coffeeの香り
第一話 春
=プロローグ=
「太一はまだ帰れないの?」
一部の電気しかついていないオフィスの一角で冷え切ったコーヒーをすする。
「アァ、データのバックアップもやらにゃいかんし、仕事は盛りだくさんだよ」
苦笑いを浮かべながら真嶋太一は声をかけてきた同僚の茅島暁子に視線を送る。
「真嶋課長はまた残業ですねぇ」
鼻にかかった声をかけてくるのはこの部門のマスコット的存在の松島絵里香だった。
「はは、仕方が無いよ、午前中は会議やら来客で手につかなかったからな」
冷え切ったコーヒーは思いのほか不味く、太一は思わず顔をしかめる。
「……気をつけてね? 体が資本なんだから」
暁子は心配そうな顔で太一の顔を覗き込む。
「ありがと」
太一が素直に微笑むと暁子はちょっと照れたような表情を浮かべる。
「はぁ……」
昼間は賑やかなオフィスも一人だけになると寂しく、ラジオとかの音が欲しくなるがそんな洒落たものがオフィスに置かれている訳も無い。
「これで終了にしたいな……どうだ」
エンターキーを押すと少しの間をおいてプリンターが動き出す。それは一年の集計やら売り上げやらを打ち出したもので、それは太一の仕事がやっと終了を告げる物でもある。
「……お疲れ様でした」
プリントアウトしている書類を確認して太一は誰に言うでもなく呟き、壁にかけられている時計に目をやる。
「はぁ……また泊まりかぁ」
視線の先にあるそれは日付が変わってから三時間を経過した事を告げている。それまでは何とか自宅に戻ることが出来る時間に会社を出られたが、今日は帰るという概念を捨てた方がよさそうな時間になっている。
コンビニで何か買ってくるかな……腹も減ったし、一杯飲んで自分にご褒美をあげたいよ。
プリンターが正常に稼動している事を確認して太一は会社近くのコンビニに向かう。
「冷え込んでいるなぁ……」
ヒヤッとした風に思わず肩をすくめる。新入社員の入ってくる四月一日、東京などでは既に桜が咲いたというニュースを耳にするが北海道道南の主要都市でもある函館ではまだまだ冷え込む日が多く、桜の開花などはあと一ヶ月ぐらい先の話になる。
「本当に閑散としているなぁ」
地方都市とはいえ東京と違ってこれだけ遅い時間になると人通りはまったくといっていいほどない、その閑散とした雰囲気が余計に久しぶりにあたる外気を冷たく感じさせているのかもしれない。
本当に寒いかもしれない……。
太一の着ている格好は社内用の背広にジャンバーを羽織っただけだ、おおよそこの時期に着て外を出歩く格好ではないというのはこっちに赴任して来て三年目の太一にはよくわかっていることだが……。
「イラッシャイマセ」
機械は忠実に仕事をこなしているがコンビニのレジ周りには人影が見えない。かなり無用心だとお節介にも感じるが、よく見れば奥でバイトの学生であろう男が漫画本を読みふけっている。
「これと……ビールにしておこうかな?」
弁当コーナーにはあまり売れそうも無いものしか残っておらず、酒のつまみにしかならないようなものしかない.
