子犬泥棒                              2012年9月19日(水)

 ポチとパンダ・・・・・メリーから生まれた姉妹・・・・・が2日違いで、子犬を産んだ。ポチは2回目。パンダは初産である。
 2匹ともお腹をボテボテさせながらも元気に歩き回っていたが、15日土曜日の朝、まだ暗いうちに、私が2階から降りてくると、床にポチと、何か袋なようなものが転がっている。
「うわっ!生まれた」
 昨晩、ポチは外に出したはずなのに、窓を押し開けて家の中に入り、出産したらしい。
 よく見ると、2匹の子犬はもぞもぞ動いているが、1匹はまだ袋の中から出ていない。あわててダンナを呼ぶ。ダンナは
「聞こえてたよ。夜明け方に、キーキーネズミみたいな声がしたもんな・・」などと、のんびり降りてきたが、まだ1匹が袋の中にいるのを見て、あわてて、袋をやぶって中の子どもを出した。かわいそうに、もう息をしていない。ポチは、産んだ後2匹は、周りを被っている袋を噛み破り、へその緒も食いちぎってやることができたが、1匹は疲れてしまったのか、忘れてしまったのか・・・・袋に入ったままになっていて、結局外の空気を吸うことができずに窒息死してしまったようなのだった。
「かわいそうに・・」
 ダンナはその小さな子犬・・・・ポチみたいな薄茶色で、額に白い星のあるその子の心臓をしばらくマッサージしていたが、「ダメだね。死んでしまっているよ」と言った。
 ポチは、出産時に出た体液やら何やらで、真っ黒になっていて、それなりに、一匹で格闘していたことを思わせた。ポチはポチなりに一生懸命やったんだろうけれど・・・・・せっかく、ここまで生れ出てきたのに死んでしまったこの子・・・・・・かわいそうだったね・・・・・その後、私たちは、庭の木の下に埋め、お線香とろうそく、そして、ちょうどチマキをたくさん作ってあったので、チマキを一つお供えして埋めた。
 犬たちは、チマキを結構喜んで食べるくせして、そのお供えのチマキをくわえていく犬がいなかったのが不思議だった。
「せっかく生まれてきたのに、生きられなかったね。来世にはうんと長生きするものにお生まれ」
 ラオスの人たちは輪廻転生を信じている。
 
 さて、ポチはうんと太っていたので、まだまだ出てくるのだろう・・・・と待っていたが、一向に生まれる様子はなく、「なんだ、ただ太っていただけか・・・」と、結局、残った2匹の子・・・・1匹はポチと同じ薄茶色で、1匹はこげ茶色・・・が、お母さんのおっぱいを、たらふく飲んでいる。

 さて、パンダは月曜の夜に、陣痛が始まった。
 夕方、台所の机の下にもぐりこんでいたパンダが見えなくなった。
「おかしいね。ぜったいどこかに隠れて、産もうとしているんだよ」
と探しに行くと、パンダは、パン焼き釜(レンガで作った、ダンナ手作りの石窯)の下の穴に入り込んでいる。灰のたまっている穴の奥深くに入り込んでうずくまっている。懐中電灯で照らすと目だけが光る。
「ここで、産んだら、灰だらけになっちゃうよ・・・」
 ダンナはパンダを引っ張り出そうとしたが、出産間際で気が立っていて、それでなくとも、パンダは少し難しい子なので、うっかりすると噛みつく。ダンナは手にタオルを巻いて、パンダを引っ張り出したところ、何の抵抗もなく出てきたけれど、まぁ、白い毛が灰色に汚れきっている。まもなくパンダの陣痛が始まったらしい。ダンナが
「ベン、ベン!がんばれ」
と言う。ベンというのは、分娩のベンと同じか・・・・たまに日本語とラオス語が重なるものがあって面白いが・・・・さて、そんなことを言っている場合ではない。パンダは、一生懸命、ベン!きばって産もうとしている。苦しいらしい・・・・・
「あぁ〜」
 パンダは、キャンでもなくワンでもなく、まるで人間のような悲鳴をあげた。本当にびっくりした。少し、黒いぬるぬるしたものが見えてきた。頑張れ!がんばれ!
「おぎゃあ〜!」
 と私には聞こえたのだが、もちろん、それは子犬ではなく、パンダが上げた声なのだったが・・・・子犬がぬるぬるした袋に入って出てきた。パンダはさっそく、むしゃむしゃとその周りの袋、そして、へその緒を食いちぎっている。
 それにしても、さっきパンダが出した2回の悲鳴・・・犬がこんな声出すのか・・・・・本当に、命の根源的なところでは、人間も動物も本当に近いのかもしれない・・・・となんだか私も感極まったような気がして、妙に感激してしまった。
 さて、その後は、母犬パンダにそっくりの、白と黒のパンダ模様の子が2匹、そして最後に、白っぽい子が1匹、全部で4匹の子が生まれた。
 ポチ母子は、古いスーツケースの中・・・・パンダ母子は、段ボールで屋根を作ったその下に、居を構え、子犬たちにおっぱいをあげている。ことパンダは神経質で、他の犬たちが近づこうものなら、うぅーと唸る声をたて威嚇する。私たちは近づくことはできるが、パンダの子に手を出そうとすると、噛みつこうとする。パンダの初めての子育てが始まった。

 さて、今朝、まずパンダ母子を覗いてみると、子犬が1匹足りない。中に引いてある布を引っ張り出して見てもいない・・・・あれ?どこに行ったんだろう?どうして? 「パンダどうしたのよ?」と聞いてみても、パンダはきょとんとしている。
 あわてて、ポチのスーツケースの中を見ると、あれ?子犬が3匹いる。小さい子犬が1匹増えているじゃないか・・・・・
「ポチ、おまえ、パンダの子を泥棒してきたの?」
 ポチは「何か?」と、上目遣いで見上げている。
 パンダがいない時に、1匹、くわえてきたのだろうか?小さな子犬も、他の子に混じってポチのおっぱいをごくごく飲み始めた。




「ポチはどういうつもりで、パンダの子を盗んだんだろう?」
「ポチは、3匹産んだのを覚えていて、あっ、ここにいたってくわえてきたのかな?」
「でも、白黒のパンダ模様の子犬じゃなくて、自分と似ているのをくわえてきているのがおかしいね」
「パンダ模様のだったら、ばれちゃうからね」
 私とダンナは笑った。まったく、パンダのいない隙に、子犬を1匹くわえて盗んでくるポチを想像すると可笑しくなった。それにしても、パンダは気がつかずに、3匹の子の面倒を一生懸命みている。
 ポチのお腹の周りには、2匹の丸々とした子犬に混じって、1匹の小さな子犬が、一緒におっぱいを飲んでいる。母犬も子犬も誰ひとり1匹として、「あれ?おかしいなぁ」と思っているのは、いないみたいだ。あまりに自然なのが、まったくもっておかしい。
 というわけで、ポチとパンダは、仲良く3匹ずつ子犬におっぱいをあげている。



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