雪の石畳の路……
第十一話 なかま
=嵐の後の……=
「勇斗ぉ、遅い!」
集計を終え居間に入ると膨れっ面をしながら料理をテーブルに運んでいる千草と穂波の姿、一葉は物足りなそうな表情でソファーに座っている。今日は連休最終日、打ち上げをやると千草は料理に勤しんでいた。
「わりぃな、ちょっと手間取った」
勇斗はそう言いながらいつも自分の座る場所に腰をおちつける。テーブルの上には美味しそうな料理が湯気を立てている。
「あっ、勇斗さんビール持って来ましょうか?」
一葉がそう言い腰を浮かせると夏穂がキッチンからビールを持ってくる。
「ハイ、お兄ちゃん」
ニッコリと微笑む夏穂に対して一葉は苦笑いを浮かべ再び腰を元の位置に戻す。
「ウフ、困りました、みんなに仕事をとられてしまいました……」
一葉はそう言いながらも微笑んでいる。どうもこの状況を楽しんでいるみたいだ。
「一葉さんもゆっくりすればいいじゃない?」
勇斗はそう言いながら一葉にビールを注ぐ。
「そうですね? では、モテモテの勇斗さんに乾杯」
おいおい、洒落にならないよそれは……。
苦笑いを浮かべる勇斗に対して一葉はニッコリと微笑む。
「お兄ちゃん、あたしも乾杯!」
夏穂が慌てたようにジュースを持ってくると勇斗の隣にちょこんと座る。
「ハハハ、ウン夏穂ちゃんとも乾杯」
「おっ、兄貴終わったのか?」
ちょうど夏穂とグラスを合わせているときに風呂から出てきたのであろう和也が居間に戻ってくる。家主より先に風呂に入るなんていい度胸じゃないか?
「俺もビールがいいなぁ……」
勇斗の持っているビールをチラッと物欲しそうな顔で和也が見る。
「駄目です、和也君は未成年なんだからジュースよ」
一葉にそうたしなめられると残念そうな顔をしてキッチンに消える。
「じゃあ、打ち上げを開始しましょうか、勇斗何か一言」
テーブルの上に料理が溢れんばかりに並べられ、料理を終えた千草と穂波がエプロンをはずし席につく。
「あん? 何か一言って……」
勇斗が困惑した表情を浮かべる。
「兄貴はこの店の店長代理なんだろ? 打ち上げで何か一言言わなければ」
和也は意地の悪い顔をしながらグラスを持つ。
「わかった……コホン、とりあえず皆さんお疲れさんでした、忙しい中朝早くからの営業に付き合ってくれてありがとう」
勇斗は素直に頭をさげると、みんなちょっと照れくさそうな表情を浮かべる。
「売り上げなんかは親父が管理しているだろうから正確なものはわからないけれど、きっといい数字を残せていると思います」
勇斗はみんなの顔を見て言う。その顔は本当に満足げだ。
「これは本当にみんなのおかげです、みんなが殊勲賞だと俺は思っています、それに千草は観光に来たにもかかわらずに店の手伝いをしてくれたし助かった、本当にみんなありがとうございます」
再び勇斗が頭をさげると、どこからとも無く拍手が起こる。
「先輩もお疲れ様でした」
穂波のその一言に勇斗の顔がほころぶ。
「さぁ、それでは打ち上げを開始するか! カンパァ〜イ!」
勇斗の一言で打ち上げパーティーが始まる。
「はぁ、美味しいぃ……千草さんの料理って本当に美味しいね」
乾杯を済ませ、アルコール組の勇斗、千草、一葉以外のメンバーは一斉に盛り付けられたお皿に箸を向ける。その料理をパクつく夏穂は無邪気な顔をして千草の顔を見る。
「ウフ、ありがとう夏穂ちゃん、こう見えても料理は大好きなのよ」
照れたような笑顔を見せながら千草は夏穂を見る。
本当に千草の料理は美味い、自慢するだけの事はあると思う。東京でも何度となく作ってもらったが、その都度感心するほどの腕前だ。
「ホント、千草さんの料理は凄いですね? 手際がいいから手伝っていたはずなのに、逆に足を引っ張っていたかもしれません」
穂波はそう言いながら申し訳なさそうな顔を千草に向ける。
「そんなことないわよ、穂波ちゃんのおかげでこれだけの料理が作れたんだもん、ありがと、助かったわ……それに穂波ちゃんの作った肉ジャガなんて最高に美味しいよ、やっぱり誰かさんのためになのかな?」
盛付けられた肉ジャガに箸を伸ばし千草が意地悪く微笑む。なんだか急に仲が良くなったように見えるのだが……それは喜ばしい事なのだろうか、俺にとっては?