「……雑誌は……いいかぁ」
綺麗なお姉さんが色っぽい格好をしている雑誌を一瞥しながらカゴごとレジに向う。
「ありがとうございましたぁ」
あからさまに業務的に言われるとこっちも突っ込み所がなくなるというもので、苦笑いをその学生に向けるだけだった。
「そういえば明日……いや既に今日になるのか、新人が来るという話を聞いているな、今の学生のような奴がきっと来るのであろうな……ハハ、まるで子供を相手にするようだぁ」
太一はパンパンになったコンビニ袋を持ちながら苦笑いを浮かべ再び寒風に体をさらす。その時刻は既に四時を指していた。
もう夜が明けるな? 何時間寝られるんだろう。
「ヘェックショイ!」
太一は苦笑いと共にくしゃみをし上着の襟を立てる。
=まどろみの中 mana=
「絶対早すぎたよね?」
市電『五稜郭公園』の電停の近くにあるクリーム色のオフィスビルを吉村真菜は肩まである髪の毛を掻き上げため息交じりに見上げる。リクルートスーツを身にまとっているその姿はその時間のその場所にはちょっと似合わないようだ。
なんでこんな時間なんだろう……まだ七時前だっていうこんな時間に誰かいるわけないわよね? まぁ、時計を見間違えたのがそもそもの失敗だったわ。
真菜は諦め顔で再びビルを見上げるがなにが変わるわけでもない。
「ハァ……」
深いため息をつき周りを見渡すものの、コーヒーショップはまだ開店していないし、時間の潰しようが無い。
駄目で元々、何とかなるかな?
真菜は大きく深呼吸をして、意を決したようにそのビルに入り込む。
「間違いないよね?」
そう呟き玄関先にあるテナント一覧のプレートを確認する。
「えっと『とらべるわーくす』間違いないわね? 五階かぁ」
地獄の就活でやっと見つけた自分の職場の名前がそこにかかっていることを確認する。まだ新しいであろうそのビルはいくつかの事務所が入っておりその最上階に当たる五階に真菜の目的の場所があったようだ。
「ゴカイデス」
エレベーターの感情のこもっていない声と共に扉が開くといくつもの同じような扉が並んでおり、真菜の来訪を拒むかのようにそれは閉まっている。
「えぇっと……総務に行けばいいのだろうけれど……」
真菜は一つ一つ扉を見るが目的の名称は見られない。
「第三応接室……ここも違う……あれ?」
いくつ目かの扉が少し開いており、その中から明かりが漏れている。
誰かいるのかしら? 人の気配もするようだし。
細く開いている扉に近づくと確かに部屋の中からは他の部屋とは違った空気が流れているような気がする。
「すみませぇーん」
真菜は自分にしか聞こえないような声をかけその細い開口部をゆっくりと広げる。
ガサ……。
「!?」
確かに部屋の中には誰かがいる、さほど広くないその部屋の仕切りの向こうには電気がついており、人の動くような気配を感じる。
こんな時間にもう出社している人がいるのかしら? それにしては変よね、こんな所にいなくってもいいのに……もしかして泥棒?
真菜の体が無意識に硬直する、まさかとは思いながらもその仮説を否定できる理由はないし、確率的にはそのほうが高いような気もする。
どうする? 逃げた方がいいのかしら……。
頭の中でさまざまなシミュレーションが行われ、その中でひとつの行動パターンがインプットされる。
これが一番いい方法かもしれない……。
真菜は背後にある扉をそっと開き逃げ道を確保しつつ、大きく息を吸う。
「あのぉ〜、すみません! どなたかいらっしゃいますか?」
思いの外大きな声が出たと真菜は自画自賛する。
その声に反応して間仕切りの向こう側で人の動く気配がし、そしてその仕切りから男性が顔をのぞかせる。
誰? というよりなんでこんな時間に会社にいるの?
真菜はその男性の顔をじっと見つめる、その顔はたった今目が覚めたような顔で目は完全に開ききっていないし、まるで隣の部屋から出てきた寝起きのおじさんのような顔をしている。
「ふぁぁい?」
少なくとも泥棒ではなさそうね?
