入院したレディ                                                                                                                                  2012年5月25日

 レディが入院した。私は、3日ばかりタイに仕事で行っていて家を空けていたのだが、ノイが電話で、「レディが調子が悪いんだ。明日病院に連れて行く」と言った。何も食べず、寝てばかりいて、触ると、いつもなら柔らかいのに、皮の下の肉がひからびたように、固くなっていて、耳も冷たくなってしまっていた・・・という。子犬は、逝ってしまう時はあっという間だから心配だ。
「明日一番で病院に連れて行くよ」とノイが言う。

 獣医さんは、「これは、犬の病気だ(確かに!)」と、注射を打って、点滴をしてくれたと言う。家に戻ってくると、レディは仲間から切り離されてかごに入れられても文句も言わず、おとなしく寝ていた。次の日、また医者に行くと、今度はお泊りで点滴を受けることになった。というのは、単に迎えに行けなかったからなのだが・・・・・
 昨日夕方、レディを迎えに行った。動物病院のスタッフが、
「茶色の犬、?もうよくなったんだけど・・・・・でも、まだ飯を全然食べないんだよ」と言う。
 奥の部屋の小さな檻の中に寝かされたレディ。私とノイが行くと、しばらくきょとんとしてから、急に気がついたように尻尾をぱたぱたすると、檻の中をうろうろと回る。開いているのにどう出ていいのか動転しているようだ。 
「もう帰れるんだけど、でも、ご飯を食べないからなぁ。飼い主のあんたたちが試してくれよ」
と言われて、ノイが、小さなお皿の中に置かれた肉を、レディに差し出してやると、むしゃむしゃと食べ始めた。食べ終わると、舌なめずりして、もっと食べたそうだ。
「なーんだ。おまえ、人見知りしていただけか。こら!」
と病院のスタッフはレディに言った。
 レディは、前はお腹が俵みたいにパンパンに太っていたのに、すっかり痩せてしまった。私に抱かれてもまだ怯えるように、ぶるぶる震えている。でも、だんだん落ち着いてきたのか、人の顔を見上げてはぺろぺろなめようとする。

 その後、車の助手席で、私が膝の上に抱いて帰ったが、車が走り出してまもなく、膝の上がじわ〜っと温かくなる。
「うん?あぁー、おしっこした」
 レディは病院の檻の中で、おしっこも我慢していたのだろう。私のひざの上に寝たまま、じわあ〜っとおもらしをした。その後続けて、またまたじわぁ〜・・・・まるで自分がおもらししたかのように、あたたかいものが、脚からお尻まで伝わって行く・・・・「まぁ、いいよいいいよ。おしっこもできなかったんだねぇ」と、笑いながら、ひざの上でおとなしく寝ているレディを乗せていたが、もういよいよおうちに着いたよ・・・という途端、ひざの上で、吐いた・・・・・あぁ!おまえ!具合の悪い子犬だから、怒れはしないが・・・・なんてこった・・・
 レディは車から降りて、仲間の犬たちに迎えられた途端、元気に走り出したが、すぐに、かがんでウンチをしている。あぁ、やっぱり、病院では、たとえ元気になっても、意気消沈していて、食べることも、おしっこもうんちも、できなかったんだなぁ・・・・・たとえ犬であっても、家族と一緒に、安心していられること・・・・で、元気になれるのだろう。

 図書館の子どもたちが帰ろうとする時間だったので、金網越しに
「ごめんね。遅くなって・・・・・子犬を病院から連れてきたところなの。おしっこされちゃって・・・・」
と話していると、子どもが、「わあ〜、おしっこしてる。キャーハッハッハ」
と笑うではないか。うん? なぜか脚の下の方がまたじわぁ〜っとあたたかい。と見ると、オス犬のボクサーが脚を揚げて、私の脚にしゃーっとおしっこをかけているではないか。私の脚は電信柱じゃない!「おまえ!何すんのよ」と、ボクサーを叩くと、ボクサーは「何で怒られるんだよぉ」という顔をして逃げていく。
 私の脚から、他の犬のおしっこの匂いがしていたから、ボクサーは、「僕のテリトリーだぜ!」とおしっこを上からかけたのだろう・・・・・
 あぁ、でも、本当になんてこったい。
 レディが元気になって帰ってきたのはいいが・・・まったく・・・・・さんざんな日であった。

レディとボクサー

 まぁ、8匹も犬がいると、いろいろと起こる。

 それにしても・・・である。こんなことを書きながら、思っているのだが、モンの村なんかにいると、犬が点滴を受ける・・・だの、犬をちやほや可愛がるなんて、考えられないことである。犬は番犬で、人間様と同等に存在することなんて、とんでもないことである。犬の名前なんて、ろくにつけやしない。人間だって、ろくろく点滴を受けられない人がいるっていうのに・・・・・肉なんかろくろく食べられない毎日なのに・・・・・そんなことを考えると・・・・・都会の犬として、ちやほやと犬を育ててしまっていることを、村の人に対しては、なんだか恥ずかしいような、申し訳ないような思いがするわけである。
 山の村の人たちには、こんな話、絶対にできない。
 でも、実際に、犬が家族の一員のような生活になってしまっているので・・・・まぁ、それはそれで仕方ない・・・と、この世のアンバランス・・・さを感じながら、村の人に対して肩身の狭い思いをしているしかない。

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