雪の石畳の路……

Summer Edition

第四話 隣人



=ホームページ=

「先輩、ホームページが更新されていますよ」

 店に置かれているパソコンに穂波が向かいながら声をあげる。

「どれどれ……」

 昨夜遅くに直子から連絡があり、今日更新されると聞いていたが、さて、どんな感じになっているのかな?

 勇斗はちょっとワクワクした気分で、そのモニターに目をやる。

「……これって」

 穂波は店の紹介のページをクリックし、そこに出てきた画像を見て、一気に顔を赤らめる。

「……ハハ、これじゃあ親父の立場無いねぇ」

 勇斗もそれを見て苦笑いを浮かべる。そこに書かれていたのは、

「ようこそ! おみやげ処『Hakodateすばる』へ! このお店はとってもアットホームなお店です! 店長は気さくなお兄さんで何でも相談に乗ってくれますよ。可愛い店員さんも皆さんのことを待っているよ! ぜひ、函館に来た際には寄ってくださいね? 待っていま〜す! 見ていくだけならタダでいいよぉ〜!」

 店の外観の写真と、いつの間に撮ったのか浴衣姿の穂波が大きく掲載されていて、恐らく親父の話はほとんど反映されていないであろう簡単の文章が書かれており、文章の最後には勇斗のキメ台詞が書かれていた。

「……黒川先輩、あの時の写真をこれに使うのなら言ってくれればよかったのに……あたし変な顔じゃありませんか?」

 穂波は耳まで赤くしながらパソコンに写っている自分の写真を見る。

「そうか? 可愛く撮れていると思うけれどな、いつもの穂波の笑顔だよ」

 勇斗のその台詞にさらに穂波の顔が赤らむ。

「そんな事言わないでくださいよぉ〜……もぉ、恥ずかしいなぁ」

 別に恥ずかしがらせている訳では無いんだがなぁ……。

 頬を膨らませながら穂波はそっぽを向くと、その瞬間束ねてある髪の毛からシャンプーの香りがし、その香りが勇斗の脳髄を刺激する。

 ……良い匂い……ってなに考えているんだよ。

 勇斗の顔も見る見る赤くなってゆく。

「あらら? なんだか良い雰囲気かも……」

 声のする方角を、息を揃えたように二人同時に見ると、そこには長い髪の毛をアップにした女性がニッコリと微笑んでいる。

「ひさしぶりぃ〜」

 その女性はおもむろに勇斗に抱きつくと、勇斗のその胸には懐かしい温もりが広がってゆく。

「……なんで?」

 穂波は目をつり上げるよりも先に、その様子を呆気に取られて見ているだけだった。

「だぁきつくなぁ!」

 勇斗のその声に女性は少し頬を膨らませながら身体を離す、しかし、その視線は嬉しそうに勇斗のことを一点に見据えている。

「エヘヘ……勇斗」

 女性はそう呟きながら、幸せそうな表情で勇斗の胸に額を当てる。

「千草……」

 勇斗の胸で穏やかな笑顔を浮かべているのは、東京時代の彼女である八神千草だった。その格好は髪の毛を伸ばしたままなのだろうか、ゴールデンウィークに会った時よりもいくらか伸びているようにも見えるが、それ以外はまったく変わったような雰囲気ではなかった。

「……千草さん」

 穂波の表情も嬉しいような、困ったような不思議な表情を作っている。

「穂波ちゃん……来ちゃったよ」

 勇斗から身体を離し、懐かしそうな目で千草は穂波の顔を見る。

 来ちゃったって……どういうことだ? その大荷物、まさか……。

「千草さん、どうしたんですか? それにその格好……」

 まさに勇斗が不思議に思っていたことを穂波が代弁してくれた。

「まぁまぁ、とりあえずちょっとお茶でも飲ませてよ、ゆっくりと話をするから」

 千草はそう言いながらズカズカと店の奥に入ってゆく。

 相変わらずマイペースな娘だ……。

 勇斗は苦笑いを浮かべながら穂波と共に千草の後ろについて歩く。



「ハァ、冷たくって美味しい……ありがとう一葉さん」

 勝手知ったるなんとかだな、すっかりこの家の住人になったような振舞いだなぁ。

 手元にあった麦茶を一気に飲み干した千草は一葉にニッコリと微笑む。

「いいえ、でも、ちょっと驚きましたね?」

 一葉はお盆を持ちながらソファーに座っている千草の顔を納得がいかない様な表情で見下ろしている。

「へへへ」

 千草は意味深に微笑むだけで、さっきからの答えを話そうとしない。

「千草、そろそろお前さんの企みを聞かせてくれないか?」

 勇斗は近くにあったタバコに手を伸ばしながら睨むような視線で千草の事を見る。

 この娘は絶対に何かを企んでいる、長い付き合いだからこそわかるというのは穂波には言えないが、でもわかる、絶対に何かある!

