特発性側彎症治療

要約:特発性側彎症の治療の将来的最終目標は、可動性を温存しながら変形を矯正することである。手術療法は格段に進歩したが、残念ながら可動性を犠牲にして矯正をおこなわざるをえないのが現状である。一般的に50度を超えるカーブに対しては手術療法をおこなうが、適応に関しては様々な要素を考慮しなければならない。

整形外科疾患の治療とは一般的に、変形を矯正することにより、可動性と安定性を兼ね備えた骨関節機能を獲得することです。安定性と可動性とは本来矛盾する概念ですが、関節がその運動機能に則した固有の形態を回復することにより、この2つの矛盾した機能は見事に統一され、両方の機能を最大限に発揮できることになります。
股関節脱臼、内反足など、多くの小児整形外科疾患の治療においては、保存的治療にせよ、手術的治療にせよ、可動性と安定性を兼ね備えた骨関節機能を獲得するための方法論はほぼ確立したといってよいと思います。ところが、側彎の手術的治療においては、残念ながら、変形を矯正し再発を予防するために固定をおこなわざるをえないのが現状です。
固定というのは、言い換えれば、可動性を犠牲にして安定性を得る方法です。特発性側彎症の治療の最終目標は、他の関節組織(脊柱も関節から成り立っている)と同じように変形を矯正することにより、可動性と安定性を回復することと考えていますが、現状では固定することにより可動性を犠牲にしてはじめて安定性を獲得できる、というのが現状です。
脊椎の固定された部分は動かなくなっても日常生活に不自由をもたらすことはありませんが、小児整形外科医師は、側彎治療の将来目標とは可動性のある脊柱を再建することである、ということを銘記して奮闘すべきです。

治療の歴史

長い歴史のある疾患ですので、これまで、ありとあらゆる治療法が試されてきました。体操、ぶら下がりなどの運動、電気治療、特殊な刺激療法、整体と呼ばれている矯正、各種コルセットによる矯正などです。このなかで唯一有効であることが科学的に証明されたのは、装具による矯正法です。しかしながら、装具療法も現在ある彎曲を改善する効果はなく、進行を止める役割しかありません。また、すべての患者さんの側彎に有効とは限らないことも判っていますし、50-60度を超える彎曲の装具装具療法は困難です。

1960年代から、脊椎に金属の器械を挿入して矯正固定する手術的治療法が盛んに行われるようになりました。この時代までは側方への変形をどう矯正するか、ということが課題となっていましたが、1990年代に入ると、脊柱変形を3次元的にとらえ、側方だけでなく、脊柱回旋ならびに前後方向の変形をどのように矯正するか、ということが論議されることになりました。最近ではイリザロフ法によって矯正を試みることもなされています。

治療方針

軽度な側彎であれば、まず経過を観察します。10度未満の彎曲はよくあるもので、回旋がなければそのまま経過を観察します。
彎曲が20度を超えるといろいろなことを考えなければなりません。この場合、15歳をこえているようであれば問題ないと思いますが、まだ生理の訪れのない場合には、20度を超える彎曲の中には進行性のものがあるので注意が必要です。家族歴や、骨年齢を参考にしながら厳重に経過を観察する必要があります。進行性の様相があれば装具療法をおこないます。とくに、小学校低学年で20度を超えてなお進行性であれば要注意であり、このような場合には、かならずしもすべてのカーブの進行ををコルセットで阻止することはできません。コルセットにより肋骨を介して脊柱の彎曲を矯正しようとしても、彎曲する力が強大なため肋骨が潰れてくる場合もあるくらいです。そのくらい曲がろうとする力が強いことも稀ではありません。このような場合には可能な限りコルセットを装着しますが、最終的には手術療法が必要となるでしょう。
30度を超えてくると背部の片方の凸部分も目立ってきて、外から見てもわかるようになります。生理が開始していなければ装具療法を開始し、なんとかそれ以上進行しないように努めます。この場合でも(骨)年齢が重要で、すでに生理が始まっていればあまり進行しないかもしれませんが、そうでなければ重度の側彎になる可能性があります。3才までに30度以上カーブがある場合には高度な側彎になる可能性は高くなります。もし早い時期に進行するようであれば脊椎骨を固定しない手術が必要となります。

一般的に、50度を超えるカーブであれば手術療法を行います。もちろん絶対的にものはありません。カーブが胸椎と腰椎の両方にあってバランスがとれている場合にはそとからみてもあまり目立たないことがあります。このような場合には特別本人から強い希望がない限り様子をみることにしています。逆に、50度未満であれば医学的には問題ないと推測しますが、本人から強い希望があれば手術をします。側彎の治療には医学以外の様々な要素が入ってくるので、手術を決めるのにも簡単ではありません。手術療法の目的の一つは、本人がこの疾患にまつわる精神的悩みを解決することでもあります。50-60度を超える彎曲がある場合、側彎の悩みから解放され本来の勉学に打ち込むことができるようにするのも重要なことです。

手術は通常背中の方から下の図のように固定器具を挿入して矯正固定を行います。

       

 術前               術後

昔とちがって、側彎の手術治療学は驚く程に進歩しています。手術器械の進歩だけでなく、手術中にはモニターで脊髄の安全を監視したりして昔とは比較にならないぐらい安全にできるようになりまた。また麻酔学が進歩したことにより術後の痛みのコントロールも容易になりましたし、以前のように術後のギブス固定は通常不必要となっており、患者さんにとっては昔と比べればはるかに苦痛は軽減しています。

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