鳳凰の国
--第7話 机上のクーロン--
鳳国国王の伯鳳が蜀に来てから、3日が経ちました。
伯鳳は孔明どのの義娘の霄蘭とは会ったものの、挨拶程度しか進んでおらず、
結婚など1000年経ってもムリ、というような状態でした。
霄蘭も霄蘭で、義父の孔明にベッタリとくっついてお見合いする気を見せません。
蜀の皇帝に会う日もあと2日に控え、どうやったってムリな婚礼を成功させるために
日々精進している伯英(仮)の頭も限界を迎えているのでした。
そんな時の事・・・・、
「くぅー、どうすればいいんだ・・・俺は!(あーあ、孔明どのの御息女さま綺麗だったなぁー。
陛下の嫁なんかにするより俺が嫁にもらいたいよ・・・。)」
「おい、伯英!・・・おまえ、今やましいこと考えていただろ!」
「い、いえ!そんな事・・・あるわけないじゃないですかー・・・。」
伯英は顔に出やすい方なのか、伯季は勿論の事、伯鳳にも心を読まれます。
「それにしても、蜀に来てはや3日か・・・。叔父上たちは一体どうなさっているだろうか・・・。」
「なんですか、陛下。もう、国が恋しいのですか?」
たった3日でホームシックにかかっている国王、伯鳳。
仮病宰相に国を任せていて大丈夫なのか、と思うのは伯英だけです。
伯季は仮病こそ使うものの、宰相としては何ら問題ないからです。
「そんなわけないだろうが!流石に、たった3日ではならんわ!!」
「陛下〜、冗談ですよ、冗談。何も本気にしなくてもいいじゃないですか〜。」
「・・・叔父上もそうだが、おまえが言うと冗談に聞こえる時とそうでない時がある。」
「・・・一緒にしないで下さい。」
父親と一緒にされるのがそんなにイヤなのでしょうか。
いつの世も父親が偉大すぎると、その子は苦労するというものです。
と・・・こんな時に来客が・・・、
「こんにちは、国王陛下、伯英どの。蜀は如何ですか?」
「あっ、孔明どの!」
「これは、丞相どの・・・蜀はとても居心地が良く、いい国です。」
因みに、2番目は伯英、3番目は伯鳳です。
孔明のことを、伯英は『孔明どの』、伯鳳は『丞相どの』と呼びます。
「そうですか、それはようございました。」
「ところで、孔明どの!孔明どのは、仮病とか使って参内しなかった事ってありますか?」
「おい!いきなり何を失礼なことを聞いているのだ!」
「え〜、だって〜・・・(父上が毎回使って休んでいるからなぁ〜・・・)。」
こんな伯英たちを無視して、孔明は静かに答えました。
「そうですね・・・、ありますよ。」
「「ええぇ!!ホントにぃ?」」
「えぇ、先帝がいらした時に一度と今の陛下の時に一度・・・。」
どうやら、どんな偉い人でも仮病を使用した経験が一度以上あるようです。
しかし、伯季のように毎回は使わないでしょうが・・・。
「へぇ〜、孔明どのでも仮病とか使ったりするのですね〜。よろしければ、もっと詳しく教えていただけませんか?」
「えぇ、いいですよ(どうやら、伯季どのはお変わりないようですね・・・)。」
孔明は伯季と昔からの仲のようです。
それにしても、伯英は色々な人たちに心を読まれていますが、大丈夫なのでしょうか。
ガヤガヤ・・・ウワァー・・・
「・・・何だか外が騒がしいですね・・・。」
バーン!
「じょ、丞相!た、た大変です!!」
「どうしたのですか、伯約。」
と、大きな音を立てて姜維が入ってきました。
「そ・・・それが、馬超どのが・・・!」
「・・・また、ですか・・・。・・・申し訳ありませんがお二人とも、お話の続きはまた後にしていただけませんか。少々、用事ができましたので・・・。」
「「・・・は、はい。」」
丞相府の正門前-------
そこには一人の豪華な鎧を着た若武者が立っていました。
その若武者はずいずいと丞相府の正門をくぐると、馬小屋に直行しました。
・・・・が、それをとめる人物が一人。
「馬超どの、お待ちなさい。」
そうです、我らが丞相、孔明どのです!(物語違っ!)