「そ、そんな……ことは……」
穂波はそう言いながらモゴモゴとうつむいてしまう。
「お疲れさん……って飯食い終わったのか?」
テーブル上の料理があら方片付いた頃、居間に鉄平と穂乃美が入ってくる。
「何だ親父、こんな時間に珍しいな……なにを企んでいるんだ?」
勇斗は疑念の目で鉄平の事を見る。
何度この親父にだまされた事か……こうやっていきなり来るときは絶対に何か企んでいるはずだ。そうに決まっている!
勇斗の目がどんどんとつりあがるが、その視線の先の鉄平は苦笑いを浮かべている。
「企んでいるなんて人聞きが悪いな……今日はみんなにお礼を持ってきたんだ」
鉄平はそう言いながらソファーにどっかりと腰を下ろす。穂乃美はキッチンに消えたところを見ると洗い物をしている一葉と穂波を呼びにいったのであろう。
「なんだよ、もったいぶって……とっとと話せばいいじゃないか」
勇斗の目はつりあがったままになっている、和也も良く知ってか怪訝な表情で鉄平を見つめている。
「なんですか?」
居間には風呂に入った夏穂以外が全員集合した。
「コホン……みんなのおかげで今回の連休中の目標を大幅に上回ったことはこの有川商店の店主であるわたしから御礼申し上げます……ありがとう」
鉄平は真面目な表情で穂乃美と一緒にみんなに向けて頭を下げる。その様子を勇斗たちは何が一瞬起きたのか理解できずきょとんとした表情を浮かべる。
「勇斗のアイデアと言う事だが、みんなが協力したからこそできた事だと思う、朝早くから夜遅くまで本当によくやってくれたと感謝している、そこでみんなの慰労をかねて、こんなものを用意した」
テーブルの上に封筒をそっと置く、その封筒には登別にある有名旅館の名前が印刷されている。
「……なんだこれは?」
まさか爆発物などは入っていないであろうが、期待しすぎてがっかりする事はよくあることだし、この親父がそんな祝勝なことをするなんで考えられない。
「見てわからんか? これは登別温泉の名旅館『第一滝本館』の無料宿泊券だ」
その名前に千草が反応する。
「知っています、登別温泉で大きな旅館ですよね? 確か源泉をいくつも持っていて、お風呂の数もいくつも有るとかって聞いたことあります」
千草の笑顔が膨らみ、その笑顔の先には気押されたような表情の勇斗がいた。
「それは分かった。それをどうするというのだ?」
勇斗は千草のその視線から目をそらし鉄平の顔を見る、その顔はまだ笑顔だ。
「だからこれをプレゼントするというのだが」
鉄平は相変わらずひょうひょうと答える。
「明後日からの週末三日間は、俺と穂乃美さんの二人でお店をやるから勇斗たち全員で行ってくるといい、慰安旅行だな」
微笑む鉄平の目は優しいもので、ちょっと勇斗は意外に思う。
慰安旅行って、俺が考えていたことと同じことを親父も考えていたのか? 参ったね、やっぱりなんだかんだいっても親子なのかな?