その姿は泥棒というよりもなんだか疲れきったサラリーマンの代表を見ているようだった。ネクタイをはずしたワイシャツはヨレヨレで、無精ひげも生えており、仕事で泊まり込みになったという事が容易に想像つく。
くたびれたおじさん? ううん、それはちょっと失礼かも……たぶん三十代前半ぐらいかしら。
真菜は目の前に現れたそんなボロ雑巾のようにくたびれ果てた男性を分析する。その男性は目が悪いのかそれとも寝ぼけているのか目を細くして真菜の事を見る。
「あの、あたし今日からこの会社に勤める事になりました吉村真菜です! よろしくお願いします!」
元気よく挨拶する真菜に対して男性はちょっとあっけに取られた表情でいる。
「……よろしくって、まだ八時前じゃないか……どうしたんだこんな時間に……ファァア」
男性は大きなあくびをしながら真菜の事を見る。
「ハァ、ちょっと時間を見間違えまして……」
真菜は頬を掻きながらうつむく。
「時間をねぇ……はは、ドジっ娘だな」
男性は近くにあったメガネをかけながら微笑む。
ドジっ娘って……恥ずかしいなぁ、そんなにドジじゃないと自分では思っているんだけれど、はたから見ればやっぱりドジっ娘なのかなぁ。
真菜は頬を赤らめながら男性の顔を上目遣いで見る。そんな真菜を見る男性のその顔は優しく見つめ微笑んでいる。
=新人との遭遇 taichi=
「それにしてもずいぶんと思い切った出社だね……一番乗りだよ?」
照れたようにうつむいている真菜に対し太一は微笑みながら言う。
「い、いえ……ただ時間を見間違えただけで……」
真っ赤な顔でうつむく真菜に太一は微笑むしかなかった。
おっちょこちょいというのか……はは、可愛いねぇ。
「まぁいいかな……じゃあ、お茶でも飲むかい?」
太一はそう言いながら近くに投げ出してあったごみを手にして彼女の前に立つ。
「えっ?」
真菜は驚いたような表情を浮かべ太一の顔を見る。
「まだ時間はあるから……」
太一はそう言いながら応接室を出る。
「コーヒーでいいかな?」
『営業部』の名札のかかっている部屋に入り空いている席につくよう真菜を促す。
「あの、あたしが……」
真菜はそう言いながら席につこうとしない、そんな様子に太一は苦笑いを浮かべる。
まだ大分肩に力が入っているな? そういえば自分の新人時代もこんな感じだったかもしれない、緊張しているだけでなにをやるのでもがむしゃらだったよ。
「気にしないで、どうせ何処に何があるかなんて分らないでしょ? それにインスタントなれど俺の入れたコーヒーは美味しいから飲んでみてよ」
太一の笑顔に真菜はほっとしたような表情を浮かべる。
「さてと、美味しいと思うよ、コーヒーには自信があるんだ」
しばらくたつと真菜の元にコーヒーカップが置かれる。
「ありがとうございます」
見た感じはミルクが多目のコーヒーのように見えるがいかがな物かな? 女の子向けにちょっとクリーミーに仕上げたつもりだけれども。
太一は次に返ってくる美雪の反応が待ち遠しくて仕方が無かった。
「……これは美味しいです! インスタントとは思えません」
一口飲み真菜は素直に驚いたように目を見開く。その反応に太一の顔に笑顔が膨れる。
「よかったよ、君みたいな若い子に入れたこと無かったからね」
胸をなでおろしながら太一は自分のカップに口をつける。
「いえ、これはお世辞抜きですよ……エッと」
真菜はその時点になって太一の顔を見て首をひねる。
「アァ、自己紹介していなかったよね、俺は真嶋太一」
「はじめまして、吉村真菜です、これから色々とご指導お願いします」
真菜はやっと落ち着いたのか笑顔でペコリと頭を下げる。
「じゃあ、えぇっと……これこれ、これでも読んでいて」
書庫の中にしまってあったカタログを真菜の手元に置くときょとんとした表情でそれを眺め、次に太一の顔を見上げる。
「うちで扱っている商品のカタログ、知っていると思うけれど、うちが相手にしている得意先は三通りあるんだ、まず、個人経営のお土産物店、それと、空港や、デパートなどの大手の売店、もうひとつは自社直営のお土産物店だよ、またお土産品とは別にホテルなどで使う商品の仕入れ代行などもやっている」
真菜はカタログをぱらぱらとめくりながら楽しそうな表情を浮かべる。
「へぇ、こんなのまで扱っているんですか……」
真菜の顔からは緊張の色が取れはじめる。
「アァ、自社で扱っているブランドもあるし、ホテルで使う備品などもあるからね、一応総合商社だから」
苦笑いを浮かべながら太一は席を立つ。
総合商社といえば聞こえはいいけれどいわゆる万屋のようになっているのも事実だよな?
