特発性側彎症の病態と診断
要約:特発性側彎症では脊柱が側方に曲がると同時に、曲がった部分は回旋(捻れ)し、脊柱の前後方向の本来の彎曲も変化する。このことから、以下の4つの診断基準によって診断が容易となる。1。両肩の高さの左右差。2。脇の線(ウエストライン)の左右非対称。3。肩甲骨の高さや位置の左右非対称。4。前屈した時に見られる背中や腰の高さの左右非対称。とくに4のサインは鋭敏である。
特発性側彎の病態
特発性側彎症も他の構築性側彎(真の側彎症)と同様に脊柱が側方に曲がると同時に、曲がった部分は回旋(捻れ)し、脊柱の前後方向の本来の彎曲も変化してきます。昔は、脊柱の側方への曲がりが強調されましたが、重要なことは、側方への曲がりとともに、脊柱の回旋と前後方向の彎曲の変化です。高度彎曲における内臓の圧迫や、外見の問題は、脊柱の回旋と前後方向の彎曲の変化が大きく関係していると考えられるからです。たとえば、肺、心臓、肝臓、など重要な臓器を収納している胸郭は、捻れと胸椎の丸みが失われることでその容積が減少します。また、脊柱回旋によって、背部、あるいは腰部には左右非対称の膨らみが生じ、これば後姿の見かけに影響してきます。単純な横方向の曲がりだけでは極端でない限りこうした問題は軽いものと考えられます。
私が研究した結果では、左右方向への彎曲(これはレントゲンで計測します)と脊柱回旋はおよそ3対1で、たとえば左右方向の曲がりがが30度あれば、回旋は約10度となります(JBJS
71-B, 252-255)。30度の側方彎曲が形成されると、回旋や前後方向の彎曲の異常が外から見てはっきりしてきます。
特発性側彎の診断
脊椎変形の原因は様々です。脊柱の疾患を検索するときは立位でおこないます。脚長差があれば立位で側彎が発生します。昔、脊柱側彎のため患者様を紹介されましたが、脚長差による彎曲があり、下肢を調べたところ大腿骨良性骨腫瘍を発見した経験があります。骨盤の高さの差を比較するなどして下肢長差の有無はまず確認しなくてはなりません。
レントゲンによって脊椎そのものに奇形がある場合があります。これは先天性側彎と呼ばれます。
腰痛があると腰背部の筋肉が左右非対称に緊張して側彎がおこることがあります。また、椎間板ヘルニアなどでも変形がおこることがあります。このような場合には腰椎の前屈が困難だったりします。
脊椎の腫瘍により側彎がおこることがあります。昔ですが、脊柱に良性骨腫瘍が発生したため側彎を認めた高校男子生徒がいました。腫瘍の治療により側彎も消失しました。
脊髄空洞症など脊髄病変によっても彎曲が発生することがあります。この場合には、曲がり方やバランスの崩れ方から特発性側彎とは異なった印象をうけますし、詳しく調べると神経麻痺を発見することできることもありますので、こういう場合にはMRによって確かめます。脊髄空洞症は意外と多いものです。
腎臓病変など、内臓疾患によって彎曲が発生することもあります。数年前、姿勢が悪いということで来院された患者さんが実は腎臓疾患が隠れていたことを発見したことがあります。
背中を見たとき、特徴的な色素沈着があるような場合は、フォンレックリングハウゼン氏病などを疑います。
様々な先天的な骨の病気では、脊柱側彎の発生がむしろ普通といってもおおげさではありません。このような場合には全身を観察すればすぐにわかります。
脳性麻痺や二分脊椎などの神経疾患、筋萎縮症などの筋疾患でも脊柱変形はよく発生します。これらは最初から疾患がわかっていますので迷うことはないでしょう。
マルファン症候群、ヌーナン症候群、レット症候群など、いわゆる症候群といわれるものはたくさんありますが、脊柱変形をきたすものが多数あります。もちろんすでに診断はついているでしょうから特発性側彎とは区別できると思います。
このようにして検索をすすめても基礎疾患が見つからないばあい、特発性側彎と判断します。
診断は、最初にのべた、脊椎の左右方向の曲がり、捻れ、前後方向の曲がりが存在するということを理解すればそれほどむずかしいものではありません。