「アハ、先輩と同じ考えだったんですね?」
穂波は嬉しそうな笑顔を勇斗に向ける。
「でも金曜日は和也や夏穂ちゃんは学校じゃないのか? まさかサボらせるとか」
そうだ、連休が終われば学校は始まる、学生を本業にする二人はどうする。
「俺と夏穂ちゃんは、明日一日学校に行けば金曜日は創立記念日で休みなんだ」
「金曜日は休みだよ」
風呂から出てきて頭を拭きながらいる夏穂と和也が笑顔を浮かべる……そうか、夏穂も和也の通う高校と同じ付属中学だったな? 都合が良いというか……。
勇斗は苦笑いを浮かべるものの、鉄平のその心配りがちょっと嬉しかった。事実お店の売り上げが良かったのはみんなが力を合わせた結果だからだ。
「親父……ありがとう」
勇斗は鉄平に向けて素直に頭を下げる。
「ハハ、お前に礼を言われるのは気味が悪いな? 千草ちゃんも日曜日まではこっちにいられるんだろ?」
照れたような表情を浮かべる鉄平は話題を変えるように千草の顔を見る。
「はい、日曜日の最終便まで大丈夫です」
千草も満面の笑みを浮かべながら鉄平を見る。
「それは良かった、せっかく観光に来たんだからゆっくりと見てくるといいよ」
鉄平のその一言に千草は大きくうなずく。
=しゅっぱぁーつ=
「忘れ物とか無いか?」
朝早い有川商店の店先にはワンボックスカーが横付けされ、勇斗と和也がそれに荷物を積み込む。
「ハイ、大丈夫ですね……夏穂、大丈夫?」
なにやらごそごそと荷物をかき回している夏穂に穂波が声をかけると慌てながらも荷物を車に載せる。
「ウン、大丈夫」
夏穂の手には携帯型ゲームが持たれている。
「じゃあ、気をつけて行って来いよ」
運転席に座る勇斗に鉄平が声をかける。
「あぁ、店番よろしくな」
勇斗はシートベルトを締めながらニッコリと微笑みながら鉄平に言う。
「それでは、しゅっぱーつ」
セカンドシートから夏穂が元気に身を乗り出す。
危ないから……ちゃんとシートベルトは締めておいてね?
「先輩、新道を通っていきますか?」
助手席に座る穂波が地図を見ながら声をかけてくる。
「そうだな……」
勇斗はハンドルを操りながら車を国道に導く。
「勇斗はこっちの道大分覚えたの?」
左折を二回繰り返し、市電の線路の真横を勇斗たちの車が走る、結構気を使う場所でもある。
「まぁ、何とかね、自転車でよく走った事のある市内なら大体分かるよ、たまに一方通行だったりするけれど」
苦笑いを浮かべながら信号で止まると隣に市電の車両が止まる。
「でも、先輩は運転上手だからいいですよ、お母さんなんて信号は見落とすし、歩行者は無視するし、高校時代は『あたしが免許取らなければこの人が犯罪者になる』なんて思ったぐらいなんですよ」
穂波は苦笑いを浮かべながら勇斗の顔を見る。
おいおい、穂乃美さんってそんなに危険な運転するのかい? あんなおっとりしているように見えても。
勇斗は苦笑いを浮かべつつもバックミラーに移る一葉を見る。
あの人も危険だったよな……。
「でも、みんな免許持っているんだね? あたしも取っておいた方がいいのかなぁ」
千草は思案顔でそういう。
「まぁ、こっちでは車が無いと何かと言うと不便だから必然的に取らざるを得ないですね? 最近では郊外に大きなショッピングセンターができていますからそこに行くにはやっぱり必要になります」
穂波は地図を閉じながら身体をひねり千草を見る。
「そうなんだ……東京だとあまり必要ないように感じるけれどね?」
千草は肩をすくめながら言う。
「ハハ、そうだな、東京だとどこか行くにしても電車を使ったりすればいいし、むしろ車なんかで動くと帰って高い物につく場合があるよね」
