先天性内反足の手術療法

徒手による矯正(保存的治療)によって変形が正しく矯正できなかった場合には手術的治療が必要です。内反足の矯正は厳格におこなわなくてはなりません。すこしでも変形が残ればかならずなんらかの不自由が出現するからです。

内反足に対する後方解離術

距骨と舟状骨、ならびに距骨と踵骨の関係が矯正され正しい位置関係にあるけれども、足関節(脛骨と距骨との関節)後方に拘縮があって尖足(踵が上に挙がっている状態)となっている場合には、後方解離術をおこないます。これは安全で古くから確立されている手術方法です。アキレス腱延長、足関節包切開、場合によっては靱帯(3角靱帯)の1部を切開し、足関節の正しい位置関係を取り戻します。その後矯正された位置を保つためにピンで内固定をし、さらにギブス固定をおこないます。手術時間は1時間程です。3週ぐらいでピンを抜き再びギブス固定をおこないます。術後6週ぐらいで装具に換えます。
距骨と舟状骨、ならびに距骨と踵骨の関係が正しいということがこの手術の大前提です。もしこの関係がすこしでもあいまいなままの状態で行いますと内反が残存し、後で尖足が再発したりします。


内反足に対する距骨下全周解離術

徒手的な矯正にも関わらず距骨とその周囲の骨との間に亜脱臼(これを亜脱臼と呼ぶべきかどうかについては議論がありますが、ここではわかりやすくするため亜脱臼とします)があり、さらに、その周りの靱帯、アキレス腱などに拘縮がある場合に行います。
手術年齢は早いほうがよいのですが、通常は麻酔が安全にかけられるように1歳すぎてからおこなっています。ただし、少なくとも3歳までにはおこなった方が良いと思います。

手術はいくつかの方法があります。私は以前、我が国で広く行われていた内方解離術というのを実施しておりました。多くの例でうまくいっていたのですが、変形が強い例ではしばしば満足な結果が得にくいことに不満に感じていました。今思えば、内反足の病理と照らし合わせれば、足の内側だけの矯正では無理があることは明らかです。そこで、1993年ころより世界的に広まってきた距骨下全周解離術というのを採用し、今日に至っております。この手術は最も新しいもので、内反足を「距骨とその他の足の骨との配列異常」と考えると最も理に適った方法と考えられるからです。ただ、手術内容が複雑で手術手技も難しいのが欠点です。

手術の実際を簡単に説明します。まず足の後の部分に大きな
u字状の皮膚切開を行います。



次に内側および外側の腱、神経血管を確認し、傷つけることの無いように分離しておきます。まず、後方の距踵関節を開き、それを起点として足外側の距踵関節の切開を行います。さらに踵骨とその先にある立方骨との関節を開きます。次に再び後方から内側の距踵関節を切開し、距骨の先にある舟状骨をその全周にわたって解離します。こうして初めて距骨とその周囲の骨との亜脱臼を整復することが可能になります。もし、アキレス腱が短縮している為に踵骨が良い位置に来ない(下がらない)場合には、アキレス腱の延長と足関節包を切開して、足関節が背屈できるようにします。矯正後、最初に踵骨と立方骨をピンで固定し、その後距骨と舟状骨との正しい関係を取り戻してその位置を保つためにピンで内固定をし、さらにギブス固定をおこないます。

内反足では、下腿の捻れ(内側への回旋)や足の骨(中足足)の内転が合併していることがありますが、これらの矯正を同時におこなうことはできません。このため、内反足の手術後に場合によってはこれらの矯正が必要となるかもしれません。

手術時間は2時間程です。すでに手術を受けている場合には腱などの組織が瘢痕に埋もれていますので、これを分離するのが困難な為、手術時間は2倍以上かかります。

術後の痛み:当日の夜までは術直後に行う仙骨ブロックにより痛みはほとんどありません。その後の痛みについてはいろいろです。ほとんど痛みを感じない場合から、強い痛みが数日から1週間続く場合もあります。痛みの原因は2つあります。1つは組織を切ったための痛みであり、他は変形矯正によってくるぶしの内側を通る神経が引き伸ばされたためのものと思われます。前者の痛みは速やかに消失するのですが、後者の痛みは結構ながく続くことがあります。矯正が大きければ大きいほど痛みがでやすいわけです。今日では良く効く痛み止めがあり、患者さんにあった方法により痛みを緩和するようにしています。なお痛み止めを大量に使うことは副作用の点からも危険があり、完全に痛みを止めることはかえってよくないときもあるため、患者さんに応じた痛み止めの対応を行います。

術後3週ぐらいで日帰り入院の上、ピンを抜きます。ピン抜きは、麻酔下に行う場合もあります。その後装具の採型をおこない、装具完成後には関節可動域を広げる訓練をしていただきます。装具は昼間用と夜間用の2種類作成します。昼間用装具は主とし
て歩行時の安定性を得るためのものであり、術後2ヶ月前後で筋力が回復したら除去します。夜間用装具は成長終了まで使用していただきます。

