先天性股関節脱臼に対する手術的治療


要約:手術的整復の長所は治療期間が短いことであるが、合併症の率が高いのが欠点である。先天性股関節脱臼の治療はできるだけ非手術的に行うのが望ましいが、やむなく手術的整復を選択する場合には、熟練した専門家がおこなうべきである。



脱臼発見年令が高かったり(4-5才以上)、他の全身の奇形や重度の疾患を伴っている場合には最初から手術的な整復が必要となってきます。こうした症例では股関節は固く、牽引しても骨頭は動かないことが多いのです。また、他の奇形がある場合にはそれに対する治療が必要であり、脱臼整復に長い時間をかけることができません。また、他施設ですでに手術的整復が試みられている場合にも手術が必要です。前回の手術によって股関節周囲の癒着が強く、これは非手術的に解決できないからです。最近ではタイプCの中に股関節が固く治療期間が極端に長くなったり、関節介在物が多く関節が安定しないケースも散見するようになりました。このような場合には諸事情を考慮して手術的治療を選択する方が本人や御家族にとって良い場合もあります。

施設によっては1才を過ぎていればただちに手術的整復を行う、というところもあります。これも1つの方法ですが手術的整復はさまざまな合併症が発生する確率が高くなります。合併症には、再脱臼・亜脱臼、骨頭壊死、巨大骨頭などがありますが、最も深刻なものは骨頭壊死で、重度の場合には、骨頭の変形が発生するなど予後不良で将来変形性股関節症になる可能性が高くなります。わが国から発表された手術的な成績の報告を紹介すると、 A 施設(1995年)では、優と良を合わせて64%、36%は可もしくは不可、B施設(1999年)では、優と良を合わせて53%、47%は可もしくは不可、C施設(1978年)では優と良を合わせて59%、41%は可もしくは不可でした。とにかく約40%には小さいものも含めればなんらかの合併症が出現した、ということになります。


これ他院で2回にわたる手術的整復を受けましたが再再度脱臼してしまい紹介をいただいた患者さんです。
脱臼しているだけでなく、骨頭壊死が発生し、大腿骨も変形し、臼蓋形成不全も存在しています。。


脱臼をそのままにしておくわけにはいきません。新たに手術的整復をおこないました。ただし、この例に限らず、脱臼を繰り返したり、長期間脱臼のままであれば臼蓋の形成は悪くなりますので、単純に手術的整復をおこなっただけではうまくゆきません。そこで、このように臼蓋を形成する手術と、場合によっては大腿骨手術も必要となります。


再脱臼の原因をつきとめ、これを解決すれば上図のように整復位は保たれます。このお子さんはサッカーができるまでになっています。

術後の予定

退院は術後1週以内(全身状態が回復すれば退院)、術後4週で再入院してギブスカットを行い訓練を始めます。股関節可動域が改善するまではギブスシャーレを装着します。術後8週で股関節可動域が得られれば座位となり、12週で全荷重します。抜釘術後2-3ヶ月。抜釘後は問題がなければ13-14才になるまで、1年おきの診察です。

私は、慣れた術者が正しく行い、また、いくつかの手技の改善をすれば合併症なく良好な成績をあげることができる、と考えています。

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