鳳凰の国





--第3話 伯英の*奇策--





次の日の朝――。
大臣たちは、王様が広間に来るのをドキドキしながら待っていました。
というより、待っているしかなかったのです。
なぜなら、肝心の報道大臣がまたまた遅刻しているからです。

「まったく・・・、言いだしっぺが遅刻するとは・・・。・・・毎度の事だが・・・。」
「本当に・・・。こちらは言われた通りに準備したというのに・・・。」
「しかし、あんなものであの陛下がご納得されるのか・・・。」

  バーン!

「も・・・、も申し訳ありません!遅刻しましたー、・・・はぁはぁ・・・。」
「伯英どのっ!こんな大事な日に遅刻するとは何事ですかっ!!」
「も、申し訳ありません・・・。城までの近道が工事中だったものですから・・・。」

またも、訳の分らん言い訳(by 外務大臣)をしている伯英。
ホントに毎朝何をやっているのでしょうか。

「・・・国土交通大臣どの、城までの半径*100里の道の工事状況は?」
「はっ、・・・工事など一切行っておりません。」

広間に微妙にイヤな空気が流れました・・・。

「・・・伯英どのっ!貴公はまたも訳の分らん言い訳をっ・・・!」
「あわわ・・・、外務大臣どの・・・、怒ると白髪が増えますよ・・・。」

空気が読めずに、酸素系洗剤と塩素系洗剤を混ぜる(因みに混ぜると塩酸になるので危険・・・)男伯英・・・(南無・・・)。

「・・・伯英どのっ!!!貴公はそれでも大臣ですかっ!!だいたい、貴公は・・・」

  国王陛下のおなり〜

「「陛下、おはようございます。」」
「・・・(はぁ・・・、陛下がいい間合いに来てくれてよかったよ・・・。おかげで助かったー。)。」
「うむ、皆のもの、おはよう。」

かなりイイタイミングで王様が来てくれたので、伯英はとてつもなく長〜い説教から逃れることができたのでした。

「おや?伯英ではないか・・・、今日は遅刻しなかったのか?・・・今日は春でも大雪だな・・・。」
「陛下、それはお言葉が過ぎますよ。今日は勿論遅刻しましたよ!」
「そうか、それはよかった。・・・大雪から免れるな。」
「陛下っ!よかった、ではありませんぞ。報道大臣は毎日遅刻しているのですぞっ。クビにならない方が不思議なくらいです。」

それはかなり正論です。どうしてクビにならないのでしょうか。

「それもそうだが・・・、それより、*宰相どのはどうなされたか。」
「えっ・・・えーと、父上は・・・、その・・・あの・・・」
「どうしたのだ、伯英。余に言えぬことでもあるのか。」
「うぅ・・・・(言えるわけない・・・、父上は仮病を使って家で恋愛推理小説を読んでいます、なんて・・・言えるわけない・・・)。」

確かにそんなこと言ったら、たとえ王族でも免職間違いなしですからね。
その時、口を濁す伯英の前に救世主とも呼べる人が現れました。

「陛下、宰相どのは流行性感冒(インフルエンザ)でご欠席されています。」
「おぉ、農林水産大臣か、・・・そうか、宰相どのはご病気か。」
「・・・(農林水産大臣どのー、ありがとうございます!この伯英、一生恩に着ますよ!)。」

きっと伯英の頭の中には何人もの天使さんたちが飛び回っていたことでしょう。

「伯英、宰相どののご病気はどうなのか。」
「・・・えっ?・・・あっ・・・はぁ・・・、だいぶ逝っちゃってます(頭の中が・・・)。」
「何!そんなにお悪いのか!!」
「えっ・・・、いえ、陛下がご心配されているほどではありません。まぁ、何日かすれば回復しますよ(頭の組織が・・・)。」

まったく・・・、自分の父親を何だと思っているのでしょうかねぇ・・・、この子は・・・。
おそらく機械か何かだとでもおもっているのですかねぇ・・・。
因みに、脳細胞はほかの細胞とは違って20歳を過ぎるとだんだん死滅していき、回復することはないらしいですよ。

「・・・それならばよいのだが・・・、もし宰相どのに何かあろうものなら余が天上の父上に叱られてしまうよ・・・。」
「・・・と、とにかく、父上のことは9割9分9厘は大丈夫ですので、そろそろ本題に入りませんか?」

