モン族 は文字を食べてしまったという話
ラオスにモン族 が住みはじめたのは、19世紀の後半。中国では苗族と呼ばれているが、彼等の一部が山づたいに南下し、移り住んできたのだという。
あるモンの村の村長は言った。
「中国では、昔から中国人(漢民族)とモンは反目しあう仲だった。他民族に支配されるのがモンは嫌だからね。反抗するモンを中国人は嫌って、さまざまな迫害を加えたのだ。モンの美しい娘や嫁に、犬や豚をけしかけて犯させたりしたともいう。争いは絶えなかった。 しかし、実権を握っている中国人の領主はモンに重税をかけて苦しめ、とうとう我慢できなくなったモンは立ち上がって戦いはじめた。しかし、なんといっても、中国人の数は多い。モン族 はたくさんが殺され、一部が中国から南下して逃げ、ベトナム、ラオス、タイに住むようになったのだ。
わしのひいじいさんも、そうしてラオスに来たわけだ。何年のことかははっきり知らないが、百年以上前だろうね」
中国の歴史書の中においても、モン(苗)族は、数々の王朝に対して抵抗し、反乱をおこし、弾圧を受けたと記されているそうだが、モン族には文字がないので、モン族 自身によって書き残された歴史は残っていない。
「でも、モンは昔は、文字を持っていたそうだ。でも、その文字を使うと、中国人にモンだということがばれて迫害されるから、水牛の皮に文字を書きつけて、あぶって食べてしまったというんだ。そうして、文字はモンの心の中にしまわれて、モンは文字をなくしてしまったのだ、という話だ。」
と、村長は言った。モンの物語や歴史は、文字で紙に書き残すという方法で伝えられてはこなかった。しかし、先祖代々語りつがれてきている。彼等の代々に渡る記憶力のすばらしさには、まったく驚かされる。水牛の皮に書いて食べてしまったモンの文字を、きっとそれぞれの心の中に持っていて、それで心に書き記しているのではないか?と思ってしまうのである.。