環軸椎回旋性亜脱臼(AARS)
これまで頚に変形がなかったお子さんが突然斜頚(頚を水平方向の一方に向け、その反対側に頚を傾ける)を呈し、第1、2の頚椎の間に回旋性の変形がある場合を、環軸椎回旋性亜脱臼(atlanto-axial rotatory subluxation)、或いは環軸椎回旋固定とも呼びます。atlanto-axial rotatory subluxationの頭文字を取ってAARSと呼んでいます。
この疾患は、病態(簡単にいえば変形の形)に対して命名されたもので、原因に対して呼ぶ病名ではありません。原因はいくつかあります。この中には頚椎に対する様々な程度の急性外傷のように原因がはっきりしているものから、中耳炎をはじめとした耳鼻咽喉周辺の細菌・ウイルス性感染症、(炎症その他による)頚の周りの筋肉の拘縮、手術後の炎症など影響で起こるものなど、その発現機序がまだよくわかっていないものまであります。ダウン症候群、若年性リウマチ、骨系統疾患の中にはもともと頚椎の異常がある場合がありますが、このような場合は通常AARSから除外しています。
急性外傷のように原因が明らかな場合には診断は容易と思われますが、問題ははっきりとした誘因がわからないで突然発症する場合です。この場合には子供が突然斜頸を呈しても、単なる寝違えと軽く扱われることがおおく、正しい診断がつけられないままいくつかの病院を転々とすることも稀ではありません。自然治癒する場合もありますが、診断がつかなくて数週間以上も症状が持続しますと治療困難となることもあり、実際にそのような例を経験しております。
診断はcomputed tomography (CTスキャン)が確実です。CTで観察すると、第1と第2の頚椎どうしが回旋し、あるいは回旋にともなって前後方向の転位をしていることがわかります。前後方向に転位している場合は単純なレントゲン像ではっきりと診断できるようになります。回旋や転位の程度によって重症度を分類します。
この疾患では早期診断、早期治療が重要です。早期(一週以内)に治療を開始すれば多くの場合、平均4日くらいで回旋変形が整復されます。整復されれば変形した靱帯がもとの状態にもどるまでしばらく(6週以上)固定したら治癒となります。私達は経験ありませんが、ひとたび治癒しても再発することが報告されていますので、その後に厳重な経過観察が必要です。
1ヶ月以上変形が持続している場合には頚椎の周りの靱帯などが硬くなって非手術的治療が困難な場合が多くなります。このような場合には手術的整復が必要です。手術はいくつかの方法がありますが、もちろん専門的におこなうべきもので、一般の整形外科医師がおこなうものではありません。