鳳凰の国
--第5話 宰相の器 2--
さて、元気よく王様がいる広間に乗り込んだ宰相・伯季と伯英。
村娘を王様のお妃様にする計画の反対派の長、伯季(というより反対派は伯季一人だけ・・・)vs
王様、の闘いはどのような発展を見せるのでしょうか。
「おや?・・・これは叔父上、お元気そうで何よりです。」
ですが、当の王様は何も知りません。
「陛下!この私に何のご相談もなく、一介の村娘をお妃様にしようなどとは言語道断!!
この伯季の目の黒いうちはそのようなことは絶対にさせませぬぞっ!!」
「はぁ・・・、叔父上につきましては、伯英から伝わっているものと思いまして・・・。」
「・・・えっ!・・・陛下、いきなりこっちに話を振らないでください!!」
いきなり話を振られ、只今混乱中の伯英です。
しかし王様の追及は止まりません。
「何を言うか、伯英。そちがきちんと叔父上に話してくれているものと思っておったというのに・・・。
伯英、そちの今思えばただの*虚仮威しにもならないような、妙な策の事も話しておらぬと言うのか。」
「うぅ・・・、確かに虚仮威しにもならないかもしれませんが、父上にはちゃんとお話しましたよ!」
無駄にキレてますが、相手は王様です。
「ふん!あんな子供騙しな策は策というのも恥かしいわっ。」
「む・・・悪かったですねぇ、子供騙しな策で!」
この二人、王様の前で親子喧嘩を始めてしまいましたよ。
当初の目的はどうなったのでしょうか。
「・・・まぁまぁ、二人とも落ち着いて・・・。」
と、天然入りな王様は自分がこの喧嘩の放火犯とは気づかずに二人をなだめます。
「・・・とにかく、村娘をお妃様にするのはこの伯季、許しませぬ!」
とりあえず、話を元に戻しましょう。
「しかし、叔父上。私は臣下たちの権力争いの駒にさせられるのは嫌なのです。」
「何を仰るかと思えば・・・、諸国の姫を娶るより、一介の村娘を娶る方が駒になる確率が高いという事が解りませぬか・・・。」
「「・・・それはどういう事ですか?」」
「ええぃ!伯英まで聞くなっ!・・・まぁ、とにかく、村娘のお妃様候補が決まれば様々な派閥の臣下たちがそれぞれ買収にかかるでしょう。諸国の姫を買収するよりは安くて楽に済みますからな。」
確かに、ただの村娘ならちょっとお金積まれたらイチコロでしょうね。
お姫様なら、かなりの大金が必要ですからね。
「ふむ・・・、確かに一理ありますね・・・。しかし、ではどうすれば・・・。」
「そうですな・・・、一人だけ・・・、たった一人だけ、私の眼鏡にかなった人物がおります。」
「・・・その人物が私の妃に?」
「いや、その人物の娘です。一度会った事がありますが、その時はまだこんなで・・・」
――十二刻後――
「・・・・で、・・・・だったのです。」
「・・・はぁ・・・、もうよーく解りましたよ、叔父上・・・。」
その時伯英は永遠のではないですが、眠りについておりました。
「こら、伯英!人が話をしているというのに、お前は何を居眠りしとるかっ!!(頭ゴチン!)」
「痛ッ!・・・父上の話が長すぎるのが、悪い!!」
第2次親子喧嘩勃発!
「まぁまぁ、喧嘩してないで、その人物とは誰か教えてくだされ。」
「・・・は、はっ・・・、その人物とは、隣国の蜀国の丞相、諸葛 孔明どのです。」
「えっ!蜀の・・・、しかし、それでは政略結婚になるのではありませんか?」
「確かに、この結婚が成立すれば蜀国とは同盟関係になることは必定。
しかし、権力争いの駒にされるよりはどれほどマシでしょうかな・・・。」
まぁ、村娘よりこの方がイイことは目に見えています。
いくら権力争いでも、他国の丞相への根回しは大変でしょうから・・・。
「ですが・・・、同じく買収でもされたら同じではありませんか・・・。」
「その様な事は決してありません。孔明どのは公明正大で他国の権力争いなどに組するような方では
ありませんぞ。陛下も一度会われてはいかがですかな? この国との同盟は向こうにとっても、のどから手が出るほど嬉しい話でしょうからな。」
「叔父上は私に蜀国に行けと仰るのですか。」
「まぁ、一度出かけて来なされ。いつまでも、井の中の蛙大海を知らず、では困りますぞ。」
「しかし・・・。」
「ご心配には及びませんぞ。伯英を一緒に行かせますからな。それに、孔明どのの娘御は絶世の美女 との専らの噂ですぞ。」
一体どこでそんな噂を家に居ながらにして、聞いたのでしょうか。
伯季どの七不思議のひとつです。
「・・・で、何でまた私に話を振るのですか!・・・でも、美女に会えるのなら、まぁ・・・、いいか!」
「・・・おい、伯英・・・。わ、た、し、の妃候補だぞっ!」
「まぁ・・・、伯英は美女には目がないですからの。」
誰でもそうだと思いますよ。
「とりあえず、陛下!蜀に行きましょうよ!!美女もそうですが、孔明どのに宰相の心得を教えてもらえるよい機会ですし!」
「・・・伯英よ、わしではそんなに不満か・・・。」
「いや、だって・・・、父上はいつも仮びょ・・・グハッ!」
その時伯英の体には異変が起こっていました。
なんせ、かかと落とし、地獄車、四の字固め、と格闘技が実の父より入れられたのです。
第3次親子喧嘩勃発か!?
