とある街角にて
足早に歩く

封じられた書『グラン・メディカ』下巻の中に、疫病に対抗する手段があるかもしれない。

私は他の『グラン・メディカ』を試そうと、図書館へ出向いた。
それから貸本屋を巡り、その次は書を所持していそうな知り合いの元を訪ねて回った。

どの『グラン・メディカ』下巻も同じだった。
おそらく街中、いや世界中に存在する『グラン・メディカ』下巻は開くことができないのだ。

それでも、もしかしたら一冊ぐらいは封を免れた本があるかもしれない。
あきらめきれなかった私はバザールで古書を漁ることにした。
どうせ他にやることもないのだ。

どうやら本を探しながら口に出してしまっていたらしい。

事情を説明すると驚いたことに、彼も若いころ「開くことのできない本」を見たことがあるという。
詳しい話を聞かせてもらいたいと申し出ると、老人は笑みを浮かべて言った。

老獪な商人だ。苦笑いしながら私は古びた本の中に真新しい本を見つけ、それを買うことにした。
老人はこんな本うちにあったかなと訝し気な様子で代金を受け取る。