公的な相談機関には、それぞれ「守備範囲」があり、また「特性」があります。「場違い」なところに相談を持ち込まないようにしましょう。また、「公的機関だから安心」という過大な期待はやめましょう。自分自身の立場や要望ははっきりとしておきましょう。 公的機関には次のようなところがあります。 1、労働基準監督署(労基署) 全国の主要都市などにあります。労働基準法、労働安全衛生法などの罰則がある労働関連法について、指導や是正勧告、あるいは摘発をします。労基署に自分が受けている不利益なことや違法な状態に関して相談するときには、感情的な表現やあいまいな記憶を持ち出さず、はっきりとした「証拠」を示す必要があります。 2、労働局 2001年に成立した「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)」により、全国の労働局(厚生労働省の組織)において、個別労使間紛争(雇用トラブル)についての相談を行えるようになりました。 労働局は全国にあります。ただし、労働相談員は公務員でないことがあります(経営サイドの「労務専門家」が相談に当たっていることすらもあります)。労働局に相談に行き、この相談制度を利用するときには、曖昧な態度をとらないことです。以下は、当サイトで把握している問題例です。 1、相談者の本心は会社を辞めたくないのに、辞める条件についての話し合いが始まってしまい、合意をさせられてしまった。 2、会社に対して、自分の要求を示す内容証明郵便を出すことになったが、労働局の相談員が示した「文例」には、「私のほうにもいたらない点がある」というような箇所があり、その文例のまま出したが、後に自分の方にも「問題があった」という事実と異なることを示す「証拠」となってしまった。 3、いじめ問題で困って相談したが、相談員が本社へ行って1人で相談するよう「手配」した。そもそも、集団でいじめられている会社の本社に1人で行くことなど出来ず、相談をあきらめた。 4、相談を受けてもらった相談員から、セクシャルハラスメント的な言動や、労働相談とは関係のない個人情報について聞かれた。おかしいとは思ったが個人情報の一部を話した。 5、「裁判のほうが良い」といわれて裁判を行ったが良い結果を得られなかった。※「裁判のほうがよい」とか「裁判なら出来る」という発言があったときは、往々にして「うちでは出来ないから他でやって下さい」ということである。このような「助言」を受けた側は「裁判をすれば勝てる」とか「裁判なら権利を守れる」と思いがちだが、そうではない場合が多い。 3、労働センター・労政事務所 都道府県単位で労働相談などを行っていますが、無い都道府県もあります。東京の場合は、「労政事務所」から「東京都労働相談情報センター」と名称が変わり、就職についての相談機能が強められる一方、雇用トラブル対処については弱められている感があります。年間3万件を超える労働相談を受けていた新宿労政事務所も閉鎖されました。 労政事務所や労働センターに相談するときは、自分の抱えている問題を簡潔に(短時間に)説明できるようにしましょう。労政事務所の扱う相談件数は非常に多く、1件の相談に対して職員が対応できる時間は限られています。「これを読んで下さい」といって、膨大な資料を持ち込まないようにしましょう。1000字以内程度で、時系列を追って具体的事実を記述した「問題の概略」のような文書を作って提示しましょう。(他の労働相談機関を利用するときも同じです) 4、労働委員会 都道府県単位であります。また、労働組合活動に関する交渉斡旋や不当労働行為についての救済申し立てを行う機関です。東京都の場合は労働組合員であること、あるいは労働組合を結成しようとしていることが、「斡旋」を受ける条件になります。最近、労働委員会の形骸化が指摘されています。個別労使問題に限らず労働組合が受ける不利益(法律違反の不当労働行為)からの救済について、審理に長期間かかり、しかも決定(命令)を出さないケースが目立っています。このため、労働委員会と共に裁判を起こさざるを得ないケースが多くあります。 5、労働審判制 2006年4月からスタートした労働裁判に準ずる制度です。これまでの労働争議で裁判になった場合、「長期化」「多額の費用」という問題があり、これを解消する目的もあり制度化された「日本の労働裁判所制度」ともいえます。労働審判制では最長3回の審議、おおよそ6ケ月の間に解決を図るといわれています。ただし、3回の集中審理によって結論を出すために、申し立てる側がかなり資料を整理しておく必要があり、また、自分の主張も明確にしておく必要があります。決定に不服な場合は地裁での裁判に移ることや、その効力について、あるいは労働者の利用法など、さまざまな問題点・課題を抱えての制度スタートとなります。労働側、使用者側、中立の3人の審判員が審理しますが、その審判員の質も問われます。 制度の利用については、労働者側に立つ弁護士や、労働組合に事前に相談しましょう。 ※ここでいう「公的機関」とは「行政」サイドが設けている労働相談機関とします。NPO法人や労働組合、公益法人、弁護士、社労士などはこれに含みません。また、あたかも「公的機関」やNPO法人、労働組合であるかのような装いを持つ私的な労働相談所(インターネットのサイト含む)には、「示談屋」「事件屋」といわれ、法外な相談料を要求してくる者たちがいますが、これは不法な行為です。労働相談を名目にして相談料を取った場合、「非弁護士行為」として罰せられます。危ない? と感じたら、すぐに公的機関に相談しましょう。基本的には労働相談を名目にして、お金を請求できるのは弁護士あるいは内容によっては社労士だけです。労働組合やNPO法人は原則的に相談無料のはずです。公的機関はもちろん無料です。 |