モンには、たくさんの「忌み」「掟」がある。また、「悪いことの起こる前兆」「悪い兆し」として彼等がとらえている自然現象がある。へび、鳥、野性の動物が家に入ってくること、犬が屋根の上に上ること、また、子豚が一匹だけ生まれること・・などは、悪いことの前兆として嫌われる。そのようなことが起こると、シャーマンが祈祷するなどして、悪いことが起こるのを未然に防ぐのである。
この民話は、へびが家に入って来るという「悪い知らせ」が、題材となっている。
むかしむかしある夫婦がいた。けし栽培の季節、毎日毎日けし畑を耕しに行っていた。
そして、夕方には、野菜や豚にやる草などを背負って、家に帰ってきた。
ある夕方、いつものように妻が豚のえさにする草を背負い戻ってくると、家の山側の壁のすぐ後ろのところに、綱の一巻くらいの大きさのへびが、とぐろをまいている。妻は夫に言った。
「あんなところに綱みたいなへびがとぐろをまいているなんて、きっと悪い知らせに来たのかもしれないわ」
でも夫は、迷信などを信じない意志頑強な人だったので、
「ふん、あんな大きさのへびが、悪い知らせのつかいでなんかであるもんか!」
と言うとへびをつかんで、家の下の方に投げすてた。
またある晩、二人はいつものようにけし畑から戻ってきて、食事をすませると、夫は脚を洗って先にねた。妻は皿を洗ったり脚を洗ったりしてから、後から寝床についた。するとベッドがガタガタと揺れる。夫は妻に言った。
「おまえ、寝る前に鍵を閉め忘れたんだろう。うちの豚が家の中に入ってきて、ベッドの下にいるんじゃないのかい?」
妻は答えた。
「わたしはちゃんと、閉めましたよ。豚が入ってくるはずなんかないですよ。」
「いやぁ、閉め忘れたんだろう?豚じゃなかったら、どうしてベッドがガタガタ揺れているんだい?おまえ、見てみなさい」
そう夫にいわれて、妻はランプをつけてベッドの下を覗いてみた。すると、どうしたことか、足踏み脱穀機の杵くらいの太さの、太ーいへびが、ベッドの下いっぱいにとぐろを巻き、かま首をもたげて、ベッドの板をガタガタ突ついているではないか。妻は言った。
「おまえさん、これは悪い知らせよ。この前のヘビの時は綱くらいの大きさだから、あんなのは悪い知らせのはずがないといっていたけど、今度はこんな杵ほどの太いへびがベッドの下にいて、かま首をもたげて、ガタガタ揺らしているんだもの。今度こそ、悪い知らせのつかいにきたにちがいないわ」
しかし、夫はまったくそんなことを信じない人だったので、ベッドをおりると、
「なにが悪い知らせなもんかい。これは、おれたちをおどして厄払いをさせようとしてるんだろ!厄払いの金をせびろうっていうんだな」と言うと、「おい、おまえ、縄をとってくれ」と、妻に言い、へびのあごをつかんで、縄できつくしばりあげた。そして
「おい、へびをひきずって行こう。ここから、水なし川の下の谷のところまでひきずって行くんだ」
と、夫婦は縄をつかむと、へびを力いっぱいひきずって全速力で駆け出した。時速120キロのものすごい速さで、風を切って山を駆け下りていった。へびは時速120キロでひきずられていき、このままあごがちぎれるより、木の切り株にでもぶちあたって止まった方がましだ!と、木の株にぶちあたった。すると、切り株がひっくり返り、いったい誰が切り株の下に埋めていたものか、金銀の詰まったつぼがころがり出てきた。夫婦はつぼにとびつき、金を拾い集め出したので、へびの方はしっぽを巻いてやっとの思いで、よろよろ、谷の水なし川を這って、悪霊の王であるダンズーニューのところに戻っていった。
ダンズーニューが言った。
「おい、へび、おまえはあの夫婦を悪い知らせでおどしてきたかい?」
「ダンズーニュー、いったいどうやってあの夫婦をおどかせっていうんです?あいつらときたら、ぼくが、金をせびるために来たんだろうなんて言って、あごをしばりあげると、力いっぱい、時速120キロで山をかけおりてひきずりやがったんですぜ。ちぎれて死ぬよりはと、切り株にあたったら、切り株がひっくりかえって、そしたら金が入ったつぼが転がり出してきたもんで、二人がそっちに気をとられたすきにやっとの思いで逃げ出してきたんでさぁ。すんでのところで、ここにももう戻ってこられないところだったんですぜ!」
へびがそう答えると、ダンズーニューは言った。
「おぉ、そうだったか。それではもうやめにしよう。悪い知らせのおどしに、地球の人間どもが驚かなくなったというのなら、もうやっても無駄だ。」
それからというもの、へびが家に入ってくるようなことがあっても、悪い知らせのつかいだ!悪いことの前兆だ!などと、恐れることはなくなったのである。シャーマンが「生きる」と言えば生きるし、「よくなる」といえばよくなる。人間の力を信じてよいのである。
(ラオス、シェンクワン県、ノンヘート郡)