鳳凰の国





--第2話 大臣たちの苦悩--





  さて、前回王様にかなり無茶苦茶な命令を下されてしまった大臣たちは、会議室でそれぞれ意見を出し合っていました。

「おい、農林水産大臣!何かいい考えはないのかっ!」
「何ゆえ私に聞くかっ!こういう場合は、報道大臣に聞くのが普通であろうが!!」

この国には何故か報道大臣という人がいます。
この国の報道大臣の仕事は、主に王様の命令の発布や裏で*密偵などを使って、敵国の内情を探り、
それをまとめて他の大臣たちや王様に報告すること、・・・がほとんどなので、この場合は報道大臣が
この命令を遂行しなければならないはずなのですが・・・。

「確かにそれは正論中の正論だが、・・・肝心の報道大臣がいないから聞いているのではないかっ!」

因みにこの人は外務大臣です。

「だからって私に聞かなくてもいいではないかっ!・・・で、報道大臣はどこだっ!」
「おそらく今日もいつものことであろう・・・。」
「「・・・・。(また・・・遅刻、か・・・。)」」

どうやら報道大臣は、遅刻の常習犯のようです・・・。










一方、報道大臣は。

「ヤバイヤバイ!また遅刻する〜っ!!」

  ワンワンッ!!(しっぽ振り×2、袖つかみ)

「あーもうっ!また今度休みの日に遊んでやるから・・・、放してくれぇーっ!!」










*一、二刻(一刻は約15分の設定)ほどして・・・。

  バーン!!

「も、も申し訳ありませんっ!!遅刻しましたー・・・はぁはぁ・・・。」
「伯英どのっ!*貴公は一体何回遅刻すれば気が済むのですかっ!!」
「・・・100回くらい?」
「伯英どのっ!それが、一年間のうち300回は遅刻している貴公の言い分ですかっ!100回くらいなら まだやさしい方ですよ!!」

一年間に300回って・・・、今では太陽暦で一年間は365日って決まっていますが、これは古代中国の話(のつもり・・・)なので、*太陰暦の数え方となります。
よって、太陰暦上での一年間は約354日です、・・・って、ほとんど毎日遅刻していることになりますね(勿論休みの日はある)。

「うぅ・・・、申し訳ありません・・・。実は、義母の実家の犬が産気ずいてしまって・・・。」
「伯英どの・・・、それは5日前の遅刻理由ではありませんでしたかな?」
「え・・・そ、そうでしたっけ?・・・・あぁ、私の勘違いでした!本当は、道に人が倒れていて、放っておけなかったのです・・・。」
「伯英どの・・・、それは2日前の遅刻理由ではありませんでしたかな?・・・というより、いやしくも
一大臣として大臣名簿(?)にその名を列ねている者の言うことですか!
訳の分からん言い訳を考える暇があるのなら、たとえほんの少しでもこの国のためになる事でも考えたらどうですか、・・・いや、考えてもらわないと我らが困るのだっ!」

そうです。
何だかんだと騒いでも、この人が報道大臣である事には何の変わりもないのです。
今はこんな事で騒いでいる場合ではありません。
王様の無理難題を何とかして遂行しないと、どんなヤバイ刑が待ち受けていることやら・・・(きっと投獄とかそこらではない)。

「・・・外務大臣どの、私がいない間に何があったのですか?何かイヤな予感でいっぱいなのですが・・・。」
「ふっ・・・、勘だけは鈍ってはいないようですな・・・。実は、かくかくしかじかで・・・。」

かくかくしかじかで、・・・通じるからいいのです!!
初めての王様の*暴君ぶりを話し終わり、意見を仰ぎます。

「・・・なるほど・・・。・・・ぶっちゃけた話、ムリですな。」
「・・・、いや、それはそうとても、ごもっともなのですが・・・、そこをこうなんとか・・・。」
「ムリなものはムリですよ。明日の朝参までに、だなんて。絶対にムリです。」
「確かに、誰もがムリを唱えても、我々はやらなければならないのです。できなければ、免職だけでは済みませんぞ。」

誰もそこまでは口にしていませんがね(ナレーション以外)。
しかし、もしできなければ色々追及されるかもしれません。

「伯英どの、もうこうなったら貴公のお父上に何かよい策を授けていただくしかありませんよ。」
「農林水産大臣どの、しかし、父上は・・・。」
「分っています。えーと、確か・・・、流行性感冒(インフルエンザ)でご欠席・・・。」
「えっ・・・いや、それは・・・(父上は絶対仮病だ・・・)。」

どうやら親子で似たようなことをやっていたようです。
一体遅刻したり、欠席したりして何をしているのでしょうか。










一方報道大臣宅では・・・。

「・・・へっ・・・、へっ・・・、へ〜くしょいっ!!(注:くしゃみ)」

ものすごい変なくしゃみをしたこの人が、報道大臣伯英の父上どのです。

「あー・・・、全く、伯英だな・・・。人の噂しおって・・・、とてもイイとこだったのに・・・。」
「貴方、またそんなもの読んで・・・。お仕事はなさらなくてよろしいのですか?」
「うん?・・・何だ、雛鈴か。・・・いいの、いいの、・・・そんなことより、いや〜、最近の恋愛推理小説ってうまくできているとは思わんか。」

どうやら、仮病まで使ってこんなものを読んでいたようです。

「・・・もう、貴方までそんなことして・・・。伯英も毎日のように遅刻しているし・・・。」
「ほほぅ・・・、あいつそんなにも遅刻ばっかしておるのか?」
「もう、一年間に300回は遅刻していますわ。」

ここでも、遅刻伝説は黙認されているみたいです。

「ふーん、あいつそんなに遅刻してよくクビにならんな。」

あんたもナ・・・、と奥さんはそう思いたくて仕方がありませんでした。










ところ変わって、こちらは大臣会議室。

「・・・はっ・・・、はっ・・・、はくしゅっ!!(注:くしゃみ)」
「おや?伯英どの、貴公も風邪ですかな?」
「いや、これはきっと誰かが噂しているのですよ(くそー、父上め、人が噂したからって、噂し返してきやがった・・・)。」

こちらでも同じようなことが起こっているのでした。

「それにしても、伯英どののお父上もダメとなると如何した事でしょうか・・・。」
「うーん・・・、そうですねぇ・・・。・・・・・あっ!」
「「何かいい案でもっ?」」
「うぅ・・・、え、ええぇ・・・まぁ・・・。」

流石に全員で押しかけられたら、たまったもんじゃないのでしょうね・・・。

「どうかそれをお聞かせ願えませんか、伯英どの。」
「分りました。では、お耳を拝借・・・。」

と言うと、また全員が押しかけてくるので、正直困るんだけどな〜・・・、と言い出せない報道大臣伯英でありました。
さぁ、伯英が考えた名案とは如何に!?





次回につづく。





--言葉--
*密偵・・・ひそかに秘密や内情を探ること。また、そうする者。スパイ。
*一刻・・・(「剋」とも書く)陰暦で用いられた時間の単位。
*貴公・・・二人称。男性が同輩程度の男性に対して用いる語。
*太陰暦・・・月の運行を基準として定めた暦法。純太陰暦は朔望月をもとにして日を数えるので、
      一年は約三五四日となり季節の推移に合わなくなる。
*暴君・・・非常に乱暴で人民を苦しめる君主。
  以上、三省堂「大辞林 第二版」より。










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