「どちらに?」
席を立つ太一に対し真菜は不安そうな表情を見せる。
「ん? 着替えてくるよ……こんな格好じゃあ新人さんに笑われてしまうよ、君みたいに」
太一がウィンクを真菜に向けるとちょっと頬を赤らめる。
「あたし笑いました?」
困惑した表情で太一を見つめる。
「はは、こっそりとね」
太一はそう言いながら部屋を出る。
「あーぁ、着替えが無くなるな……また持ってこないと……」
ロッカーに入っているワイシャツの代えは冠婚葬祭用に置いてある白い物一着しかない。
確か数枚持ってきておいた筈なのに、そんなに会社で着替えているって言う事かぁ……本当に体を壊しそうだよ。
苦笑いを浮かべながら歯ブラシをロッカーから取り出す、いわゆるお泊まりセットがロッカーにしまってあるほど会社に入り浸っているということだ。
「ガラガラガラ……ペッ!」
給湯室で歯を磨き、顔を洗っていると背後に人の立つ気配がする。
「太一……また泊まりになったの?」
諦めにも似た表情で立っているのは暁子だった、まだ着替えていないところを見ると今出社したのであろう。
「おふぁよふ」
太一は口に歯ブラシを突っ込んだままその暁子におはようと挨拶をする。
「まったく……言ってくれれば手伝うのに」
暁子はそう言いながら頬を膨らませる。
「いや、別に手伝わせないわけじゃないんだけれど……頼みそびれるというか……それにしても暁子こそどうしたんだ? 今日はやけに早くないか?」
腕時計をみるといつも暁子が出社する時間より早い、早出と同じぐらいの時間だ。
「別に、たまたまよ、そして誰かさんが朝飯かって来てくれなんて電話がかかってくるんじゃないかと思って買っておいたわよ、チャーハンおにぎりと鮭むすび、これでよかったでしょ?」
コンビニ袋を太一の鼻先に突きつける、その袋の中身は太一がよく頼むおにぎりにお茶がサービスでついているようだった。
「おぉ〜、さすがは暁子ちゃん、わかっていらっしゃる……これはもう愛に近いか?」
満面の笑みを浮かべる太一に暁子はべぇっと舌を出す。
「何言っているのよ、あなたが泊まりになったとき必ずあたしの携帯に電話してきていつものやつをって頼むから覚えちゃったの……何が愛よ」
暁子はちょっと照れくさそうにしながらそういう。
「あのぉ……」
再び暁子が舌を出した頃暁子の背後に真菜が遠慮がちに顔を見せる。
「へっ?」
暁子はまさかこの時間にこんな娘がいるとは思っていなかったのだろう、素直に驚きまるで太一に抱きつくかのように身を翻す。
「どうした?」
真菜は太一と暁子を双方に見ながら声を出す。
「エッと……」
おどおどしている真菜を見つめ暁子は困惑した表情を浮かべる。
「太一……彼女は?」
真菜を見つめながら暁子は太一に問いかける。
「あぁ、今年の新人さんだよ……吉村真菜さん」
その一言にちょっと安どの表情を浮かべる暁子は再び真菜の顔を見る。
「そうなんだ……よろしくね、それにしても早いけれど……」
「ハハ、話せば長くって言うやつかな?」
真菜は頬を赤らめながらうつむく。
=可愛い後輩 akiko=
「ウフ、大体話は分ったわ、改めましてあたしは茅島暁子、太一と同じで営業を担当しているわ、よろしくね」
暁子はそう言いながら小柄な真菜の顔を覗き込む。
あたしは比較的背の高い方だけれど、この娘はまたやけに背が低いわね? 百五十センチぐらいかしら?