勇斗も苦笑いを浮かべる。
「そうなんですか?」
穂波が驚いたような表情で勇斗の顔を見る。
「あぁ、駐車場を探してやっと入ったら、一時間何百円とか取られたり、渋滞にはまって立ち往生なんて当たり前だよ……それを考えるとこっちはいいよ」
勇斗はウンザリした表情になると再びセカンドシートから千草が身を乗り出す。
「前に勇斗と秋葉原に掃除機買いに行ったときなんて大変だったわよね?」
にっこりと微笑む千草に対して勇斗は苦笑いを浮かべる。
「あぁ、あの時絶対都内は車で走らないと誓ったよ」
買い物に出かけたは良いが秋葉原に着くまでに二時間、駐車場に入るのに一時間、帰るのに渋滞にはまって二時間……それでもう懲りた。
「へぇー、そんなに凄いんですね? 東京って……あたし行ったことがないからテレビとかでしか知らないし」
ちょっとさびしげな表情を浮かべる穂波。
「きっとテレビとかで見ている方がいいかもしれないよ、俺からすれば息の詰まるような街だ……俺はあまり好きじゃないな」
「あら? 聞き捨てならないわねぇ、あたしは好きよ、殺伐としていると言うのかしらそれでもちょっとしたところに人情があったりして」
勇斗の意見に対して千草は真っ向から反発する。
「まぁ、確かに人情味のある街だったけれど、俺はこういう景色のほうがやっぱり好きだよ、田舎者だからね」
勇斗はそう言いながら苦笑いを浮かべる。その視線の先には真っ青な空に白い絹雲が浮び、春が訪れた事を知らせている。
「ウウン、田舎者じゃなくっても景色はこっちのほうがいいわよ……見ているだけで心が和むような気がする」
千草も視線を車窓に向け穏やかな表情を浮かべている。
=大沼公園=
「先輩運転代わりましょうか?」
穂波が助手席で心配そうに勇斗の横顔を見る。
「ん? 大丈夫だよ、まだ大沼じゃないか、まだまだだ」
国道五号線を長万部方面に車を走らせる。それまで人工的な街並みだった景色が函館新道に入るなりいきなり緑に変わり、牧歌的な風景に慣れてきた頃いくつかの坂を上ると正面にぽっかりと口をあけたトンネルに入り込む。
「でも、先輩今朝も早かったんでしょ? レンタカー屋さんに行ったりして」
こもった様なロードノイズに変わり車内がオレンジ色に染まる。心配そうな穂波の顔もオレンジ色になる。
「大丈夫だよ、まだ一時間も経っていないし疲れたら代わってもらうよ」
勇斗はそう言いながら視線はそのままに穂波の頭に手をのせる。
「勇斗さん、この先渋滞しているかもしれませんから左側の車線に移っておいた方がいいかもしれませんね!」
サードシートから一葉の声が聞こえてくる、その声にはちょとトゲがあったような気がするのは勇斗の気のせいなのだろうか。
「へ、へい」
勇斗は周りの安全を確認しながら車を左に寄せる、すると案の定今まで走っていた右側車線だけ車の流れが悪くなり、そして渋滞した。今走っている左側車線はその渋滞をあざ笑うかのようにスムースだ。
「へぇ、なんで右側だけが?」
勇斗が首をかしげながら渋滞を見つつ走っていると、サードシートから再び勝ち誇ったような一葉の声が返ってくる。
「この先大沼公園に行く車が右折するんです、その為よくここは渋滞するんですよ」
ちょうどトンネルを抜けると信号があり、一葉の言うとおり右折する車が並んでいる。
「よく知っているね?」
再び交通量の減った国道を走り出す。対向車は多いものの連休が終わり他県ナンバーはほとんど見なくなり、地元ナンバーばかりになった。
「まぁ、ラジオでもよくいっていますし、前にこの渋滞でえらい目に遭いましたから、ここは渋滞の名所なんですよ」