「あら? 企むだなんて失礼ねぇ」

 千草は頬を膨らませるものの、目は笑っている、まるで『分かっちゃった?』と言わんばかりの目つきだ。

「わからいでか、言っておくがうちにはもう部屋は無いからな、ゴールデンウィークに来た時に知っているとは思うが、我が家にもう居候を増やすスペックはもう無い!」

 勇斗は釘を刺すようにいうと、千草はペロッと舌を出しおどけた表情を作る。

「うふん、あたしはいいわよ、勇斗と同じ部屋で」

 千草は鼻にかかった声で勇斗に擦り寄ると、勇斗の背後に殺気が走る。

「なに言っているんですか! ダメに決まっています!」

 その殺気の持ち主はやはりと言うのであろうか、穂波が腰に手を当て、まるで仁王様のような顔をして千草を睨みつけている。

 おいおい、店番は誰がやっているんだ?

「ほ、穂波、店は?」

 穂波の憤慨に勇斗は目を白黒させながら穂波の顔を見上げる。

「和也君と夏穂がやっています!」

 ハイ、分かりました……えらい迫力だな、負けそうだよ……。

 勇斗は苦笑いを浮かべ、すごすごと首をすくめる。

「穂波ちゃんも相変わらずね? その様子じゃあ進展ないでしょ」

 穂波の迫力にまったく物怖じしない様子で千草は穂波の顔を見る。

「し、進展だなんて……そんな」

 穂波は今までの勢いが急にしぼむようになり、続いて顔を真っ赤にする。

「エヘヘ、やっぱりいいなぁここ、なんだか我が家に帰ってきたみたいで、落ち着くというのか、なんと言うのか……」

 千草は嬉しそうな顔をしながら周囲を見渡す。

「オイ、千草……」

 勇斗が声をかけると千草は意を決したように口を開く。

「これからよろしくね? お隣さん!」

「ハァ? おっ、お隣さんだぁ?」

 勇斗の声が裏返る、それと同時に穂波の大きな目はさらに大きく、一葉もさすがに驚いた表情を浮かべている。

「まさか、隣に引っ越してくる喫茶店のオーナーって……」

 不意に隣の建築屋が挨拶に来た時の事を思い出す。

 確か喫茶店のオーナーが東京の人間だから挨拶に来られないと言っていた……東京の人間、東京の娘……。

「あたりぃ! そうです『喫茶どりーむ』オーナー兼マスターの八神千草です、よろしくお願いします」

 ペコリとわざとらしく頭を下げる千草に勇斗の顔は凍てつく。

 ちょっと待て……やっとこのややこしい状況に慣れてきたというのに、再度ややこしさを提供するというのか? そんなオプションは頼んだ記憶わはいぞ!

 勇斗はがっくりと力なくうなだれる。



=夢のつづき=

「しかし、あれだけ頑張って入った会社を辞めたということなのか?」

 麦茶を飲みながら勇斗はニコニコしている千草の顔を見つめる。

 去年の今頃であろう、千草は俺と同じように地獄のような就活を行っていた。内定が貰えた時も希望していた職種につけたと大喜びしていたのに。

「エヘ、確かにね? でも、その会社が無くなっちゃったんだから仕方が無いでしょ?」

 無くなったって……。

「それって、倒産しちゃったって言う事ですか?」

 穂波は口に含んでいた麦茶を吹き出しそうになる。

「そっ、だから、今までの貯金とかをはたいて、隣のお店を借りたって言う事なの、元々喫茶店はやってみたかったし、たまたまネットで見つけた物件がこの隣だったし、良くすればもう一つの夢を叶えられればなんて思っていたりして……エヘヘ、もう一度、今度はこの街で夢をつかみたいかな?」

 夢をつかみたい?