暁子は百六十五センチあり女性では背の高い方になるが、それでも暁子より低い位置に頭がある、背の高い太一からすれば自分の胸元ぐらいまでしか彼女の頭がないみたい。
「よろしくお願いします吉村真菜です」
にっこりと微笑む真菜は今年大学を卒業したとは思えないほどあどけない顔をしている。
「暁子、後は任せるわ……俺は仕事をやっつけちゃうから」
太一はそう言いながらあくびをかみ殺しさっきまで真菜がいた営業部の部屋に入ってゆく、その後姿を見送る真菜の頬はちょっと赤らんでいる。
「忙しい男ねぇ……」
呆れ顔で太一を見送るが、その隣では真菜がぼっとその太一の後姿を見送っている。
「ハァ、でもちょっとカッコいいですね?」
はぁ? カッコいいの、あんなボロ雑巾みたいに疲れきった男がぁ?
暁子は心の中で突っ込むものの、それを否定はしなかった。
カッコいいというのには語弊があるかもしれないけれど、でも、確かに打ち込んでいる姿というのは悪くは無いかもしれないなぁ。
「カッコいいのかなぁ……」
太一の後姿は疲れきっているものの頼りがいがあるというか力強さを感じるほどだった。そして何かあっても必ず近くにいてくれるという安心感が暁子の心のどこかにある。
暁子は不意に顔が火照ることに気がつく。
なに言っているのよ、彼はあたしの上司、それだけなのよ! そんなわけ無い……と思う。
ウットリとした目で太一を見つめている真菜に対してなんとなく嫉妬に近いものを感じる暁子はつい言葉尻がきつくなる。
「真菜ちゃんはこっちに来て、総務に案内するわよ!」
なにやっているんだろうあたし……。
「アッ、は、ハイ!」
我に返ったように真菜は暁子の後ろについて歩き出す。
「まだ誰も来ていないかしら?」
総務部の札のかかっている部屋の扉はしっかりと閉まっており、暁子がノックするまでも無く誰もいないように思われる。
さて困ったわね? まさかこの娘をここに一人にしておく訳にもいかないし……。
「あら? 茅島さんに……確か吉村さんね?」
二人の背後から声がかけられ、ちょっと驚いた表情で二人同時に振り向く。
「あぁ、君島課長、おはようございます」
暁子の視線の先にはこの会社の制服を着た年配の女性が立っている。
お局様……総務の女子達がそういっているのは良く知っている、しかし本人を目の前にしてそんな事を言えるわけもなくいつの間にか暁子は作り笑いを浮かべる。
「おはよう、どうして吉村さんと一緒に茅島さんが?」
それに対し君島はいつもと同じように暁子に対して疑問の表情を浮かべつつ見つめる。
なんと言って良いものやら……正直に言えば彼女の心象はあまりよくないものに変わるだろうし、かといって嘘は方便とはいえその嘘が思いつかない、もう少し考えてから登場してくれないかな?
引きつった笑顔を見せる暁子に対して真菜は君島と面識がある様でちょっとホッとした表情を浮かべる。
「たまたま……ですかねぇ」
暁子は苦笑いを浮かべながら真菜の顔を見る、真菜も苦笑いを浮かべている。
「そう? 関心ねぇ、初日からこんなに早く来ているだなんて……ちょうど良かった、吉村さん、こっちに来て、制服を支給するから」
君島はそう言い真菜の肩をたたき部屋の扉を開ける。
「ハイ、あの……ありがとうございました」
真菜はそう言いペコリと暁子に頭をさげる。
素直な……可愛い笑顔……あたしにはもう出来ないのかな?
暁子はその笑顔にちょっと罪悪感を感じながら真菜の顔を見る。
「いいえ、どういたしまして」
暁子は小さく手を振り着替えるべく更衣室に向う。
あたしも新人の頃はああだったわね? それが今では……思えば遠くに来たものね。
暁子は苦笑いを浮かべながらロッカーに向う。