O脚・X脚・ブラウント病について

要約:子供の膝の形態は6歳まで大きく変化する。歩行開始時の膝はO脚である。その後少しづつO脚は弱まり、2歳前後にはほぼ真直ぐな膝となる。その後は逆にX脚が進行して、3歳半でX脚は最大となる。3歳半を過ぎると逆にX脚は少しずつ弱まり、6歳頃に軽いX脚となり、以後はあまり変化がない。左右の膝の角度が同じであり、歩き始めてからO脚が改善しX脚にむかって行けばよく、また、3歳半からはX脚が改善してゆき、6歳ころには軽いX脚になれば問題はない。左右の膝の角度が異なったり、上に述べたような変化をしない場合はなにか原因となる疾患が潜んでいる可能性がある。

O脚とは、「両側の膝付近を中心とした外側凸の変形」であり、X脚とは、逆に「両側の膝付近を中心とした外側凹の変形」と定義されています。○脚X脚の診断は、立位で膝を正面に向け(膝蓋骨ーおさら)両膝を肩幅に開いた状態で観察するのが良いと思います。このような状態で、大腿骨と下腿骨との角度を計測します。このようにして計測した結果異常が疑われればレントゲン診断をおこないます。レントゲン診断は蓋骨(膝のおさら)を正面にした立位レントゲン撮影で大腿骨と下腿骨との成す角を計測して決定するのが普通です。成人であれば「立位で大腿骨と下腿骨との成す角が数度前後のXの形(下腿骨が外側に向いている)をなしている」のが正常とされていますが、極端で無ければ多少の○脚、やや強めのX脚は個性の範囲で問題とはなりません。

人間の脚の形は年齢によって大きく変化します。生まれたばかりの赤ちゃんではO脚が普通であり、歩行が始まる1歳前後にはO脚がいっそう目立つようになります。

1990年頃、滋賀県立小児保健医療センター整形外科では、保健所において1歳から6歳までの多数のお子さんの膝の調査をおこないました。その結果に、歩行開始時の膝はO脚であり、その後少しづつO脚は弱まり、2歳前後にはほぼ真直ぐな膝となり、その後は逆にX脚が進行して、3歳半でX脚は最大となります。3歳半を過ぎると再びX脚は少しずつ弱まり、6歳頃に軽いX脚となり、以後はあまり変化がありません。
このように子供の膝の形態は年齢によって大きく変化します。この様子をグラフにしたのが下図です。

上図は、私達の調査結果です。緑の線より上はO脚で、下はX脚です。歩き始めはおよそ10−15度のO脚であり、2歳すぎたころまっすぐになり、3歳半で約10度のX脚になります。その後はすこしづつX脚は改善し、6歳ころには数度のX脚となります。ただしこの数値には個人差が著しく、歩き始めに20度を超えるO脚のお子さんもたくさんおられますし、逆に3歳半で20度を超えるX脚のお子さんも多数おられます。したがって重要なことは、O脚X脚がどのような数値であるにせよ惑わされること無く、両方の膝が左右同じ角度で、歩き始めてからO脚が改善しX脚にむかって行けばよく、また、3歳半ころからは左右同じ角度でX脚が改善してゆけばよいのです。

下図は、著名なO脚が改善した例です。歩行開始頃の著明な○脚がありましたが、6才までには正常である軽度のX脚となっています。

           

   

このように年令によって下肢の形態が変化することは、実は股関節の発育と深く関係しています。2才頃までのO脚というのは歩行時股関節外転をとらせるため、股関節の臼蓋を発達させる役割をしていると私は考えています。したがって、O脚もしくはX脚というのは股関節の発達にとって深い意味があるのであり、特別な病気が潜んでいない限りたとえ変形が目立ったとしても特別の治療は不要と考えます。同じく滋賀県立小児保健医療センターで100人以上のO脚を治療することなく経過を観察しましたが、下に述べたような特別な病気がない場合には全例正常範囲におさまりました。また、この大切な時期に装具などで子供を縛り付けるのはよいことではありません。特別な疾患が潜んでいないことが確認されれば慌てずにおおらかに子供を見守ってゆく、という方針でよいと考えます。

小児整形外科専門医で生理的○脚にたいして装具療法を行う先生は少なくとも私が知る範囲でおられません。しかし、学会の報告を聞いていると、○脚の程度が強い場合には原因にかかわらず装具処方を行う、という整形外科医が少数ですががおられるのは事実です。しかし生理的○脚にたいする矯正装具療法の効果についての科学的データはまだありません。

要するに、左右の膝の角度が同じであり、歩き始めてからO脚が改善しX脚にむかって行けばよく、また、3歳半からはX脚が改善してゆき、6歳ころには軽いX脚になればよいのです。左右の膝の角度が異なったり、上図このような変化をしない場合はなにか原因となる疾患(例えば膝外傷、ブラウント病、骨系統疾患、くる病その他)が潜んでいる可能性があります。

ブラウント病

O脚の原因となっている疾患で、最近増加しているのはブラウント病です。この疾患はジャマイカ島で多発することで有名です。この国は我が国と思い掛けない事で関係していることは皆様御存じと思います。たとえばサッカーワールドカップで対戦しましたし、長野冬期オリンピックではそり競技で話題となりました。ジャマイカでは赤ちゃんは生後6ヶ月前後で独立歩行するそうです。このことが脚の強さと関係しているのかもしれません。しかし、一方でこの時期の独立歩行には膝に無理がかかります。本センターでMRを用いた研究により、早期の独立歩行はブラウント病の原因となることが明らかにされました。したがって、赤ちゃんを1才前に無理に歩かせることは好ましいことではありません。ブラウント病は軽度であれば自然治癒することが多いものです。また、たとえ重度の変形があっても年令とともにある程度改善してゆきます。治療方法については議論のあるところですが、私は、2才以後に改善傾向が見られれば経過観察のみ特別な治療はしない方針です。改善傾向がなければ装具治療を考慮しますが、2才を過ぎても改善傾向が無いようであれば手術的矯正が必要となるかもしれません。

     

上図は4歳のブラウント病で、イリザロフ法により矯正をおこないました。

思春期に○脚が進行する場合もあります。これを adolescent tivia vara、別名 Adolescent Blount Disease とも言います。簡単に言えば、 ブラウント病と同じ病態が思春期に発現した、と考えて良いと思います。程度が強い場合には将来変形性膝関節症になりやすくなりますので治療の対象になります。。手術的治療しかなく、装具や靴に下敷きをいれるなどの保存的治療は無意味です。脛骨の外側成長軟骨を固定したり、イリザロフ法によって骨きり後に変形矯正します。

6歳以降における著しいO脚・X脚は美容的な問題にとどまりません。膝痛の原因となったり、将来変形性膝関節症になる可能性がありますので矯正が必要です。原因となる疾患を探るという意味でも、また将来の成人病を防ぐという意味でも一度整形外科医師の診察を受けてください。6歳以降における極端なO脚・X脚の治療には外科的手術が必要です。以前この手術は複雑で合併症も多かった為普及しませんでした。今ではイリザロフ法によりO脚・X脚変形に対し安全確実に変形を矯正し、優れた成績をあげています。


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