 勇斗がきょとんとしていると、一葉と穂波の冷たい視線が勇斗に向く。

「ふぅ〜ん……その相手ねぇ」

 一葉は意地の悪い顔をしながら。

「……紳士協定は?」

 穂波は涙を浮かべながらそれぞれ勇斗の顔を見つめる。

「エッ? エッ? エッ?」

 訳がわからん……。

 勇斗の首が左に大きく傾くと、それを見ていた三人の口からは大きなため息が一斉に吐き出されると同時に店頭から和也の声がする。

「兄貴、黒川さんだよ」

 恐らくホームページの件であろう、勇斗は腰をあげる。

「ハイよ……まぁ、結果は千草がお隣さんになるわけだからな……よろしく頼むよ」

 勇斗は優しい視線を千草に向け手をあげるが、その仕草に穂波の頬はふくらみ、複雑な表情を一葉が浮かべる。

「勇斗……ありがと、もし穂波ちゃんに追い出されたらいつでも来ていいからね? もしなんだったら今のうちに部屋の相カギ渡しておこうか?」

 それは遠慮しておきます……。

 勇斗は無言でその案に手を振り遠慮する。

「兄貴、何しているんだ? 早く来いよ……って、エェ〜ェ、ち、千草さん! 何でここにいるの?」

 様子を見に来た和也はそれまでのぶっきらぼうな表情から、まるで花が咲いたように華やかになる。

「ハァイ、和也君、元気にしていた?」

 千草はそう言いながら和也に右手を上げる。

「はい! 千草さんもお元気そうで……わぁ、本物の千草さんだぁ」

 千草に偽者がいたら俺が困る……というより二倍疲れることになるよ……。

 勇斗はポォーとした顔をしている和也の横をすり抜け店先に戻ると、スーツを着込んだ直子がニッコリと微笑みながら、勇斗に向けて手を振っている。

「よぉ、直子……えらく端折った文面で……親父怒るんじゃないか?」

 勇斗は、直子に意地の悪い表情をプレゼントする。

「だ、だってぇ、掲載できるスペースが限られちゃっているし……穂波ちゃんの写真をどうしても載せたかったから……だから」

 直子の言葉は徐々に尻すぼみになってゆき、最後の方は勇斗にも聞き取れなくなるほど小さな声だった。

「なんだって?」

 勇斗は大げさに耳を直子に向ける。

「もぉ……スペースの問題!」

 直子の思いのほか大きな声に、勇斗の耳はハウリングを起こす。

「……黒川先輩」

 キーンとした耳をほじっていると、店先に穂波と一葉に続き千草が顔を見せ、その後ろからはフラフラと千草について和也が顔を出す。

「穂波ちゃん、見てくれた?」

 直子は弾けたような笑顔を穂波に向ける。

「ハァ……でも、前もって言ってくれればもっとちゃんとしたのに……ちょっと恥ずかしいですよ」

 穂波はそう言いながら直子の顔を上目遣いで見ているが、そんなことはおかまいなしに直子はさらに嬉しそうな表情を浮かべる。

「なに言っているのよ、穂波ちゃんは普通にしているのが一番可愛いんだから作っちゃダメ、そうでしょ勇斗」

 勇斗に同意を求める直子の頬はなんだか紅潮しているようにも見える。

「まぁ、確かにそうかもしれないな、あの写真だって可愛く撮れていると思うけれど」

 勇斗のその一言に穂波の頬も赤く反応する。

「そ、そんな……照れますよ」

 穂波はそう言いうつむき、それに千草が突っ込みを入れて……こない。いつもなら千草がその様子を冷やかすのだが、今日に限っては首をかしげている。

「あのぉ、もしかして黒川さんですか?」

 恐る恐るといった感じで千草は直子の名前を言い当てる。

「ハイ、そうですが……もしかしてあなたが八神さん?」

 直子も負けじと千草の名前を言い当てる。

「ハイ、はじめまして『喫茶どりーむ』オーナーの八神千草です、このたびは無理を言いましてすみません」

 千草はペコリとお辞儀をするが、その様子を直子は手を振りながら微笑む。

「気にしないでください、あたしの方こそ色々とお願いしちゃって……改めまして、黒川直子です。それにしても、なんで八神さんが勇斗のお店に?」

 直子はそう言いながら勇斗と千草の顔を交互に見る。

「黒川さんこそ、勇斗と知り合いなんですか?」

 千草は怪訝な顔をして勇斗の顔を見る。

「ハイ、勇斗とは高校時代の同級生なんですよ」

 直子のその台詞に千草は眉間にしわを寄せ勇斗の顔を睨む。

「……同級生、だけですか?」

 その台詞をぶつけられた直子は一瞬驚いた表情を見せながら続いて勇斗の顔を覗き込む、その顔は、瞬時に合点したように微笑みに変わる。

「ウフフ、本当に同級生なだけです……一時期憧れていた時もありましたけれど、でも、憧れだけでしたね?」

 今度はその台詞に穂波の目がつりあがり勇斗の顔を見る。

 そんな顔で俺を見ないでくれよ……俺のせいなのか?

