内反足の治療

 治療の目的は変形の矯正です。詳しく述べれば、1)靴が容易に履け、2)立位歩行時に足裏全体が接地し、3)長く歩いても痛みが出現しない足を形成することです。 今日の小児整形外科学によれば先天性内反足による変形は完全に矯正することができます。子供が好きな活動を思いきりおこなう為にも、また将来社会人として仕事の選択枝を広げておくためにも先天性内反足による変形は完全に矯正しておく必要があります。内反足の治療成績は、治療する側の技術ならびに熱意に依存します。したがって、経験豊富で治療に熱心な専門家を受診することが重要です。治療方法の細かい部分はそれぞれに異なることが多いと思いますが、治療の根本については専門家による違いはありません。また、この疾患は頑固で、ひとたび矯正されても油断するとすぐに再発します。したがって、ひとたび矯正がうまくいったならば、それを維持するためにその後長期にわたる装具装着など粘り強い治療が必要です。

内反足の変形には、下腿骨の捻れ、足関節変形、凹足、中足骨の内転等等いろいろあり、またその存在について議論もされてますが、この疾患の病態の本質的な部分は、踵骨は回旋しながら距骨の下に内転してもぐり込み、同時に舟状骨は距骨の先端から内方に転位している、ということです(距骨とその周囲骨群における位置関係の異常)。したがって、初期治療はこの変形に対し徒手操作によって矯正することに集中しなければなりません。この本質的な部分が解決しない限り治療はうまくゆかないのです。たとえば、この本質的な部分を曖昧にしてデニスブラウン装具によって矯正を意図してもうまくゆかないでしょうし(極めて軽度の変形は別としても)、アキレス腱を含めた後方解離をおこなっても変形は矯正されません。また、後内方解離や距骨下解離の際にこれら本質的な部分の矯正が確実になされれなければやがて再発するでしょう。初期にこの本質的な部分の矯正が曖昧なまま、次ぎの治療に移ることは最も望ましくありません。矯正が不完全な場合、次ぎの治療がその不完全な部分を完全に矯正するならばよいのですが、そういう場合は(推測できると思いますが)、次ぎの治療(ほとんどが手術治療)も曖昧なまま終ることが多いのです。こうした経過をたどったケースでは、前回手術による瘢痕と悪戦苦闘しなければならず手術は困難極めます。

私が最初に学んだのは月出法です。1998年頃ですが、大学院を卒業して滋賀県立小児保健医療センターへ赴任することになっていました。赴任前に「月出先生から先天性内反足を学んで来い」、という当時の教授の命令で、私は京都からはるばる伊豆の月ヶ瀬というところへ行き、そこで1週間ほど滞在しました。遠くに天城峠を望む所です。早春の頃で、近くには菜の花畑があり、私は診療の合間にはそこで寝そべって将来のことなど考えていました。内反足の患者さんが来ると、先生の奥さんが私を呼びに来てくれたものです。
   
月出先生はもう他界され、上の写真のように医院の看板が立っているだけです(2013年3月撮影)。

私はこれまでいろいろな治療法を学んできました。現在は月出法を基本として、デニスブラウン法や、ポンセテイ法でおこなうアキレス腱皮下切腱など、個々の優れた治療手技を取り入れておこなっているのが現状です。

矯正方法はここでは省略いたします。

矯正操作が終われば、矯正位置でギブスを巻きます。ギブス巻きの時は赤ちゃんがじっとしていてくれれば効果的です。したがって、ギブス巻きの時点でミルクなどを与えてあげてくれると助かります。矯正とギブス、これを1週おきに繰り返し、4−8回くらいで矯正が良好であれば装具に移行します。この時尖足の矯正が不十分であればアキレス腱の皮下切腱を行います。

下の図は、矯正の実際です。左図は矯正前で、右図は左側の変形に対し約20分間の矯正を行った後です。

高度の内反足でしたが、最初に日にかなり矯正することができました。


3回目の矯正後です。良い形になってきました。

 