顔こそ見られないもののきっと一葉は苦笑いを浮かべているだろう。
「わぁー、ねぇ勇斗、あれが駒ヶ岳なの?」
車窓には独特の形をした山、駒ケ岳が映る。
「あぁ、あれが駒ケ岳だ。一番尖がっているのが外輪山の最高峰の剣ヶ峰で、標高は千百三十一メートルだ、そもそも駒ケ岳は寛永十七年に大噴火をおこし今の形になった。それまでは渡島富士といわれるような綺麗な成層火山だったらしいが、その噴火で頂上が吹っ飛んだらしいよ」
以前教わったことを思い出しながら勇斗が説明する。
「ヘェ、山のてっぺんが吹き飛んじゃうなんてすごかったんだろうなぁ」
セカンドシートでゲームに夢中になっていた夏穂が久しぶりに声を発する。
「ウン、そのせいで海では津波が起きて何千人という人が亡くなったらしい、大沼や、小沼はこの噴火のときに川がせき止められてできたらしい、その当時では大惨事だっただろうね? でも、そのおかげで今のこの観光名所ができているんだから皮肉なもんだな」
右手に小沼をちらちらと眺めながら車は順調に進む。
「確かここは新日本三景の一つになっているんですよね?」
助手席で自信無さそうに穂波が口を開く。
「あぁ、ここ『大沼』と静岡の『三保の松原』それに大分の『耶麻溪』を新日本三景と呼ばれている、大正四年に制定された、ちなみに国定公園になったのは昭和三十三年に十三番目の国定公園になったんだよ」
「そうなんだ、勇斗よく知っているね?」
セカンドシートから千草が感心したように声をかけてくる。
「小学校時代に好きだった先生が教えてくれたんだ、他にも噴火湾の名前の由来とか結構すんなりと覚えて、テストの点が良かったことを覚えているよ」
小学六年生のときに担任になった若い先生に憧れていた、社会地理を教えるのがとても上手だったことをよく覚えている。
「それって、勇斗の初恋の先生?」
意地の悪い顔を勇斗に送る千草に、ちょっとさびしげな表情を浮かべる穂波。
「ハハ、男の先生だよ、大学を出たての先生でね、休み時間とかよく一緒に遊んだりしたし、地理の授業が凄く面白かったんだ」
勇斗は愉快そうに笑う。
「男の先生?」
穂波は助手席で首をかしげながらもほっとしたような表情を浮かべている。
「そう、大人になったらあんな人になりたいな、なんて思っていたけれど実際はそうはいかないものだよね? 教育学部に入ったのはそのせいだよ、あの先生に憧れていたんだ」
教員免許を持ったとしても働き口が無ければ何にもならない。
「えぇっ! じゃあ先輩は学校の先生になれるんですか?」
車の中ということを忘れているのではないか? というぐらいに驚いた表情で身体をよじり、シートベルトにその動きを拘束される穂波。
「……そんなに意外かよ」
正面を見据えながらも憮然とした表情で勇斗は答える。
「ご、ごめんなさい……でも、ちょっと意外かも」
慌てて口に手をやり、詫びながらも、穂波の目はまん丸になったままだ。
「一応小学校の先生ならできるぞ」
勇斗は苦笑いを浮かべる。
「先輩が学校の先生かぁ……」
「お兄ちゃんが先生なら夏穂嬉しいのになぁ」
セカンドシートから今度は夏穂が顔をのぞかせる。
「ハハ、今度勉強教えてあげようか?」
勇斗は微笑みながらルームミラーで夏穂の顔を見る。
「ウン!」
夏穂は元気に首を縦に振る。
「でも兄貴は学校の先生にならなくって正解じゃないか? 子供が怖がると思うぞ」
サードシートから和也の皮肉ったような声が聞こえる。
「なんだとぉ!」
思わず勇斗は身体をひねり、サードシートに座っている和也の顔を見る。
「わぁ、先輩駄目! 前、前!」
車がよろける……危なかったぁ……。