先天性股関節脱臼の診断

要約:診断で重要なことは丁寧な視診・触診である。乳児であれば、臀部非対称、股関節の開きの左右差歩行開始以後では跛行がある場合には脱臼を疑う。その後、確定診断ならびに脱臼度の分類は超音波断層像によって行う。
これからは各家庭で赤ちゃんの下肢を観察して脱臼の発見に努めることも重要である。


診断は生後直後から可能です。しかし、確定診断は3か月が適切です。その理由は2つあります。第1に、それ以前の時期の診断は当てにならない場合があるからです。たとえば生後1か月以内に脱臼がなくともその後に何らかの事情(これには内因的なものと外因的なものがあると推測されます)によって新たに発生することがあることが知られています。3か月以後に新たに発生した事例は私の知る限りではありません。第2に、たとえ3か月未満で発生したとしても、治療開始は3か月以降となるからです。もちろんこれには異論があって、特に欧米では超早期の検診によって発見し、なるべく早く治療する傾向があります。このために欧米においては、検診後に新たに発生する脱臼が大きな問題となってきました。米国ではこうした例が「診断の見落とし」として訴訟になるケースが出てきたため、この疾患の名称を「congenital dislocation] から「developmental dysplasia] に変更されました。我が国でも「先天性」から「発育性ーすなわち生後の発育過程でも発生する」という名称に変えることを検討しつつあるところです。要するに、この疾患は先天的なものが多いのですが、後天的なものも存在している、ということが重要なわけです。
一方、診断時期があまり遅いのも問題です。脱臼が長く続くと関節そのもに変化がでてきて、せっかく脱臼が治っても、そうして関節の変化が治りきらない場合があるからです。したがって、脱臼の確定診断は3か月、少なくとも6か月未満までにはなされることが適切と考えられます。


診断において重要なことは視診・触診です。丁寧に診察すれば脱臼を見逃すことはありません。脱臼が発見されれば次に脱臼の重症度を正しく評価することが必要です。脱臼の程度に応じた治療法を選択しなければならないからです。歴史の古い疾患ですから、診断方法はたくさん考えられきました。ここでは専門的なことは省略して、ご家庭でだれにでもわかりやすい乳児期の診断法を述べます。

まず、赤ちゃんの自然の状態での下肢の形、動きを観察します。赤ちゃんを裸にする機会はいくらでもあるはずですから、このとき御両親がよく観察してください。脱臼がある場合には脱臼側の下肢が内側に入っており、動きが少ないことが多いものです。また、オムツを替えるときなど股が開きにくかったり、場合によっては開いた時「ゴクッ」という感触を得ることもあります。このような時には専門医を受診するべきです。次に、下肢を持ち上げて臀部の形をみてみましょう。脱臼がある場合には下図のように脱臼側では臀部が膨らんで左右非対象となっています。また、脱臼側の股近くの皮膚溝ですが、強い脱臼の場合には反対と比べて強くくい込んでいます。

左股関節脱臼。
左の臀部が右と比較して膨らんでいることに注目してください。

次に軽く優しく赤ちゃんの股を開いてみましょう。脱臼がある場合には開く程度に左右差がでてきます。ただし、この検査はけっして乱暴におこなってはなりません。力任せにおこなうと検査にならないばかりか股関節に障害が発生することがあるからです。また、この検査は生まれたばかりの赤ちゃんの場合には明確でない場合があります。


  
赤ちゃんには優しく接することが大切です。乱暴に検査すると脱臼を見逃します。


脱臼の原因のところでも述べましたが、生まれるときの姿勢がどうであったか(骨盤位の中の単殿位では発生率が高い)、 現在の向き癖はどうか、などもおおいに参考になります。
このようにして、問診、触診を正しく行えば脱臼を見逃すことはありません。

1歳過ぎて、すでに歩行している場合には跛行が顕著であり、両側脱臼の場合では跛行よりも腰椎の前弯(俗に言えば、出っちり)が目立ってきます。歩行時腰椎前弯が増強している場合には、神経筋疾患や骨系統疾患とともに、両側の先天股脱も疑うべきです。

確定診断は超音波断層像によっておこないます。超音波断層像による診断法が登場するまでは、X線診断が確定診断法として最も信頼性が高く、今日でも奇形を伴った脱臼の診断や、1歳以後の脱臼の診断には欠かせない診断法であります。しかし、被爆ということを考えると、乳児検査ではなるべくX線診断は避けるようにしたいものです。超音波診断は害がないばかりか、X線診断よりも正確です。



視診・触診、超音波検査によって脱臼を分類します。私は股関節を曲げた時の大腿骨頭の位置によって脱臼の程度をA, B, C の3つに分類し、脱臼の程度に応じた治療をおこなっております。

タイプA(亜脱臼)とは、股関節を曲げて開いた時に大腿骨と臼蓋とのズレがわずかで、両方の軟骨どうしは常に接触を保っている場合を言います。タイプAの中で、股関節の位置によっては骨頭と臼蓋とのズレがなくなる場合もあり、これをタイプAI(ボーダーライン亜脱臼)と呼びます。さらに、タイプAIのうち、臼蓋の形成が良好な場合をタイプAI-I, 臼蓋の形成が不十分な場合をタイプAI-IIと分類します。タイプAII(亜脱臼)とは股を曲げて開いた状態で大腿骨頭と臼蓋とのズレのなくならないものをとします。
タイプB(完全脱臼)とは大腿骨と臼蓋とのズレが大きくなって、股関節を曲げたときでも両方の軟骨どうしの接触がない場合を言います。
タイプC(完全脱臼)とは高度な脱臼で、股関節を開いた時には脱臼した骨頭の中心が臼蓋縁より下に位置している場合です。

      
タイプA(亜脱臼)       タイプB(完全脱臼)      タイプC(完全脱臼)


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