよ。」
「ふーん。 でもさ、なんかテレビに出てるみたいな飾り付けとかは出来るんでしょ?」
「そりゃ、これでも職人なんでな。」
実を言うと帰ってから時間のある時はケーキの制作を練習している。
と言ってもスポンジケーキを焼けるようなでかいオーブンがあるわけでもなく、
もっぱらデザインや材料の研究だったが。
でも一応クリームの容器とチューブはあって、デコレートの練習もしていた。
今日は大きめのケーキを作れることになった。
まずは薄いスポンジケーキにクリームを塗ったくる。
そうしてできた土台にカットしたフルーツをちりばめ、その上にまたスポンジを乗せる。
コレが三層ぐらいになると周りをクリームで固めていく。
中身が出来たらその上に見栄え良く盛りつけをして、さらにクリームでデコレートをする。
これを手早く、正確にすれば見事なワンホールケーキのできあがりになるわけだ。
(この製作工程は全て作者のテキトーな空想であり、詳しくツッコまれると言い訳すら出来ません。)
途中、何度も先輩から手直しがあったが、なんとか合格できたらしい。
俺の作ったケーキがウィンドウに並べられ、客がそれを買って食べてもらえるのだ。
これに勝る喜びはない。
今日は1日休みを貰っていた。
クリスマス商戦を前にして休息があるのは実にありがたい。
きっと職場では俺と同じような下っ端がこき使われているのだろう。
俺は瑞季と外食に出た。
「いつもいつもケーキみたいな甘ったるいものを食べているから、さっぱりしたものが食べたい。」
とのリクエストで寿司になった。 …回転寿司だが。
目の前を大量生産品のケーキが流れていく。
「うえ〜、ココにもケーキがあるよ〜〜」
瑞季が愚痴る。いくら好きでも連日ケーキ三昧だと飽きが来るみたいだ。
風呂上がりの妹が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、明日…」
「24、25はダメだぞ。 一年で一番忙しい時なんだから。」
「そ、そうだったね…」
「……ねえ、お兄ちゃんは、知ってるよね。」
「何を。」
「あたしの、気持ち……」
「……。」
その一言で、寒い部屋の温度が少しだけ上昇した。
二年ほど前…ちょうど俺が実家を出る前日…俺は瑞季から告白を受けていた。
それは、ただ妹が兄に対して思う感情以上のものを、瑞季が抱いているということだった。
瑞季は俺が実家を出ることを知って募る思いが爆発したらしい。
しかし俺はその返答を避け、まるで瑞季から逃げるように上京した。
……兄妹で愛し合うなんて、許されない事だからだ……
「だから、その……」
「瑞季… お前、まだ…」
「クリスマスの夜… あたし、プレゼント用意して、待ってるから……」
寝室へ消えていく瑞季。
俺は、どうすべきなのだろうか…
この2日間は…とにかく働いてる間の記憶しかなかった。
いつ家に帰って、いつ出勤したかも覚えていない。
俺はその時きっとケーキを作るマシーンの歯車と化していたのだ。
そしてクリスマスが終わり、その歯車から解放された俺は
へろへろの体でようやく家へとたどり着いたのだった。
「きゃ…!」
ベッドに倒れ込んだ俺の体の下から小さな悲鳴が上がる。
あ、そうだった。 瑞季がいたんだった。
「お、お兄ちゃん……」
「ゴメン… いま、出てく…」
起き上がろうと持ち上げた重たい頭が、温かい瑞季の体に抱かれる。
「……いいよ。ココで寝てて。」
そう言われて瑞季に頭を撫でられると、俺はもの凄い睡魔に襲われてそのまま意識を失っていた。
……何かが、何か重要なことがあった気がする…… なんだっけ……
……瑞季だ。 瑞季は、俺を見ながら……
……今日は、クリスマスの夜…… ……瑞季……
「お兄ちゃん… 好き…いまでも…」
俺の頭を抱いたままで瑞季が言う。 その目は恍惚としながらも、どこか寂しげだった。
「……それがお前のクリスマスプレゼントか?」
「!!」
二時間ほどしか眠っていないのに、今の瑞季の一言ですっかり目が覚めた。
「……起きてた、の?」
「起きたんだよ。 で、いまのが瑞季のクリスマスプレゼント?」
「ち、違うよ! とっておきのプレゼント、用意してるんだから……」
俺の目の前で、一枚、また一枚と、身に纏っているものを脱いでいく瑞季。
邪魔な衣服が取り払われ、
その触れるもの全てを弾き返すかのような瑞々しさに溢れた肌がその下から表れた。
瑞季が俺を受け入れるように手を伸ばす。
「はい。 これがあたしからのクリスマスプレゼントだよ。」
「……本当に、いいのか……?」
「……うん。 あたしのこと、好きにしていいんだよ。
あたしは、ずっと、待ってたんだから……」