みなしご

 小さい時に親を亡くし、ジュア(モン語で、みなし子の意)はみなし子になった。葬式用の牛を買う金もなく、ある中国人のだんなに金を出してもらったかわり、中国人の使用人になって、長い間ただ働きをしていた。10数年たち、もう十分借りは返せたはずなのに、いつになっても中国人はジュアをこき使う。彼は毎日、畑仕事に行っては空に向かってつぶやいた。

「空よ、こんな貧乏暮らしから、いつになったら、解放されるのだろう」

 3日目に、雲に乗っているガイエン(線香などをつかさどる霊)がそれを聞き、天上世界の空の殿様に言いに行く。「娘3人のうち1人をジュアに嫁がせたらどうかい?」

長女は「あら、あんな貧乏な人、私いやよ」と断わった。次女も「私もいやよ」と断わった。末娘ザウは「お父さんお母さんがそう言うなら私行ってもいいわ」と地上の世界へと降りていく。

 ジュアは畑仕事に行き、いつものように「あー、いつになったらこんな生活から・・」と、つぶやいていると、切り株のところに美しい娘がいて、答えた。

「ジュア、私と結婚しなさいよ。そうしたら助けてあげるわ」

「娘さん、からかわないでくださいよ。ぼくみたいな貧乏でボロ着ている男のことを、あなたみたいな美しい人が・・」

「あら、本当よ。怖がらないで、こっちへおいでなさい。私あなたと結婚するわ。」

 そこで、二人は結婚することにした。ザウは、ジュアを訪ねてきた貧しい妹のふりをして中国人の家に住み着く。

 ある日、中国人は儀式用の服を縫うように言いつける。ザウはその晩、空に戻って、空の両親と一緒に、9つの太陽と9つの月で飾りたてた服を作ってくる。その服はあまりにも光り輝き、3つの太陽と月をとって、やっと着られるほどであった。客人たちの前で、美しい服を着てご満悦の中国人に、ジュアは「今日で、今までの借りは返したよ。10年以上のただ働きはもう終わりだ。ぼくたちは独立する」と宣言して出ていく。

 

 空からザウの両親が来て、立派な家を作り、家来をつけて、二人は住みはじめた。

 地上の王様が、ザウほ美しさのうわさをききつけてやってきて、ジュアに「自分の9人の妻とおまえの妻をとりかえろ」と言う。ジュアは断わったが、妻ザウは言った。

「おとりかえなさいよ。私は1人、相手は9人の女よ。そっちをおとりなさいよ。私はあなたを助けるために来たのだから・・・もし、私が空に帰って男の子を生んだら私たちは再会できるし、女の子だったらもう会えないわ。」

 そして、ザウは、「私を最後に見たかったらこうしなさいね」と、ジュアに教える。

 地上の王様の家来たちがやってきて、ジュアをかついで、9人の妻のところへ連れていこうとする。ジュアは少し行くと、ザウに教えられた通りに、「ちょっと待ってくれ、帽子を忘れた」と言い、家にもどる。すると、ザウと王様が二人でいるのが見えた。次に、ジュアは「ランプを忘れた」と家に戻ってのぞいて見ると、ザウは王様を殺してしまっていた。3回目に、「靴を忘れた」といって戻った時、ザウは空に上りかけていたが、ふりむくとジュアに言った。

「ジュア、地上の王様におなりなさいね。私が男の子を生んだら、私たちはまた一緒になれるし、女の子だったらもう会わないわ」と。そして、ジュアは9人の妻をもらい、地上の王様になった。

 

 空に戻るとザウは男の子を生んだ。男の子は、どうしようもなくいたずらで、とても手がつけられない。祖父は言った。

「こんなひどい孫は手に負えん。わしがから揚げにして食べてやろう。」

 男の子は言った。

「それなら、ぼくはお母さんを連れて、地上の父さんのところに帰るよ」

祖父は言った。

「かくれんぼをして、わしに勝ったら、母さんを連れて戻っていいよ。だけど、おまえが負けたら、揚げて食ってしまうからな。」

 祖父はまず、草を食べている馬の胸ベルトに姿をかえたが、男の子が来てベルトに綱をしばりつけて馬を引っぱって行こうとしたので、祖父は「まいった、わしじゃよ」と降参した。次に祖父は桃に姿をかえたが、男の子が「おじいちゃんはどこだろう?」と言いながら、桃の実をとって食べようとするので、「まいったまいった。わしじゃ」と、降参した。そして祖父は言った。

「おまえさんが勝ったから、母さんを地上に連れていっていいよ。行く時には、3つの卵と3つの紙を持っていきなさい。」

 二人は、途中で出会った竜を、3つの紙と卵をなげて退治し、地上についた。そこでは、王様の家来たちが、田んぼ仕事をしていた。二人はそこへ行くと尋ねた。

「あんたがたは、王様の家来かい?」「そうさ」

「それなら、王様に、このおかゆを持っていって、差し上げておくれ。食べなくても、はしでつまんで口に入れておくれって、そう言って差し上げておくれよ」

 そして、それまでのいきさつ・・・ザウと出会ってから、中国人の借りを返し、9人の妻とかわり、男の子が生まれたら再会するということ・・というそれまでのことを全て書いた紙を、かゆの中に入れて家来に渡した。

 家来が持ってきたかゆを見て、王様は、「なんだと!わしにかゆを食えと?」と不思議に思ったが、言われた通り、はしを入れてみると、紙が出てきた。それには、ザウとのことがすべて書いてあったので、王様は家来に命じた。

「早く連れてきてくれ。わしの妻だ」と。

 そして、二人は再会して、ジュアは10人の妻を持った王様となった。

 その後のことは知らない。

(ラオス、シェンクワン県、ペック郡)