 勇斗もちょっとやけになる。

「早速で申し訳ないんですけれど、お店を見せていただけますか? あと、お願いしていたやつも一緒に見せていただけると……」

 直子はそう言いながら千草の顔を見ると、千草も表情を変えて笑顔になる。

「ハイ、準備できています……うまくできたかは心配ですけれど」

 二人の会話の意味がわからんな……お願いって一体何のお願いなんだ? うまく出来たとか何とかという意味もわからんし……。

 穂波と共に勇斗の首が傾く。

「勇斗もお店見る? 結構洒落た出来になっていると思うけれど」

 その一言に勇斗の好奇心がうずく。

「そうだなぁ……お隣さんがどんな感じか見てみたいし……和也、ちょっと店番頼む」

 振り向いた先にいる和也の顔は明らかに不機嫌だった。

「なんで……いいじゃないか、お客も来ないんだし」

 和也はまるで駄々子のように頬を膨らませる。

「それは今だろ? お客が絶対に来ないという保証は無い、ゆえにお前は店番だ」

 ピシャリと言い切りながら喫茶どりーむに向かって歩き出す、その背後では和也が地団駄を踏んでいる様子が振り向かなくともわかる。

「穂波ちゃんも一緒に行こう?」

 直子はそう言いながら穂波の手を取る。

「でも……あたし」

 困惑している穂波を気にもせず直子はグイグイと手を引く。



「どうぞお入りください」

 まだキーホルダーもついていない新品のカギをシャッターに差し込み、ガララとそれを力任せに上げると、通りに面した大きな窓が太陽の光を反射する。

「うぁ、いい感じ」

 思わず直子が声をあげるが、確かにそうかもしれない、外観は最近流行のカフェとかではなく、まさに喫茶店といった雰囲気で、むしろこの近隣の光景になじんでいるようだ。

「ハァ〜イ、ご来店」

 おどけるように、千草はお店の扉を開く、その店内にはまだ封の開いていないダンボールが所狭しと置かれているものの、喫茶店の雰囲気は十分な物だ。

「いいじゃない……素敵なお店になっているわ」

 直子はその店内を見渡しながらニッコリと微笑む。

「ハイ、いい感じですね? 落ち着いた雰囲気でいいと思います、新しいお店なのに、新しさを感じないというか、アッ、ごめんなさい」

 穂波は素直に千草に頭を下げる。

「ウフ、いいのよ、そう思ってくれたのなら大成功ですよね?」

 千草は微笑みながら直子の事を見る。

「うん、大成功よ、このお店のコンセプトは『どこにでもある普通の喫茶店』なのよ、古臭いというのは最高の賛辞よ、ありがとう穂波ちゃん」

 直子はそう言いながら穂波に抱きつく。

「ちょっと、黒川先輩」

 穂波は直子に頭を撫ぜられながら顔をしかめる。

「それにしても、なんで千草と直子が知り合いなんだ? それにこのお店のコンセプトって、まるで直子がこのお店を設計したみたいじゃないか……」

 勇斗はさっきから疑問に思っていたことを口にする。

「みたいじゃないの、あたしがこのお店を設計したの……忘れているかもしれないけれど、あたし建築デザイン学科だったんだから」

 直子は小ぶりな胸をそらしながら直子は自慢げに勇斗の顔を見る。

「……それはわかったことにしておいて、では、千草と直子の接点は?」

 些細な疑問点については後にまわすということにしておいて、直子と千草の接点というのが最大の謎だな、東京と函館、時空がひっくり返らない限りこの物理的な距離を縮める事はできないし、その中でこの二人が知り合うという確率は天文学的な数字ほど低いはずだ。

