鳳凰の国





--第4話 宰相の器 1--





次の日―――
ここは、報道大臣宅。・・・否、孔 伯季宰相どの宅。

「父上ッーーーー父上ッーーーーー!」
「・・・何だ、伯英。そんなに大声で叫ばなくとも、聞こえておるわ・・・。」
「ええぃ!このずる休み親父ッ!まーた性懲りもなく、こんなもの読みやがってっ!!」

と、自分の父親から例の恋愛推理小説を没収。
でもそんな事より、この言葉遣い何とかなりませんかね・・・。

「あっ!こら、何をするかッ!返せっ、この遅刻息子!!」
「誰が返すかっ、父上のせいで陛下と外務大臣どのから煩く言われている俺の身にもなれっ!
 ・・・それに、この時代に流行性感冒(インフルエンザ)はないだろうが!!」

確かに、この時代にインフルエンザはないでしょう。
もっとマシな仮病はなかったのでしょうか。

「流行性感冒(インフルエンザ)と言っておけば、うつされるのが怖くて誰も見舞いに来んだろうがっ! 現に誰も見舞いには来とらんぞ・・・。」

インフルエンザと言えば誰も見舞いには来るわけがないでしょうねー。
うつされるととっても厄介ですから。
でも、それが伯季どのの策略なのです。

「それはそうとして・・・、今日こそは絶〜対に城に参内していただきますからね〜っ!」
「いいぞ。」
「いいぞ、ってあんたねぇ・・・、えっ!・・・やけにあっさりしているな・・・、
 何か裏でもあるんじゃないのか・・・。」

こんなにあっさり言われると、誰しも疑いたくなります・・・。
特に、仮病の常習犯が言うと・・・。

「ただーし!この恋愛推理小説を最後まで読んでしまったらの話だっ!・・・まぁ、
 あと120項くらいだし・・・、一刻もあれば十〜分!!」

120ページを一刻(約15分の設定)で読むなんて、早読みもいいとこです。
しかし、この条件でも納得できない男がここにいるのでした。

「何ーッ!・・・一刻、だとう・・・!・・・父上!それじゃぁ、遅刻してしまうでしょうがっ!!
 大体、今でも十分遅刻しているというのにーィ!」
「まーたか・・・、全く・・・毎朝何をやっているのか・・・。
 こんなのに育てた親の顔が見てみたいわい・・・。」

だったら鏡で自分の顔を見てろー、と冷静にツッコミたくなる伯英がいるのでした。

「・・・、もーいいから、早く読んでくれーッ!」

今日もまたいつも通りの伯季一家は遅刻という荒波にもまれているのでした。
それにしても、いつになったらお城に行くのでしょう?











その頃、お城の大臣室では・・・。

「くぅ・・・、また伯英どのは遅刻か・・・。昨日はあれほど自信満々に、
 『明日は絶〜対に、父上に縄をかけて牛で引きずってでも連れて参ります!』と、
 言っていたのになぁ・・・。」

外務大臣どのはいつになっても悩みの種が尽きません。

「だとしたら、『牛』、だから遅いのでは・・・?」

  シーン・・・

国土交通大臣どのが放ったこの言葉に、一同は沈みました・・・。

「・・・あ・・・あの、私、何か・・・変なことでも言いましたか・・・?」
「・・・い、いや・・・国土交通大臣どの、貴方は何も気になさらなくてよろしいのですぞ・・・。
 (肩ポン・・・)」
「そう・・・ですか、ならばよろしいのですが・・・。」

ハハハハ、とその場を流し、妙なオヤジギャグとでも言うべき出来事を鎮めたのでした。
しかし、この原理で代弁するなら・・・、
きっと、『馬』なら速いのでしょうねぇ・・・。











三刻ほどして―――

  バーン!!

「・・・も、申し訳ありません!遅刻しましたー・・・はぁはぁ・・・。」

と、いつものパターンです。

「伯英どの!まーた遅刻ですかっ!!貴公はいつになったら・・・」

と、これまたいつものパターンなのですが・・・、

「・・・承嘉、そんなに怒ると・・・白髪が増えるぞ。」

と、これもどこかで聞いたセリフです、が何かが・・・、

「・・・!・・・これは・・・孔宰相閣下・・・。・・・お久しぶりでございます・・・。
 ・・・ご病気の方はもうよろしいのですか?」
「あぁ・・・久しぶりじゃな、承嘉。病気なんぞ、向こうから飛んで行ってしまったわい。」
「・・・それはようございました(全く・・・、似たもの親子だ・・・)。」

どうやら、外務大臣どのには宰相どのの仮病は薄々わかっているようです。
まぁ、元気の塊みたいな人ですからね。
病気の方が逃げて当然です。

「それにしても、承嘉よ・・・、そなたは陛下に高々一介の村娘をお妃様に迎えるように
 進言したそうだな・・・。それは真か? だとすれば、そなたの目はただの飾りだの・・・。」

この人もまた、人に喧嘩を売る名人です。

「確かに進言はいたしましたが、目が飾りとは・・・お言葉が過ぎまするぞ・・・。」
「いいや、そんなことはない。王に一介の村娘など・・・いくら上皿天秤に錘(おもり)を
 加えても、つり合うはずがなかろうがっ。」

なぜ上皿天秤なのかよくわかりませんが、宰相どのの言っていることは正論です。
いくら仮病を使ってずる休みしていても、流石は腐っても宰相・・・、といったところでしょうか。

「しかし、陛下が権力争いを嫌って諸国の姫や*豪族の娘も嫌だ、と仰っておられるのです。
 村娘をお妃様にというのは、陛下もご同意の上の事です・・・。」
「ほほぅ・・・、だがそのようなことはこのわしの目の黒いうちは絶〜対に許さん!!」
「しかしながら、陛下が・・・」
「ならば!今すぐ陛下にお会いして、この伯季がご忠告を致す!! 伯英、付いて参れっ!」
「は、はっ・・・。」

と、すごい勢いで大臣室を出て行きました。
今の伯季どのはいつもとひと味もふた味も違います。
いつもの仮病を使って、家で恋愛推理小説を読んでいるただのオヤジではないのです。
今の伯季どのはまさに宰相!・・・因みに、2ヶ月ぶりのお仕事です。
インフルエンザで2ヶ月も休まれてたまるかっ、て感じですね。
さぁ、双方ともこれからどうでるのか!?






次回につづく。





--言葉--
*豪族・・・その土地に長く住み、広い土地や大きな財産を持ち、強い勢力を張る一族。
  以上、三省堂「大辞林 第二版」より。










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