第9話
「時空石」による「実装世界の樹立」が宣言された以降も
彼、「実装涙」は「実装デビル」から
人間を守る為この地域を離れずに居た。
そんなある日の事、
遠出のスキを突かれ避難所が襲われた。
実装涙が到着した頃には教会もテントも消し炭と化していた。
ココは子や親、連れを亡くした者達の集まりで
実装涙とも顔なじみであった。
遺体は34体、
逃げ出せた者はいなかった…
子供達が実装涙へのプレゼントとして編んでいたマフラーが
灰の中でわずかに残り、燻っていた。
この仕業は「実装デビル」達では無く
「人間」達によるものであった。
デビル達は銃や刀で襲わないし、 略奪強姦などしないからだ。
実装涙は五感を研ぎすます能力「超感覚」 で
遥か遠くの強盗団を発見し、追跡、行く手を阻む。
そして怒りに身を任せ、瞬く間に彼らを
殺さず叩き伏せた。
『貴様らを裁くのは人間だ!』
そう言い放ち、近くの自警団に強盗団を引き渡し
彼は立ち去った。
教会へ戻り、長い時間塔から地平線を眺めていた。
風が流れる先に時空石がいる、
決心を固めた。
補足
・強盗団
デビルに抵抗するわけでも無く武装し
中〜小規模の避難所を襲っては
物資を略奪、殺人などをする集団。
馬に乗って移動している。
デビル=悪
人間=被害者
では無い事を説明するため用意した話である。
「真の悪とは人間の中に存在している」
と言った所だろうか。
人間を救済したいのに当の人間に裏切られる、
そんな実装涙のやり切れ無さ、心の揺らぎが描写されていて
3話のヒロイックな描写と比べられるシーンだ。
この話で実装涙のデザインや性格も決定している。
・避難所
デビル達の襲撃から逃れるために各地に点在している。
実装涙はいくつかの避難所を自主的にパトロールしていた。
多くの避難所では実装石である彼を快く思わなかったが
襲撃された避難所のように
家族のように受け入れてくれた所もあったのだ。
・超感覚
進化した実装石達には何らかの特殊能力が備わっている。
(後の話で「実装魂」と表現している)
涙の能力、超感覚は
視力や聴力などの五感と
運動神経などを限界まで引き上げる事ができる。
しかし副作用もあり(23話にて描写)
超感覚を使用した後
五感のいずれかが一定時間機能停止してしまうのだ。