下肢の回旋変形

下肢の回旋変形とは、大腿骨或いは下腿骨の捻れが強かったり、足部の変形がある為に歩行時足が内に向いたり、外に向いたりすることをいいます。これらの変形が軽度であれば問題ありません。しかし、極端な場合には、見た目に気になるだけでなく、日常生活に様々な障害が発現することがあります。下肢の回旋変形の問題は小児整形外科の重要なテーマの1つですが、我が国ではほとんど議論されることはありませんでした。長期的には歩行機能障害をもたらす場合があることがほとんど認識されていなかったからと考えられます。ご相談のメールを読むと、この問題で整形外科を受診してもなかなか的確な診断がつけられることが少なく、相手にもされないで悩んでおられる方が大勢おられることがわかりました。

下肢の回旋変形は生活様式に大きく影響をうけると考えられます。特に小さい頃からの坐位の習慣は無視できません。たとえば我が国では女性は小さい頃から正座をする習慣があります。場合によってはW型(とんびすわり)をすることも少なくありません。このような坐位をしておりますと、大腿骨の股関節部に近いところでの前方への捻れが大きくなって移動の時には足先が内側に向く、すなわち内旋歩行となる場合がおおくなります。逆に韓国のように女性が胡座(あぐら)で座る習慣のある民族では外旋歩行となる場合が多くなります。 NHKドラマ「冬のソナタ」の主人公ユジンが歩いているところに注目してください。かなりの外旋歩行をしていることに気付くはずです。外旋歩行の理由を解く鍵は第3話にあります。ここで彼女はソファーの上で胡座座りをしている場面があるのです。だいぶ前のことになりますが、学会で韓国を訪ねたとき、女性の多くが外旋歩行をしていることに驚いたものです。このことを韓国の整形外科医と論議をし、両国で「下肢回旋変形と生活習慣」というテーマで共同研究を提案したのですが、彼等はいままでそんなことは考えた事もなかったようで研究はそのままになっています。この問題はいつか科学的に証明されるものと信じています。

内旋歩行

原因として 1)大腿骨頚部(股関節)の過度の前捻 2)下腿内捻 3)中足骨内反、の3つが考えられます。このうち最も多いが、1)大腿骨頚部(股関節)の過度の前捻で、全体の約70-80%を占めます。

1)大腿骨頚部(股関節)の過度の前捻。

大腿骨頚部の過度の前捻の原因は不明です。科学的データはありませんが、とんび座り(正座するときに両方の足が開きW形で座ることを言う)が原因の1つとして推測されています。確かにあぐらで座る習慣の人には少ないようです(大腿骨頚部の前捻が少ない為にあぐらで座るのが楽なのかもしれませんが)。たとえば韓国では男女ともあぐらで座る習慣がありますが、大腿骨の過度の前捻は少ないようです。

脳性麻痺の患者さんには大腿骨の過度の前捻が多発します。これはとんび座りをよく行うことが原因と推測されています。脳性麻痺の患者さんでは、この座り方により、膝を曲げる筋肉(ハムストリングス)が緩み、逆に膝を伸ばす筋肉(大腿4頭筋)が緊張して骨盤が直立して坐位が安定するからです。施設によっては脳性麻痺の患者さんに積極的にこの姿勢を指導する所があります。

先天性股関節脱臼があった、もしくは現在ある場合には多くの場合過度の前捻があります。脱臼した骨頭を手術的に整復する際に、過度の前捻を矯正することがよく行われます(大腿近位骨減捻手術と呼んでいます)。脱臼が正しく整復されれば多くの場合、自然矯正され問題になりません。

大腿骨頚部(股関節)の過度の前捻による内旋歩行は、軽度であれば問題ありません。2-4才ころには極端な場合がありますが、特別な基礎疾患が無い限り治療を行ったことがありません。様子を見るだけで、いままでに問題になったケースはありません。脳性麻痺がある場合には自然治癒しにくいので、極端な場合で、歩行時に両方の足がお互いにぶつかって転倒するようであれば手術的に治療をおこないます。

