臼蓋形成不全にたいするトリプル骨盤骨切り術(3ケ所の骨盤骨切り術)

トリプル骨盤骨切り術は、学童期後半以後の臼蓋形成不全を矯正し、将来にわたって痛みの発生しないような股関節を形成するための手術です。成人の場合でも股関節の変形が軽度である場合には良い適応があります。
トリプル骨盤骨切り術においては腸骨、座骨、恥骨の3箇所の骨切りをおこないますが、それにはいくつかの方法があります。私達の行なっている方法は、術中の体位変換をより容易にし、臼蓋による骨頭の被覆を効果的におこなうため様々な工夫をくわえたものであり、1993年に滋賀県立小児保健医療センターにおいて私(鈴木)が開発しました。2005年までに176例におこない優れた成績をあげております。

手術方法

手術はまず、側臥位の状態で、坐骨の骨切りをおこないます。皮膚切開の後、殿筋を分け、坐骨神経を傷つけないように注意しながら坐骨枝に達してからノミで坐骨骨切りをおこないます。次ぎに、仰臥位の状態として恥骨の骨切りをおこないます。最後に腸骨骨切りをおこないます。腸骨骨切りはソルター手術とまったく同じです。
手術時間はギブス固定を含めて約4時間です。さらに麻酔準備のために1時間必要です。

12才女性。右股関節臼蓋形成不全( CE 角5度)。このままでは招来股関節痛が予想されます。
坐骨骨切り、恥骨の骨切り、腸骨骨切りをおこないました。
10年後の患者さんです。骨頭は臼蓋に充分覆われ( CE 角30度)ています。





手術合併症
1)出血によるショック:この手術においてはこれまで重篤なものは経験しておりません。可能性は低いのですが万が一合併症が発生したときは輸血を含めた救急対策、ならびにその原因の追求を早急におこないます。ギブスは出血を吸収する機能があり、このことによって手術創内に血液がたまるのを防いでおります。出血によりギブスが汚染されることがありますが、少量の汚染ならば問題にはなりません。
2)肺炎、尿路感染症:全身状態が良く無い場合には可能性が高くなります。術後の体位変換を定期的に行って肺炎防止を行います。また必要に応じて抗生物質の投与を行います。

局所の合併症としては
1)坐骨神経麻痺:坐骨骨切りを行いますので、坐骨神経の近くの操作をおこないます。これまでに1例もありませんが、可能性はあります。
2)骨癒合不全による関節変形:骨が脆い場合や、局所の感染のためににピンの固定が不良となっておこる可能性があります。この場合は手術的にピン固定をやりなおします。
3)創感染:創感染発生率は過去2例です。全身状態が良く無い場合に起こりやすくなります。感染の場合には骨癒合を待ってからピンを抜くと治癒します。
4)褥そう:これまでに1例経験しています。原因は材質の悪いギブスを使用したことが原因であり、今はこのギブスを使用していません。
5)骨盤の骨の手術ですので、骨盤の形が変わります。将来妊娠出産の時に、産科の先生に骨盤の手術を受けたことを伝えてください。場合によっては帝王切開が必要となるかもしれません。
6)大腿部前面のしびれ感:手術操作の為に皮膚に分布する神経が麻痺することがあります。回復するのに長期間(1年以上)かかる場合があります。

術後療法

13歳未満の場合は術後6週のギブス固定、ギブス固定中は特別の訓練は不要です。ギブス除去後股関節を動かす訓練を2週間ほどおこないます。8週くらいで骨がある程度形成されれば座位、ならびに部分荷重歩行をおこないます。12週で全荷重をおこないます。

13歳以上では、2-3週後に股関節を動かす訓練を行い、6週後に免荷歩行、8週である程度骨が形成されれば座位、部分荷重歩行開始します。12週で全荷重歩行を行います。
術後4-6ヵ月で拔釘をおこないます。2泊3日の入院予定です。

成績

2003年11月30日までに156例の手術を行ないました。臼蓋による骨頭の被覆は良好で、CE角の改善は平均33.2度(最大50度)であり、成績は極めて良好です(中部日本整形外科災害外科雑誌、38:1111-1112、1995、滋賀県立小児保健医療センターからの報告)。



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