 勇斗の疑問を楽しむように千草と直子はニッコリと微笑む。

「それはね……ネットで知り合ったのよ」

 つまらない結論だな……。

 ちょっとつまらなそうな表情を勇斗は浮かべ、その隣で穂波は羨ましそうな顔をする。

「いいなぁ……東京ってあたし行った事無いんです、東京の人とそんな事で仲良く慣れるなって羨ましいかも……」

 おいおい、そんな事で憧れないでくれよ。

 苦笑いを浮かべるのは勇斗だけでは無く、直子と千草も同じだった。

「意外と簡単よ? 穂波ちゃんなんて可愛いんだからその気になれば東京に彼氏なんて簡単に出来るんじゃないの? 勇斗はあたしにまかせて」

 勇斗の腕に抱き付きながら言う千草の一言に穂波の顔色が変わる。

「なに言っているんですか! あたしは先輩と一緒に東京に行きたいだけで……アッ……」

 穂波にしては大胆な意見だったな……肝に銘じておくよ。

 真っ赤な顔をしてうつむく穂波に対してつまらなそうな表情を浮かべているのは直子だった。

「フーン……なるほどね? 千草さんと勇斗ってそういう仲だったんだぁ」

 直子はそう言いながら千草と勇斗の顔を交互に見る。

「いや……その」

 否定しきれない自分に嫌気がさすが、しかし、きっぱりと否定すると、きっと千草を傷付ける事になる。

「エヘ、バレちゃったよ、勇斗」

 千草は勇斗の腕に抱きつきながら意地の悪い顔で見上げる。

「ち、千草」

 勇斗は体をよじりながらその腕を振りほどこうとするが、ぎゅっと抱えられてなかなか外れない、それに千草の膨らみも勇斗の腕に当たり、ちょっと顔がにやけている。

「先輩!」

 般若のような表情を浮かべる穂波に対し勇斗は曖昧な笑顔を見せるだけだった。

「……ふ〜ん」

 直子は意味深な笑みを浮かべ勇斗の顔を見る。



「それで、お願いしていた物は?」

 スタッフルームに置いてあるパソコンを起動させながら千草は照れくさそうに頬を赤らめる。

「一応作ったには作ったんですけれど……どうかな?」

 起動したパソコンを千草は手馴れた手つきで操る、その様子を勇斗と、直子、そうして頬を思いっきり膨らませたままの穂波が見つめる。

「千草もパソコン出来るんだな?」

 勇斗は呆けたような表情でその手付きを見つめ、感心したように鼻を鳴らす。

「馬鹿にしないでよね? こう見えてもCAD位だったら何とかできるんだから」

 きゃど? 何じゃいそれは……。

 首を不自然なまで傾ける勇斗に対し、直子は苦笑いを浮かべながらそれの説明をするが、馬の耳に念仏というか、勇斗の耳に念仏?

「アハハ、勇斗に理解しろといっても無理よね? どれぇ〜……フ〜ン」

 直子は鼻を鳴らしながらパソコンのモニターを見つめる。

「それで……こう、どうですかねぇ」

 千草はそう言いながらマウスから手を離す。それを合図のように直子をはじめ、勇斗と穂波の視線がそのモニターに一気に向けられる。

「へぇ」

「フワァ……」

「ほぉ」

 三人がそれぞれ言い方は違うものの、それぞれが感心した声を上げる。

 そのモニターに写っているのはこのお店『どりーむ』の完成予想図と、函館の風景が重なり、かなりカッコいいホームページだった。

「すごいわね? これ全部自分でレイアウトしたの?」

 直子は素直に驚きの表情を浮かべながら、照れたように頬を赤らめている千草の顔を見る。

「ハイ、結構気合入れて作っちゃいました、写真なんかの画像は黒川さんが提供してくれたおかげで結構いいものが出来たような気がしますが」

 千草に変わって直子がパソコンの操作を始め、様々なページを見てゆく。

「あら? これは?」

 直子の手が止まる、そこは『ご近所さん』というタイトルのページ、そうして、そこに写っているのは勇斗の姿。

「な、何で?」

 勇斗は目を白黒させながら千草の顔を見つめる。

「だって、お隣さんじゃない」

 クスッと微笑む千草の隣で不満そうな表情をあからさまに見せる穂波。

 なんだかまた波風が強くなってきたような気がするよ……トホホ。

 力なく肩を落とす勇斗の傍でほくそ笑んでいる人物がいたことは、まだ誰も気がついていなかった。

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