ギブスがはずれれば足の固さをできるだけ予防するためにお家の方に足を良く動かしていただきます。特に底屈制限が出現しますので、足関節ならびにその先にあるたくさんの関節(足根関節)の底屈運動をしっかりやっていただきます。

手術合併症

1)創感染。重篤なものはまだ経験していません。万が一強い感染の場合には、毎日ガーゼ交換が必要となるかもしれません。

2)大きな変形の矯正がおこなわれるため、足の内側の皮膚が足りなくなることがあります。この場合は、一時的に足関節を尖足にしたり、場合によっては皮膚を閉じることなく、開放のまま特殊な器具を取付で真空状態にします。

3)足が固くなって足全体の動きが悪くなる。切開する範囲が大きいためさまざまな程度に出現する大きな合併症の一つです。特に底屈が制限されます。もともと内反足変形によって足は固いのですが、変形を矯正して新たな骨どうしの関係が生まれるわけですから動きはさらにわるくなります。骨の配列を大きく矯正するわけですから手術前の変形が強ければ強いほど、また年齢が高ければ高いほど固くなる傾向があります。ただ、出現する固さの程度はさまざまな因子が関係していると推測され、手術前にどれだけ動きが悪くなうかは判断できないのが現状です。最近では術後、ご家族に足の底背屈運動をしていただいた結果、それほど固くはならない結果がでております。

4)歩行再開の遅延。皮膚切開が大きため、足裏に分布する小さな皮膚神経が切断され違和感が持続します。その為、裸足で歩くことを嫌がる場合があります。神経の自然再生(数か月)とともに自然治癒します。

5)距骨の血行障害による変形。まだ経験しておりませんが、変形矯正のため大きな切開を行いますので、発生する可能性があります。変形が著しければ足関節の可動性が制限されるかもしれませんし、成人してから足関節の痛みが出現する可能性もあります。重度の変形が起こればその時は足関節の固定術などが必要となるかもしれません。

6)変形の再発。距骨下全周解離術を始めてからまだ再発の経験はありません。しかし、内反足変形は再発することで有名ですから、予防の為装具装具(歩行開始後には夜間装具のみ)をしていただきます。

7)過矯正。数例経験しています。過矯正によって外反扁平足が出現します。外反扁平足は程度が軽ければ問題になりませんが、変形が強い場合には靴が履きにくくなったり、見た目が悪かったりするので手術的矯正が必要です。年齢や変形の程度によって
それにふさわしい方法を選択します。

内反変形残存にたいする前脛骨筋移行術

内反足の矯正をおこなってもすべてが完全に矯正されるわけではありません。わずかな内反変形が残存する場合が多くあります。軽度の変形にたいし距骨下全周解離のような大きな手術をおこなうにはためらいがあります。かといってそのままにしておくには将来が心配である、というようなケースは結構あるものです。このような場合、前脛骨筋移行が適応となります。この手術は、前脛骨筋腱を本来の付着部(第一中足骨)から外側楔状骨に移行し、前脛骨筋の足内反方向の力を外反方向の力に変換する目的でおこないます。腱の付着部を移行するだけですから手術は比較的簡単で安全に行えます。しかも、成績には驚くほど素晴らしいものがあります。術後は手術を受けた本人自身が「歩きやすくなった」「かけっこが早くなった」「転びにくくなった」「階段昇降が楽になった」などと教えてくれるほどです。
最近ではわずかな残存変形にたいしても積極的行っており、またその価値は充分あります。

内反足に対する3関節固定術

年齢が10歳を超えている場合には通常関節固定術を選択します。この年齢になりますと、長期に内反変形が持続することによって、骨そのものの変形が強くなっているからです。このように状態で骨どうしの関係を変えると、その為にかえって痛みなどを誘発すると考えられるからです。足の動きを犠牲にしてまでも形を整えようというわけです。3関節固定とは、距骨と踵骨、距骨と舟状骨、踵骨と立方骨の計3か所の関節を人工的に癒合させることを意味します。この場合には固定した3か所の関節の動きは無くなりますので、足は全体として固くなります。しかし、足関節には侵襲が加わらないので、足首の動きは温存されますし、舟状骨ならびに立方骨よりも先にある小さい関節は温存されますので、意外と不自由はありません。足首(足関節)が動かなくなると大きな不自由が生じますが、この場所には侵襲を加えませんので足首の動きが制限されることはありません。
この手術は成人の患者さんにも有効です。内反足の残存する変形のために痛みや靴を履くときに不自由を感じておられる患者さんがおられましたら水野記念病院でも対処します。

ホームページのトップへ