第11話
未来石、
彼女は「時空石」によって歪められた過去を正すために
未来世界から派遣された。
この世界に到着してから2日目の朝、
「実装レーダー」の故障から深い森に迷い込んでいた…
そこで動植物が極ありふれた生命として存在している現代に唖然とした。
『すごいですぅ…本当にこんな世界があったなんて。』
彼女の眼には我々が想う「恐竜時代」さながらに映ったに違い無い。
『樹の幹が、緑があんなに大きくなるなんて
まるで命の爆発ですぅ。 それにこれはリス?
モニターの映像では無いのね?』
直に触れたい衝動は
「大気組成計測器」の数値によって抑えられた。
未来石にとってこの世界は地獄に等しい環境なのだ。
『さようならリスさんですぅ…私行かなきゃ』
孤独な行軍は続き、夜半に仮眠を取る事にした。
「実装強化服」は膨張変形させる事でテントになる。
元々は民間のサバイバルスーツのため
快適な睡眠を取れる事は幸いである。
安定した生活、
恋人を捨て志願した仕事だが後悔はしていない。
どのみち任務が成功、失敗しても
自分の知る未来世界は無くなり帰る所も無くなる。
決死の任務に相応しいすばらしい世界に来れたのだから。
補足
・ありふれた生命
未来石の世界では
地球の急激な環境悪化により人類は宇宙での
生活を余儀無くされていた。
そこは限られた生命だけの、 永遠に彷徨うノアの方舟。
そんな世界しか知らない未来石にとって地面から生える木樹、
際限なく流れる清流、絶えずそよぐ風、
土中で生きる生命達はどれほど輝いて居た事だろうか。
そして人間。
未来では宇宙環境に順応しようと実装石達と共に
研究を重ねたが人間は次第に人口を減らし、
希少な生命となっていた。
・大気組成計測器
強化服に装備された外部の空気計測器。
未来石の世界と現在の世界とでは空気の質が大きく変化している。
それに加え彼女らは宇宙生活に
順応するため体質を変化させている事から
未来石ら未来の住人が生身で生活するのは不可能と言える。
・実装レーダー
実装石が出す特殊な電波(実装魂ともいう)
をキャッチする装置。
故障してしまった事から未来石の予定は大きく狂う。
・孤独な行軍
行軍、主に「徒歩や車両による集団での移動」の事。
なるべく過去世界の住人との接触を避ける目的があったと思われ。
・サバイバルスーツ
文中に有るように民間のサバイバルスーツを改造したもの。
未来世界は宇宙空間という限定された世界である。
国家と呼べる程の大きな組織も無く、
戦争をする程争うモノも主義も存在せず、
戦闘をする道具も武器も必要としないため
強化服に装備されている武器は「眼潰し」や「催涙ガス」程度で
見た目程威力が無いのだ。
唯一の頼りはパンチと数発の特殊弾による射撃だけである。