鳳凰の国
--第6話 蜀の龍--
蜀には、伏龍と呼ばれる人物がいました。
その名を、諸葛亮、字を孔明と言いました。
蜀ができた時代の中国にはあと二つの国がありました。
魏・呉――
諸葛孔明の従兄弟と兄はそれぞれの国に仕えました。
後世の歴史家は、この事をこう言いました。
――蜀は諸葛家の龍を、呉は馬を、魏は犬を家臣とした
と。
後世の人々はこの時代のことをこう言う様になります。
三国時代――
蜀の丞相府――
「*丞相!・・・只今、鳳国からお使者が到着され、この書状を丞相にと・・・。」
「伯約、解りました。」
この方が蜀の丞相、諸葛 孔明どのです。
因みに伯約とは、孔明どのの愛弟子、姜 伯約どのです。
「丞相、手紙にはなんと?」
「えぇ・・・、鳳国の宰相、孔 伯季どのからですね。えぇと・・・、
私の義娘と鳳王とのお見合いについて・・・どうぞよろしく、と。」
結構、飛ばし飛ばしに読んでおられますね。
「ええぇ!!・・・霄蘭さまが・・・お見合いぃ!」
「そうです・・・、ついでに、鳳国との同盟もしてくれ・・・、と。」
伯季どのに言わしてみれば、国家の大事もついで扱いだそうです。
のどから手が出るより・・・と言うより、頼み込んでますね・・・(前回参照のこと)。
「・・・そんな・・・、霄蘭さまが・・・、お見合い・・・、お見合い・・・、王様相手になんか・・・勝てるわけないよぅ・・・・・・・。」
「伯約・・・?一体如何したのです?」
孔明どの・・・こちらも意外と・・・天然?
伯約どの、霄蘭さまが憧れのようです(恋という意味で・・・)。
早くも三角関係の予感がしますね。
ところ変わって、鳳国の王宮にて――
「陛下―、早く行きますよー。」
「あぁ、・・・では叔父上、行ってまいります。」
「はっ・・・、道中お気をつけて・・・。伯英、陛下を頼んだぞ。(睨みをきかせ・・・)」
「・・・は、はい・・・。」
まぁ、免職懸かってますからね。
「・・・で、何で徒歩なのだ!!」
「仕方がないでしょう、山道なんだから・・・。」
と、ざわざわと馬を引きながら山登りです。
王様は国外に行くのは初めてなので状況がよくわかっていません。
孔明どの屋敷に帰宅。
「お義父様!!お帰りなさいませ。」
「あぁ、ただいま・・・霄蘭。」
この霄蘭どのは孔明どのの義娘、絶世の美女との噂です。
「・・・お義父様?どうなさいましたの・・・?」
「えぇと・・・、おまえに見合いの話があるのだが・・・」
「嫌です。(即答)」
これは・・・0コンマの単位が出ました。
新記録更新です!
「え・・・いや、私はまだ何も・・・。」
「いいえ、お見合いなど・・・絶対に嫌です!!」
「し、しかし・・・、相手は鳳国の・・・」
「相手が誰であろうと、私は嫌ですわ・・・お義父さま。(ぎゅ・・・)」
「しょ、霄蘭・・・。」
霄蘭どの、意外と・・・・ファザコン?
可愛い愛娘に抱きつかれては、蜀の龍も為すすべありません。
「・・・丞相―!・・・・あ、あの・・・お邪魔でしたでしょうか・・・。」
「・・・え、い・・・いや、これは・・・、な、何か用かな?伯約・・・。」
何か、ものすごく気まずい所に入って来てしまった伯約どの。
いつもは冷静沈着な孔明どのも、焦らずにはいられませんでした。
「も、申し訳ありません・・・お義父さま・・・。では、私はこれにて・・・。」
「あっ・・・霄蘭さま・・・、行ってしまわれた・・・・。」
「・・・あー、伯約?私に何か用なのですか?」
伯約どのの片思いには見ていて涙が出てきそうです。
「・・・あ!申し訳ありません、丞相!えーと・・・、鳳国の国王陛下がもうすぐお着きになるそうです。」
「お出迎えですか・・・、解りました。」
閲覧者の皆様へ・・・、蜀に着くの早っ!、などとは思わないでくださいね。
時間差考証はこの際なしでお願いします・・・。
蜀の都、成都の付近――
「陛下―、あそこが蜀の都、成都ですよー。」
「ほぅ、結構活気がある町だなー。・・・あっ、向こうから軍馬が来るぞ。」
見てみると、なかなかに立派な黒い軍馬がこっちに近づいてくるではありませんか。
その後ろには、4,5頭の軍馬を従えています。
「ホントだ!・・・うわぁ〜、立派な軍馬ですね・・・先頭だけ。」
「うむ・・・先頭だけな。・・・きっと偉い人なのだな。」
いや、あなたも十分偉いですよ、と言いたくなるコメントをいただきました。
すると軍馬は目の前で止まって、乗っていた人は下馬して*拱手しました。
「貴方さまは鳳国の国王陛下であらせられますか。・・・私は蜀漢丞相武郷侯諸葛孔明と申します。」
「えぇ、私が鳳の国王、孔 伯鳳です。丞相どの直々のお出迎えありがとうございます。」
二人が堅苦しい挨拶をする中、この人は皆様の期待を裏切ってくれませんでした。
「・・・お二人とも!今時そんな堅苦しい挨拶ではモテるもんもモテませんよ!(!?)、・・・もっと、こう・・・漢たる者、女性の心に響く挨拶(?)をしなくては!!」
シーン・・・
嫌な空気が国中からありったけ流れてきました。
「・・・伯〜英〜っ!貴様は何を訳の分からんことを・・・!!」
「うぅ・・・だって・・・、父上に言われたとおりにしただけですよー・・・・。」
一体どんな命令をされたのでしょうか。
「とりあえず、お二人とも今日のところは我が屋敷にてお休みください。」
「「・・・あ、ありがとうございます・・・。」」
龍の恐ろしさを知れ、ということなのでしょうか。
――何が起こっても、いつも通りのいい笑顔で対処している丞相のお姿を見て、やはり丞相はすごい方だなぁ
と思いました。・・・・・この日の姜維の日記より。
そして、夜、寝所で伯鳳も伯英も、
やはり蜀の龍は只者ではない!と、思わずにはいられないのでした。
因みに、蜀の龍はというと・・・・
「お義父さま、都のはずれで盗賊が出たそうですよ・・・。」
「・・・それはいけませんね、明日にでも兵に命じて捜索ねば・・・」
「お義父さま・・・今夜は一緒に寝てもいいでしょう?・・・怖くて・・・。」
「しょ・・・しょ、霄蘭・・・・(やれやれ・・・、私としたことが・・・少し過保護に育てすぎましたかね・・・。)。」
と、可愛い愛娘の対処に困り果てているのでした。
一体これからどうなるのでしょうか・・・。
次回につづく。
--言葉--
*拱手・・・中国における敬礼の仕方。両手を胸の前で組み合わせること。交手。こうしゅ。
*丞相・・・中国で、天子を補佐して政務を処理した最高の官。戦国時代からみえ、明初に廃された。
以上、三省堂「大辞林 第二版」より。