3月はじめ、私は「親戚」のモンの村、シヴィライ村に行った。若いながらも女性グループのリーダーとなっているドゥアがやってきて、私に言う。
「あのねぇ、きよこー。この前、私たち女性グループのミーティングをしたの。今、18歳以上50歳未満の女性がサハパンメーギン(全国的な組織であるが、その末端、村の中での女性のグループ)を作っているのよ。みんなで、話しあいをしてね、全員が刺繍のポーチを一つづつ作って、きよこに売って、それをみんなの共同資金にして何か活動しようって決めたの。」
「へぇー、私に売って・・って、決まったの?」
私は思わず笑ってしまった。「それで何するの?」
「今度のお正月の時に、みんなでパーティでもやる資金にするの。ほらこの前3月8日が女性の日だったでしょ?(ラオスには女性の日というのがあり、その日は仕事は休みで、女がこぞって遊びに行く。男は女にサービスするという見習うべき日)それで、この村の前の道を、女の人達をたくさん乗せた車がいっぱい通ったの。私たちはどこへ行くお金もなかったし、何もできなかった。だから今度は私たちも何かやろうって、決めたの」という。
モンの女性はラオスの女性のように、ドンチャン騒ぎなどすることもないが、きっと、彼女たちは、楽しそうなラオス人の女性たちを見て、きっとうらやましく思ったのだろう。ドゥアは続けて言った。
「私たちモンの女は、教育もないし、世の中も全然知らない。タイから戻ってきてこの方(この村は難民帰還村)、村とその辺だけで一度もビエンチャンへも行ったこともない人が多いの。それで、私たち話し合って決めたんだけど、きよこに車代を出してもらって、みんなで動物園に行こうっていうことに決めたの」
「へぇー、私に車代を出してもらって、ね?」私は思わず大笑いして、ほんとに愉快になってしまった。いいではないか!私は彼女たちとつきあって長いけれど、女の人達がそうやって、コトを決めたというのを聞くのは初めてであった。私はちょっぴしフトコロを心配しつつも、彼女たちと、動物園に行ったらきっと面白いに違いない・・と思った。「いいよ、一緒に行こう!」
女たちは集まってくると、「もううきうきして、きっと眠れないわ」「あぁ、待ち遠しいわぁ」
と、キャラキャラと嬉しそうで、まるで遠足を前にした子供みたいに楽しそうに話し出した。
「その日は、男たちは行かせないのよ。男たちは家で子供をみるのよ。子供も連れていかないの。私たちだけが行くの」と、女性たちハナ息荒く、なかなか頼もしい。
結局、車は、地元のバスの運転手にモンの人がいるというので、彼女たちに交渉してもらい、支払は私が当日することにした。私はビエンチャンで待ち受けることになった。
果たして、3月26日、50人ほどの女性と、10人ほどのお付きの男たちを乗せたバスがビエンチャンにやってきた。メコン川を見て、動物園に向かったが、運転手が腹痛をおこして、草むらから出てこなかったり、川を渡るフェリーにバスが乗れなかったりと、もうてんやわんやで、何とか動物園までたどりついたのはもう3時過ぎ。私はもう、たどり着けて、ほっとして力が抜けた。そして、「さぁ、やっと着いた。時間も少ないけど、じゃあ入場料を買うから、何人?」と言うと、女たちはみんな、はればれとにっこり笑って、言った。
「いいのよ、きよこ。私たちこれは自分で払うから。ここまで連れてきてくれたんだから、ありがとう」
そして、みんな一人一人、1000キップの入場券を窓口で買うと、中へと入っていった。
動物園には虎もカバも象もサルもワニもいたのだが・・・・私は動物園で見た、女たちの顔顔顔・・村の中とはちょっと違う、晴れやかな笑顔・・しか覚えていないのである。
2000年3月