2)下腿内捻。しばしば見かけます。上向きに寝かせ、股関節90度、膝関節90度に曲げ、足が内側に捻れているので診断できます。また、足首の両側のくるぶしに注目してください。内側と外側のくるぶしがありますが、内側のくるぶしが前方にあり、両側のくるぶしを結んだ線は30度くらいの角度をつくります。下腿内捻がある場合には両側のくるぶしを結ぶ線が平行となってきます。6才ころまでは改善傾向がありますが、6-7才すぎても極端な内捻で、歩行時に両方の足がぶつかったりするときは手術的治療を行います。手術はイリザロフ法によって安全におこなえます。

3)中足骨内反。足の指で中足骨とよばれている部分が内側に曲がっている場合で、よく内反足と間違えられます。内反足と違って、60%は自然治癒しますし、1才過ぎても治癒しない時はギブスあるいは装具によく反応します。多くの場合、靴を履く頃になると目立たなくなってしまうので(靴によって隠れてしまうので)、あまり気にならなくなります。まれに極端な場合があって、靴が履きにくいとか、年長児では痛みが出現することがあります。この場合には手術が必要ですし、これにより完全に治すことができます。

外旋歩行

原因として、 1)大腿骨頚部(股関節)の減捻 2)下腿外捻 3)外反足、もしくは外反扁平足、の3つが考えられます。

1)大腿骨頚部(股関節)の減捻(捻れが少ない)があると、立位歩行の時に下肢全体が外を向きます。軽度であれば問題となりません。女性の場合はこれを大変気にして、股関節を意識的に内旋して目立たないようにすることがあります。小さい子供の場合には、目立たないように親から絶えず注意されることにより、いつのまにか内側に無理に捻ることが習慣となってしまうことも実際にはあるようです。ただし、股関節の内旋を持続するのは大変つらいものです。通常、股関節を伸ばした状態では難しいので、股関節を曲げた状態にして内旋するのが一般的です。股関節を曲げると前かがみになってしまう為、直立を保つ為に腰椎を無理に起こすので、腰椎の反りが強くなって腰痛が起こる考えられます。軽度の外旋歩行は個性と考えて気にしないほうが良いと思います。大腿骨頚部(股関節)の減捻に対しては積極的に治療した記憶がありません。

2)下腿外捻。意外と多く、しかも自然治癒しにくいようです。上向きに寝かせ、股関節90度、膝関節90度に曲げ、足が外側に捻れているので診断できます。また、この状態で足首の両側のくるぶしに注目すると、両側のくるぶしを結ぶ線が平行となってきます。足関節部で下腿3頭筋が正しく働きにくいので、走る時に地面を蹴る力が弱いため、スピードが遅くなります。また、大腿骨頚部(股関節)の減捻と同様に、歩行時に足が外に向いていることを気にして自分で、或いは家族の方に指摘され、無理に股関節を内旋させて歩く習慣になっていることがあります。この場合は、腰痛が起りやすいだけでなく、膝が常に内側を向いているため、膝に無理がかかって膝関節痛が出現してくることがあります。メールを読みますと、このような場合、整形外科にかかっても相手にされないことが多く悩んでおられる方が多いことがわかりました。

軽度の場合は個性と考えて放置しています。極端な場合にはイリザロフ法で少しずつ矯正します(一気に矯正すると腓骨神経麻痺の起る可能性があります)。手術後は下肢の格好が良くなることはもちろん、50m走が早くなったと本人が喜んでいます。下腿外捻に対しては手術的矯正は考慮して良いと考えます。

3)外反足、もしくは外反扁平足。最も多いケースです。外反足、もしくは外反扁平足は脳性麻痺の患者さんでは半数近くに認められます。基礎疾患がない場合には歩行が安定すると目立たなくなります。足底板を使用することもあります。これについては、様々な足の変形を参照してください。

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