ベトナム国境にほど近い田舎町からまたさらにジープで1時間も山道を上ったところにある奥まったモンの村まで行くと(といっても車道が通じているのだから、まだほんとうの山奥とはいえない)、モンの民話の中に語られている世界があちこちで感じられる。子どもたちに聞いてみた。
「ねぇ、ここには、ピーニューワイ(モンの妖怪)っている?」
「もちろん!いるよー。」「どんな顔してるの?」
すると、女の子がほんとうにイヤな奴の顔を思い出すかのように、顔をしかめていう。
「うわっ、ペッペー(モン語でひどいの意)。毛むくじゃらで顔のあたりに赤い毛がもじゃもじゃしてて、ほんとにうへー、ペッペー」
子どもたちは、向こうに見える山を指さして、
「あそことあっちと向こうの山の洞穴には、ピーニューワイが住んでいて、そこを通るとね、ヘッヘッヘって脅すんだよ。」と、ぶるぶるっと肩をふるわす。ピーニューワイはいろいろに姿をかえて、泣き声も犬や豚や牛やいろいろな動物の声を真似るそうだ。
「ポンゾンはいる?」「いるよー。ポンゾンはあっちの谷に住んでるよ。」
ポンゾンは、3、4歳の子供くらいの背で、髪が長く、ものすごい力で牛などかついで風のごとく走るという。ポンゾンは人間の赤ん坊のように泣く。子どもたちは「あの時はこーであーで」と具体的にあれこれ、いろんな「見た話」をものすごい勢いで話し出した。
「ほんとに見たの?」と聞くと、「だって、ほんとにいてほんとに見てるから、こうして話せるんじゃないか」と真剣な顔でいう。その話を横で聞いていた大人がいう。
「ヘン、こわがることなんかないよ。森の中に住んでて、村の中には来ないからね」
「まあね、子供はこわがってるけどさ、あれは動物の一種で、人を見れば脅かすっていうことだけだよ。うん、なんでも身体の中に電気を持っていて、人が通るとわざと石を落としたりするようだけどね。こわがることはない」
やはり、ラオスの山の奥にはまだ得体の知れない妖怪変化が住んでいるらしい。山の中のモンの村にくると、それは、本当にそんな気がする。