ペルテス病に対する手術療法




手術療法の実際

手術的療法はその治療方針から大きく二つに分けられます。一つは骨頭を臼蓋に深く包み込んで骨頭の球形を積極的に取り戻そうというものであり、他の一つは、骨頭の変形していない部分をあらたに関節として機能させよう、というものです。後者(大腿骨頚部外反骨切り術、大腿骨頭回転骨切り術等)の場合は主として変形が完成しこれ以上修復を期待することが出来ないと判断されたときに行うことが多いので、ここではとりあげません。

手術療法をおこなった場合には自然の状態でも骨頭は臼蓋に深く覆われているので特別な肢位をとる必要がありません。ここが装具療法と大きく異なります。しばらく松葉杖歩行が必要ですが、保存療法の場合よりも早く普通の生活に復帰することができます(その理由は「治療の考え方」をお読みください)。もちろん訓練は毎日行います。

骨頭を臼蓋に包み込む為には大腿骨頚部内反骨切り術、骨盤骨切り術の2つの方法があります。年齢、骨頭壊死の範囲等を考慮していずれかの方法もしくは両者を組み合わせておこないます。

1)大腿骨近位内反切り術。大腿骨の股関節に近いところで人工的な骨折を作り大腿骨頭の向きを変え臼蓋の奥深くに入れることを目的としています。包み込む効果は大きく、さらに大腿骨頭への圧力が減少するので骨形成が早くなります。問題点は、向きを大きく変えた場合下肢短縮がおこることです。ただし、多くの場合数年以内には手術した側の大腿骨は過成長してやがて脚長差は目立たなります。

    

左図は手術前です。骨頭の外側の1部が臼蓋からはみだしています。右図のように骨切りをおこなって、骨頭の向きを変え、はみだした部分までも完全に臼蓋の奥深くに包み込みます。この手術は術前に骨の正確な計測を行い、手術ではその計画を厳密に実行します。皮膚切開の後には、筋肉の剥離、骨の展開、関節包の温存、金属の打ち込む方向、注意深い骨切り、下肢短縮を最小限に押さえる工夫、など、いずれをとっても慣れた術者が行わないと(少なくとも50例の経験は必要)重篤な合併症をおこすことがあります。

ペルテス病にたいするこの手術の所要時間は平均1時間48分です。

最近では固定材料が改良され、強固な固定が可能となりました。したがって、新しいプレートを使って大腿骨単独手術の場合(骨盤手術を合併しない場合)はギブス期間が3週前後に短縮されます。ギブス除去後には座位ならびに松葉づえ歩行が開始されます。

2)骨盤骨切り術(ソルター手術)。骨盤骨の一つである腸骨を人工的に骨折させ臼蓋の向きを変えて骨頭を包み込む手術です。下肢短縮はおこりませんが、臼蓋を下方へ下げて骨頭を圧迫する為に、骨形成にとっては不利な面があります。

     

右図のように、骨盤の骨切りをおこなって十分骨頭を包み込みます。この手術のコツは、骨盤骨を広範に剥離すること、臼蓋を回転させるときに細かい技を駆使することです。この手術も慣れた術者がしなければなりません。経験上、100例くらい経験すると洗練された手術ができるようになると思います。

3)ソルター手術と大腿骨骨切り術の併用。大腿骨切り術は骨頭への圧力を減じることにより骨頭の再生を促す(あくまでも私見)ので素晴らしい手術なのですが、欠点は下肢短縮がおこることです。7〜8歳までであれば4−6年で不思議なことに下肢長差はほとんどなくなるのですが、8〜9歳以上となるとそうはゆきません。又、ペルテス病の発見が遅れ、その為に骨頭核の破壊が進んで扁平化の著しい例では内反骨切り単独では脚長差が大きくなってしまいます。そこで、このような例に対しては2つの手術を組み合わせることで下肢長差をできるだけなくし、なおかつ骨頭への減圧を目指そうというものです。まず最初にソルター手術をおこないある程度骨頭を包み込んでから20度前後の内反骨切り術をおこないます。

 

4)大腿骨骨切り術と骨盤骨切り術(modified triple osteotomy)の併用。は滋賀県立小児保健医療センターで開発された手術です。腸骨だけでなく、坐骨、恥骨の骨切りも同時に行います。したがって、臼蓋の向きを大きく変えることができるので包み込み効果が大きくなります。この併用手術は年長児で骨盤の移動が困難な場合におこないます。ただし、手術手技は難しいのでどこででもできる手術ではありません。

  

上図は10歳男子で、装具療法がうまくゆかないまま放置されていた例で、著しい変形があった例です。

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