内反変形が矯正されても踵が下りてこない場合があります。この場合には適切な時期にアキレス腱皮下切腱を行います。写真左は切腱前、右写真は切腱後にギブスを巻いたところです。アキレス腱皮下切腱は少量の局所麻酔下にわずかな皮切で行うもので危険はありません。わかりやすく言えば、子供が転倒して小石や机の角などで縫合不要の小さな切り傷を作ったようなものです。




 

アキレス腱皮下切腱の後、しばらくギブス固定を続けましたが、やがてギブスを除去しても変形が戻らない(舟状骨、踵骨がロックされ、もはや自然な状態では変形してこない)ようになりました。上の左図は、自然な状態でも内反が戻らない状態であることを示しています。このようになった段階で上の右図のようにデニスブラウン装具を装着します。デニスブラウン装具は両足の開きは肩幅とし、足の角度は70度外転とします。



9ヶ月時です。夜間のみデニスブラウン装具を装着しています。写真は支えて立位をとったところですが、内反足は視診・触診さらにX線でも完全に矯正されています。歩行にはなんら問題は起こらないはずです。



2歳になりました。デニスブラウン装具を夜間のみ装着しています。見た目にも足の形は良好であり、何一つ不自由はありません。

もちろんすべての例が順調に経過するわけではありません。この3年間の水野病院での経験では、生後2か月以内に治療を開始した例のうち、およそ7割は良好な成績を収めていますが、他の3割は完治しませんでした。先天性内反足も他の多くの疾患と同様に、重症度があります。重度の場合は徒手矯正による治療には限界があり、変形の本質的な部分に対し外科的治療を行わざるを得ません。このような場合には手術療法が行われます。時期についてはいろいろ意見があるのですが、全身麻酔が安全に施行できる1歳前後が良いかと思います。ただしあまり高年齢となるとすでに骨そのものの変形が進んでしまうため、痛みが発現したり、再発しやすいのではないかと推測され、4−5歳以上の手術治療成績は国内外でもあまり報告されていません。最近水野病院には、変形が完治されないまま不自由な装具を装着しているお子様が大勢訪れるようになりました。もちろん歩行開始以後は手術で治療するしか方法がありません。

手術の方法は変形の状態や年齢などによって選択しなければなりません。徒手的な矯正がうまくいって、尖足だけが残っているならば後方解離で十分です。しかし、距骨とその周囲の骨との変形が残存しているならば距骨下全周解離などの大きな手術が必要です。この手術の最大の欠点は、術後足が固くなることです。最近では術後のギブス固定を短くして(4週前後)、その後ご家族には精力的に足の屈曲伸展運動をしていただいています。その効果でしょうか、この頃は手術にもかかわらずほとんどのお子様は柔らかい足をしております。変形が強くてすでに不自由がある場合には手術を受けるべきです。

問題は軽度の変形の場合です。僅かな変形にたいし距骨下全周解離などの侵襲の大きな手術には抵抗があります。したがって、最近ではこの軽度の変形に対し腱移行がおこなわれるようになってきました。本院でも現在、積極的に行っております。というのは、この腱移行の手術の成績には目を見張るものがあるからです。変形そのものを矯正するのではありませんが、内反に作用する腱を足の内側から外側に移行することにより、足関節背屈時に内反を矯正するように作用させるのです。このことにより、「歩きやすくなった」「駆け足が早くなった」「転ばなくなった」「階段昇降が楽になった」などなど嬉しい結果を、お子様本人が教えてくれるのです。

10歳を超えている場合には、関節固定術が適応となります。関節固定術は動きを犠牲にしてでも形を整えようというものですが、この手術によって困ることは実際にはありません。成人で変形が残存している場合には絶対的適応となります。

 内反足は再発しやすいことで有名です。完全に変形を矯正するためには数回の手術が必要なこともあります。保存的治療・手術療法はともに難しく、高度な専門知識を要します。

ホームページのトップへ