「・・・父上め・・・ひどい・・・。」
「ふんっ!口軽息子が・・・。」
「・・・今、一体何が起きたのだ・・・。」
訳がわからないのは、一番の被害者の王様でしょう。
「・・・ちょっと待てぃ!一番の被害者はどう見ても俺だろうがっ!!(どこかに指さし)」
「・・・お前、どこに指差しとるか・・・。」
つくづく馬鹿な息子だなぁ、と思う伯季どのです。
「まぁ、私も蜀の国情を見て勉強するかな・・・。では叔父上、孔明どのにその由を伝える書状をしたためてくだされ。」
「・・・承知しました。」
そして、大臣室に戻った二人。
「な・・・、何と仰いました?」
「だからな、陛下が伯英とで蜀国に行かれる、と言ったのだ。」
「ななな、何でそんな大事なことを外務大臣である私を差し置いて勝手に決めてしまわれるのですか!」
「だって、承嘉に言ったら、絶〜対に反対しただろうが・・・。」
「当たり前ではありませんか!陛下に何かあったら閣下はどうなされるおつもりか!!」
何か、瀬戸際って感じですねー。
「ふん!わしをナメてくれるなよ、もし陛下に何かあったら・・・わしは引退して、宰相の位を承嘉、そなたに譲ってやるわっ!!」
「ち・・・父上!!」
「閣下、今ご自分が言われたこと・・・ご冗談ではございますまいな?」
「ほぅ・・・、そんなに疑うならば、*誓紙でも何でも書いてやるぞ!男に二言はないっ!!」
あーあ、言っちゃいました。
「・・・いいでしょう。そこまで仰られるのならしたためてもらおうではありませんか。」
しばらくして・・・
「・・・これでよいだろうが。だがな、承嘉よ。こっちには、この伯英がおるのだぞ、
そう簡単にわしを追い出せると思ったら大間違いだぞ!!」
「父上〜・・・(感涙)。」
「閣下こそ、あとで後悔なされぬように・・・。」
「だ〜れが後悔なぞするか!この伯英は、馬鹿だが・・・役に立つ時は役に立つ!!(キッパリ)」
何か妙に引っかかるものがある言い方です。
「ち・・・父上・・・。」
「しかし、承嘉よ・・・。これはいわゆる賭けというもの・・・、陛下が無事に帰ってきたら・・・
そなたに謹慎1年を申し渡すぞ。」
「これはこれは、閣下は第1線を退かれるというのに、私には謹慎ですか。何と甘いこと・・・、
よろしいでしょう。謹慎くらい1年でも2年でも喜んでお受けしますよ。」
「ふっ・・・、言ったな承嘉。では、謹慎2年!」
「んなっ・・・、今のは言葉のあやですぞ!」
「2年でもいいと言ったから、2年!だから、さっさとこれに署名しろ。」
「むぅ・・・まぁいいでしょう・・・(こんなところで小学生とやってられるか!)。」
カキカキ・・・
「よし。お互い約束は違えぬように・・・。」
「はっ・・・。」
というわけで、伯季は外務大臣と大変な約束をしてしまいました。
伯季が引退するかは伯英の双肩に懸かっているわけなんですね。
さぁ、一体この勝負の行方や如何に!?
・・・それにしても、村娘の妃募集までしといてどうするつもりなのでしょうか・・・。
次回につづく。
--言葉--
*虚仮威し・・・底の見え透いたおどし。実質はないのに外見だけは立派に見えることにもいう。
*誓紙・・・誓いの言葉を書いた紙。起請文。
以上、三省堂「大辞林 第二版」より。