「む・・・丞相!今日こそは丞相の九龍に乗らせていただきますぞ!!」
この人は馬 孟起どの、蜀の五虎将軍の一人です。
ぶっちゃけ馬マニア、否、馬オタクの馬超どの。
孔明の愛馬、九龍以外はどんな馬でも乗りこなしてきました。
今日はその九龍を乗りこなすため、意気揚々とやってきました。
「馬超どの・・・、これで54回目ですよ・・・。もういい加減に諦めては如何ですか・・・。」
「なんの!たとえ1000回落馬しようとも、この馬 孟起、乗りこなすまで諦めませんぞ!!」
「はぁ・・・、どうなっても知りませんよ・・・。」
馬超ではなく孔明が諦めてしまいました。
「よし!いざ、参る!!」
その頃、主人公でありながら脇役への道を一歩また一歩と歩み始めている伯鳳と伯英は・・・・
「あの、姜維どの・・・、一体何があったんですか?」
「はい・・・、実は五虎将軍の一人であられる馬超どのが丞相の九龍に挑みに来られたのです。」
「九龍?」
「はい、丞相が先帝陛下から賜った*駿馬ですよ。丞相ってばすごいんですよ!・・・」
・・・以下、姜維による丞相孔明どのの自慢話が始まって長くなるのでナレーションでご説明しましょう。
------先帝陛下がまだ帝位に就いてまもない頃、一頭の立派な駿馬が陛下に献上されたのです。
ある日、陛下がその駿馬に乗ろうとなされたのですが、その駿馬は陛下が背に乗られると急に暴れだしたのです。
周りにいた*側近たちは止めようとしたのですが、ついに陛下は落馬なさってしまったのです。
その騒ぎを聞いて丞相をはじめとする*重臣たちがやって来たのですよ。
すると駿馬は何かを感じ取ったかのように、ふと丞相の方を向きました。
そして駿馬は丞相に近づいてきて、とったそうです・・・・
絶対服従の姿勢を・・・・。
その事があって、陛下はその駿馬を丞相に与えられたのだとか・・・。
「・・・ね!丞相はすごい方でしょう!・・・あれ?」
と、姜維が話し終えて見てみるとそこには誰もいませんでした。
一方、伯鳳と伯英は・・・、
「そんなすごい馬だったとはな・・・、是非見てみたいものだ。」
「この間見たじゃないですか、お迎えの時に。」
「それはそうだが・・・、もっとちゃんと見てみたい・・・。」
「しかし、私はその馬より孔明どのの方がすごいと思うのですが・・・。」
などと雑談しながら馬小屋へと向かうのですが・・・、一刻後の事実をまだ彼らは知る由もなかったのです・・・。
馬小屋にて------
そこには馬が7頭ほどの馬が美味しそうにご飯を食べておりました。
しかし、そこには茶色の馬ばかりで黒い馬の九龍はいませんでした。
「・・・む!丞相、九龍をどこへやったのですか!どこにも見当たりませんぞ!!」
「おや?おかしいですね・・・。」
「何!丞相がこの馬 孟起を九龍に乗らせぬため隠したのではないのですか!!」
「馬超どの・・・、いくら私でもそんな事は致しませんよ。・・・それより、どうしたことでしょうか?もしや・・・。」
どこにもいない九龍、どこへいったのでしょうか。
孔明は何か心当たりがあるようですが・・・。
「おい・・・、これは何だ・・・・。」
「私が知るわけないじゃないですか、孔明どのの私物では・・・?」
これまた馬小屋へ向かっていたはずの伯鳳と伯英。
いつの間にか二人は迷子になっており、一つの大きな机のある庭に行き着いていました。
あれから一刻。
机の上に何かあるようです。
そのある物とは・・・・、
「・・・う、馬?」
「・・・馬でしょう・・・、これは。」
そこにいた物とは、立派な毛並みの馬でした。
何故か机の上にてとてもくつろいでいるご様子・・・。
「何で馬が机の上に乗っているのだ・・・。」
「私が知るわけないでしょうが、孔明どのの策では・・・?」
どんな策ですか。
しかし、馬が机の上に乗っているのは目の前の事実。
一体この馬は何なのか、何が目的なのか、本当に孔明の策なのか!?
この絶対ネタバレしているような状態を何とかできればいいのですが・・・。
次回につづく。
--言葉--
*駿馬・・・足のはやい、すぐれた馬。
*側近・・・貴人や権力者に非常に近いところ。また、貴人・権力者の近くに仕える人。
*重臣・・・重職にある臣下。また、身分の高い臣下。
以上、三省堂「大辞林 第二版」より。