いま、何が問われているのか?

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1、17%前後という「組織率」の実態。

2017年の日本の労働組合組織率は17%程度です。現在、日本で働いている全労働者の80%以上が、労働組合に加入していないのです。

ところで、この17%の組織された労働者は、どのような労働者なのでしょうか?

大企業労働者(正社員中心で、パートや契約・嘱託社員は加入していないことが多い)と公務員労働者がほとんどです。しかも、企業においては、その「組織されている」労働組合の多くは企業別に組織されていて、企業の利益と表裏一体の「第二人事部」と言われているような御用組合です。それどころか、御用組合として活動しているならばまだしも、労働組合に加入している労働者自身、なぜ自分が月々の給与から「労働組合費」を天引きされているのか分からない?というようなことまで、良くあるのです。

そして、これらの「労働組合」の役員や執行委員は、労働組合を結成した当時のメンバーではなく、会社に入社したときにすでに労働組合が「ユニオンショップ」(労働組合員であることが社員の条件という労使間協定)としてあって、自分は会社組織としての労働組合の役員を務めている人達なのです。

こうした背景があるから、日本の労働組合は、会社の利害を離れて、その活動を考えることが出来ないなのです。終身雇用・年功序列制度のもとで、日本の会社は、その従業員たる労働者を抱え込み、企業人間を作り、福利厚生体制を作り上げてきましたが(大企業の場合です。中小企業や零細企業は、この「会社主義」に達していません)、労働組合も会社組織に飲み込まれ、会社組織を補完してきたのです。

このような労働組合は、リストラには無力です。「人員削減が出来なければ会社は存続しない」とか「リストラが成功しないとライバル会社に負けてしまう」などという経営者側の強い姿勢に会うと、たとえ、黒字を出している企業の組合でも、ベースアップ要求見送りとか、人員削減案を検討(といいながら賛成)していってしまうのです。それどころか、「リストラ」が進む中で、企業は人事・労務を御用組合に丸投げしている感すらあります。労働者は自分の賃金の中から、自分に対する労務管理費・人事費を支払っているような形にすらなっているのです。

年功序列賃金が、訳の分からない「成果主義」や「実績主義」に変わり、大幅な減給がまかり通るようになり、終身雇用が「年俸制」と抱き合わせの有期雇用契約へと変わりつつある現在、会社が労働者の生活を保障することなど無くなっているのですが、それでも労働組合は、企業主義をとり続けています。

いま、日本の労働者の19%を組織するにすぎません。そしてその労働組合のほとんどは、ただ単に「会社にある」だけの労働組合に過ぎないか、会社の営利追求システムの補完物になっているのです。これでは労働者が労働組合から離れていってもしかたがありません。

2、労働者の実態、要求に合った形の労働組合が必要だ。

日本プロ野球選手会のストライキは、労働組合の原点を思い出させてくれました。

働くものが、経営者とは違う視点から、自分たちの生活手段や働くことにかかわる問題について集まり、そして要求を協議・検討して作り、時にはストライキを含む団体行動を行って、要求の実現を目指すということは、労働組合の基本です。

プロ野球の一流選手の年俸は、確かに労働者の平均からはかけ離れて高く、就業形態にも独特のものがあります。しかし、彼らは、球団を奪われ、試合を奪われたら、もうなにもないのです。背水の陣でのストライキ! プロ野球選手会に集まる人達は、団結権、団交権、団体交渉権の労働三権を見事に実現しました。

ところで、日本の多くの労働組合はどうでしょうか?

1項で述べたとおり、企業あっての労働組合、第二人事部として生産性を上げるための企業システムとしての労働組合ばかりではないでしょうか。企業の不正には目をつむり、企業とともに危険な商品を作ったり・・・。労働組合のあり方が問われています。

加えて、同じ職場で働く労働者が入れる労組組合であることが重要です。パートも契約社員も、場合によっては派遣社員も対象にします。いまある大企業労働組合などは正社員で管理職一歩手前の社員が委員長になり、管理職になれば、そのまま人事にまわることが当たり前です。また、職場の班長は「係長」が務めるなど、会社組織と表裏一体の状況があります。しかし、労働者の生活、権利、健康管理といった、労働組合の活動面から考えれば、管理職的社員もパートも全く同格です。管理職的労働者によって執行部が形作られ、係長的労働者が職場委員や班長を務める労働組合は、それ自体労働組合の基本原則を満たしていないともいえるのです。

労働者のための労働組合でなければなりません。企業にあっては、あくまでも営利を追求する経営者に対して、労働者の権利と生活、そして健康を第一にした要求をぶつける必要があります。労働組合はあくまでも経営者から独立した存在であり、労働者のための自治機能を持っていなければならないと思います。

企業・経営者から独立した存在になるには、第一に「企業の外にある」必要があります。それは企業別組合でもいえることです。企業を超えて同業種あるいは同職種そして、同じ地域の労働組合と連携して企業に当たること、同じ業種・職種・地域の労働者の要求をまとめることが必要です。

また、企業から独立して存在する、地域労働組合(地域ユニオン、コミュニティユニオン)も有効なあり方だと思われます。近年、派遣、フリーター、パートなどの「非正規」労働者の権利と生活を守るために活動している「ユニオン」が脚光を浴びています。ユニオンは企業内化したり、官僚主義的なったりしている日本の労働組合とは違った立場と発想で活動しています。これらの「ユニオン」は基本的に個人加盟方式をとっています。さまざまな会社の労働者が1人ずつ「ユニオン」に加入するのです。

そして、その加入したユニオンが労働三権を行使して、加入組合員の労働条件や労働環境の問題に対処するのです。この方式では、「大きな組合」は出来にくいということがあります(地域の組合単位が加入する合同労組は比較的組織人員が多くなります)が、「小さい」ことがマイナスにはなりません。いくつもの「ユニオン」が共同・連帯して活動すれば、「小ささ」は多様な活動を持つ、「広い」ユニオンのネットワークになっていきます。発想の転換も必要です。

※なお、最近、インターネット上で「だれでも入れる」「個人でも入れる」ユニオンとして宣伝されている「ユニオン」のなかに、単に個々の労働者の雇用トラブルにおいて、その「交渉役」を請け負う形の「ユニオン」がいくつか現れています。このような「ユニオン」の特徴は、あらかじめ作られている「ユニオン」に、雇用トラブルを抱えている労働者が交渉を委任するような形をとっています(甚だしい場合は「解決」した労働者は、そのユニオンをやめていくシステムすらあります)。これらの運営主体は、元労働行政のや人事担当の「専門家」であったり、社労士などの「士業」だったりしています。果たしてこのような組織が「労働組合・ユニオン」といえるのか? 労働組合を労働者の自主的・主体的な団体として考えるのであれば、答えは自ずから明らかであると思います。 

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