竜の骨 

 シェンクワン県、ポンサワンの市場に、薬草やら薬を売っているモンのおばちゃんがいる。何やら得体の知れないいろいろな実やら茎やら根っこやら骨なんかが、所狭しと台の上に置かれている。私はポンサワンに行く度に、おばちゃんの所に寄り、その薬たちの効能を聞く。頭痛、腹痛、腰痛をはじめ、何ともいろんな薬がある。おばちゃんの横に座っていると、結構次から次へとお客さんが来る。

「この前肩を打って、痛いんだけど、何か薬ある?」「それなら、これだねぇ。茎の乾いたのなんだけど、これを削って貼ると一発さぁ。私もこの前治ったよ」

「私、最近痩せてしまって、太る薬ある?」「それなら、これさぁ。」と、シャボテンみたいな枝。「これを鶏肉と一緒にまぜて料理すると、もう一発で太るよ」「あらぁ、太り過ぎるのも困るわね」

「便秘にいい薬ある?」「それならこれさぁ」と、おばちゃんはねじれ曲がった実を手にとり「これは便秘にもいいし、男が女の人と寝違えた時(私はどういう状態を指すのかわかりませんが・・)にもいいのさ。」・・・うーん、どうも何やら怪しげである。「男が力の出る薬」なんていうのもあるし、子供を堕ろす薬なんていうのもある。何かの枝である。「煎じて1週間飲んだら、2、3か月の時に堕りるよ」などと言う。その他に、「これはね、しゃっくりが止まらない時にいいんだよ。これは、鼻に何か詰めてしまった時」などという、果てしなくいろいろな効能があり、何とも面白い。私は大抵、「二日酔いにいい薬」を買う。

 さて、つい先達て、おばちゃんを訪ねると、真ん中にドーンと長さ15センチほどの大きな石のようなものが置いてある。「これ、なーに?」

「これは、ジャー(竜)の歯さ」「えっ?ジャー(竜?)本当に?」

「本当さぁ、ほら、これが歯の噛む面で、こっちが歯茎の方さ」

なるほど、そう言われてみると、そんな感じである。

「これはね、昔本当にいた竜さ。悪い竜でね、人間を食べたりしたんだ。それで、雷に打たれて死んで、その歯が石みたいになったんだよ。」

「本当?」「本当だともさぁ」

 おばちゃんの顔は真面目で、向こうのおばちゃんも、うんうんとうなずいている。

「それで、これ薬になるの?」「いいんだよぉ、いい薬だよぉ。一番いい薬だよぉ。家が火事にならないようにと、子供が熱を出した時にいいんだよ。500万キップ(約7万円)だよ。高いって?高くないよ。本当なら1000万キップで売るさ」

 私が、ソムトン氏に「ほら、竜だってぇ」と言い、一生懸命写真をとっていると、彼は「チッチッチ」と舌を鳴らして「違うよ。竜なんかじゃないよ。単なるダイノーソウル(ダイノザウルス?恐竜)の歯か何かさ」

という。どっちにしてもすごいじゃないか!もしかしたらすごい発見じゃないか!と思いつつも、やっぱり重いし、買って単なる石ころだったら、どうしようもないので、買うのはやめた。

でも、これだからラオスは面白い。

「こっちのは何?」

「それはサイの骨」「何にいいの?」「熱を出した時に削って飲めば、一発で効くよ。それに傷をした時に、削った粉をかければ、もうーそりゃあ、一番いい薬だね。すぐ治ってしまうよ。」

私とソムトンさんは、おばちゃんの宣伝文句につられて、ついサイの骨を買ってしまった。

1万キップなり。

「これは?」「それは、ピーニューワイ(モンの妖怪)の骨」

「本当にピーニューワイっているの?」「いるともさぁ」

「へぇー、すごいなぁ」私は、すっかり嬉しくなって、竜の歯の上に、ピーニューワイの骨を置き、写真を取った。すると「あんたにあげるよ」とおばちゃん。「いいかい、これはとってもいいんだからね。肌身離さずもってるんだよ。守ってくれるからね」と、そのモンの妖怪、ピーニューワイの小さな骨をくれた。というわけで、私はビニール袋に入れたモンの妖怪の骨を、「怪しいなぁ、嬉しいなぁ」と、お守りとして持ち歩いている。

                            (2000年3月)