そうです、この長い会話は前振りに過ぎません。
本題はここからなのですから。

「そうだったな、では宰相どのの事は伯英に任せるとするか・・・。で、昨日言ったこと、できたのであろうな。」
「・・・(ま、任されてしまった・・・。明日は絶対引きずってでも連れて来なければ・・・。)。は、はい。なんとか・・・。」
「・・・ほぅ・・・、できたと申すか。ならばその証拠を見せよ。」
「・・・はっ、かしこまりました。・・・あれをこれへ。」

と、伯英の一言で持って来られた物は、大きな大きなカブ・・・ではなく紙でした。
次に伯英は紙を広げるように命令すると、王様に、これでございます、と言いました。

「・・・何だこれは。」

王様はその大きな紙を見ました。
するとその紙には、『鳳王が王国全土』と大きな文字で書かれており、その真ん中には昨日王様が言ったとおりの条件付立て札が立っておりました。
王様はもうキレル寸前といった顔つきで、伯英は自信満々、大臣たちは針のむしろでも座っているかのような心地でした。

「どうです、陛下。陛下の仰せ通り、この国全土に立て札を立てましたぞ。」
「・・・ほぉ・・・これでか・・・?」
「「・・・・(・・・生きた心地がしない・・・!!)。」」
「・・・こんなもので余が納得すると思うてかっ!!伯英よ、そちが何を考えておるかは分らんが、 みすみすそちの計略に乗る気はないわっ!・・・屋敷で*謹慎しておれ!」
「「・・・・(うぅ・・・、やっぱり・・・。我々にはどんなお咎めが・・・)。」」

とその時、

  ハハハハハハハハハハ!!

と笑い声がしました。

「ムッ・・・、伯英よ、謹慎を申し渡されておきながら何ゆえに笑うかっ!」
「陛下・・・、私は陛下が仰せられた通りにしたまでですよ・・・。それなのに謹慎とは、酷過ぎるではございませんか。」
「何っ!これのどこが余の言った通りにやったのか!これはただの紙切れだぞっ!!」
「いいえ、大臣らの話によれば、陛下は皆の前でこう言ったとか・・・、
『明日の朝参までに、我が国全土に王が王妃候補を募集しているという立て札を立てさせよ!!』、と。
ところがこの紙には『鳳王が王国全土』と書かれております。これのどこがおかしいのでありましょうか。」

伯英は言い終わると静かに*拱手して後ろに下がりました。
その後はただの空気が流れているだけでした。
そして、王様は静かに言いました。

「・・・ふっ・・・、流石はかの孔 伯季の息子だな・・・。・・・余の負けである。・・・そういえば、父上も叔父上にこんな風に騙されていたような・・・。」
「ご安心ください、陛下。これの制作と同時進行で*早馬を本物の全土に飛ばし、陛下の命令を伝えておきましたゆえ・・・。」
「・・・なんと根回しのよいことだ・・・。そういえば叔父上もこんな感じにやっていたな・・・。」
「・・・陛下、褒めてくださるのはうれしいのですが、いちいち父上と比べるのはやめてください・・・。」
「はははっ!そうであるな・・・。流石は伯英であるな!」

と、伯英の奇策により、一件落着めでたしめでたしなのでした。





「しかし伯英、余の妃はまだ決まっていないわけだし・・・、また頼むぞ。」
「・・・はっ・・・(くそー、絶対に明日は首に縄つけても父上を*参内させなければ・・・)。」

と、また何かたくらむ伯英がいるのでした。





次回につづく。





--言葉--
*奇策・・・普通の人には思いつきにくいはかりごと。奇抜な策略。奇計。
*1里・・・距離の単位。(中国では約400メートル。)
*宰相・・・(1)首相。総理大臣。
      (2)昔、中国で、天子を補佐して政務を処理する最高の官。丞相(じようしよう)。
*謹慎・・・言動を反省し、おこないをつつしむ・こと(さま)。
住む所を定め、入り口を閉鎖し、自由な行動を許さなかった。
*拱手・・・中国における敬礼の仕方。両手を胸の前で組み合わせること。交手。こうしゅ。
*早馬・・・早打ちの使者の乗る馬。また、その使い。
*参内・・・宮中に参上すること。
  以上、三省堂「大辞林 第二版」より。










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