側方への曲がりによって、肩の高さが異なったり、腋の下の左右非対称やウエスト部分の左右の高さの差が現れたり、肩甲骨の高さの差が出現します。脊柱の捻れによって、背部や腰部の左右のどちらかが突出してきますし、女子であれば前胸部の左右非対称が気になるはずです。このような状態に前後方向の彎曲の異常(背中や腰部のゆるやかな彎曲が減少した状態)が加わってくると一見して異常に気付くようになります。好きな服が着にくい、プールで水着になりたくない、など周囲の目が気になって精神的ストレスを引き起こす原因ともなります。
特発性側彎症の分類
発見された年齢により、乳幼児期側彎症(0-3歳)、学童期側彎症(4-9歳)、思春期側彎症(10歳以後)の3つに分けられています。それぞれの頻度は、4%、12%、84%で、思春期側彎症が圧倒的に多くなっており、特に小学校高学年より中学校1、2年生の女子に多く見られます。
1。乳幼児期側彎症(0-3歳)
3歳以下で発見されたもので、多くの場合自然治癒する傾向がありますが、脊柱の回旋を強く伴っている場合には進行性で最終的には高度な彎曲を呈することも稀ではありません。アメリカに発生頻度が少なく、ヨーロッパに多いことから、乳児期の寝かせ方と無関係ではないことがわかっています。アメリカでは赤ちゃんをうつぶせ寝にするのが習慣ですが、ヨーロッパでは仰向けに寝かせています。仰向けに寝かせることが発生と関係していると言われています。仰向けに寝かせた場合、赤ちゃんは顔を左右どちらかを向けていますが(日本における私達の調査では、右が2/3、左が1/3です)、側彎が発生した場合には、彎曲の方向は右向きの赤ちゃんでは左凸であり、左向きの赤ちゃんでは右凸のことが多いことがわかっています。乳幼児期側彎症のことだけを考えれば、うつ伏せ寝が良いのですが、窒息の発生する可能性もあるのでうつ伏せにするときは御家族が常に監視していなければなりません。
2。学童期側彎症(4-9歳)
胸椎右凸の側彎が多く、女子に発生率が高くなってきます。この年令ではお子さん本人の装具装着には抵抗が少なく、御家族の協力があれば装具治療がしっかりでき、進行を押さえることができますが、発見されたときすでに50-60度の彎曲がある場合には、装具治療にもかかわらず思春期を迎える頃に急激に進行することがあります。
3。思春期側彎症(10歳以後)
特発性側彎症の多くを占め、ほとんどが女子に発生します。右凸の胸椎側彎が多く、背が急激に伸びる頃(生理開始の1-2年前から生理開始までの期間)に彎曲もまた急激に進行する場合があります。この年令では学校生活のさまざまな場面で肉体的にも精神的にも装具装着が困難なことが稀ではありません。治療にあたっては御家族だけでなく、学校における生活場面での周囲の理解と協力が不可欠となります。
特発性側彎症の発生を予防する方法はまだわかっていません。したがって、早期に発見して経過を観察して進行する様相があれば速やかに治療を開始することが重要です。
側彎の進行しやすい時期は小学校4年生から中学3年までの期間です。下図は典型的な症例の進行をグラフにしたものです。縦軸は曲がりの角度です。12歳ころに急激に進行しているのがわかります。この時点でbrace(装具)治療を行い、進行を防いでいます。
側彎の進行しやすい小学校4年生から中学3年までの期間には下に述べる4項目のチェックを定期的に行ったり、御家族の皆さんが日常生活の中で、お子様の入浴中に背中を注意して観察するとか、洋服を新調する時に左右の違いに気をつけることなども早期発見に役立ちます。
特発性側彎症も他の構築性側彎(本物の側彎症)と同様に脊柱が側方に曲がるだけで無く、側方に曲がっている部分は回旋(捻れ)をともなっているのが普通です。さらに脊柱の左右方向への彎曲と捻れが強くなると、脊柱の前後方向の彎曲が変化してきます。そうすると、肩の左右の高さが異なったり、腋の下の左右非対称やウエスト部分の左右の高さの差が出現したり、肩甲骨、背部、腰部の左右のどちらかが突出してきます。これらの変化を見つけだせばよいわけです。そのためには以下の4つの項目をチェックします。
1。両肩の高さの左右差。
2。脇の線(ウエストライン)の左右非対称。
3。肩甲骨の高さや位置の左右非対称。
4。前屈した時に見られる背中や腰の高さの左右非対称。
特に4の前屈した時に見られる背中や腰の高さの左右非対称は鋭敏なサインです。この時左右の高さの差が5-6cmであれば余り問題はありませんが、7-8cm以上であれば側彎の疑いが強くなります。また、背中の高さの差を角度で計った時、5度以上あれば側彎の疑がわなくてはなりません。