むかしむかし、虎、猪、熊、そして人が食べ物を探していて出会った。虎と猪と熊が人にきく。
「おまえさんの知恵っていうのはいったいどのくらいあるのかい?」
人は2つ石を持っていたので、それを打ち合わせると、赤い火花がぱちぱち散った。人は言った。「おれの知恵なんて、こんなちっぽけなものだよ」
虎、猪、熊は言った。「人の知恵はそんなちっぽなもんだけかい?」
「そうだよ、こんなちっぽけなものだけだよ」
「そんなちっぽけな哀れなものでかまわなかったら、おれたちと知恵くらべをしようじゃないか?」
と虎と猪と熊がいった。人は考えてから
「いいよ。まぁ試してみようじゃないか。でも、もっと広々としたところがいいから、明日の午後、あの山の上で会おうよ」と答えた。動物たちも、賛成した。
次の日の午後、虎と猪と熊はすでに山の上にいた。人は後から行った。山の上には風邪が強く吹いていた。人が火打ち石で火をつけると、風が強いので真っ赤な炎が山中にあっという間に燃え上がっていった。猪は走って速く逃げたので、毛が逆立ってしまった。虎は飛び跳ねながら逃げたので、ところどころ焦げてしまって、今のような縞しま模様となった。熊は足がのろいので、焦げて真っ黒になってしまった。
ある日、人は牛と水牛を連れて畑を耕しにいっていた。虎はおもしろくなく思っていたので、畑へ行くと人に言った。
「おい、人。おまえの知恵はあれだけってことかい?それともまだ何かあるのかい?」
人は答えた。「ぼくの知恵は、まぁあんなもんだよ。ほんの少し残っているけどね。」
「それならその残っている知恵で知恵くらべをしようじゃないか」
「でも、知恵くらべするなら、知恵は家の中においてきてしまったから、家からとってこないとここにないよ。そうだが、ここにはぼくの牛や水牛、それに馬の群れがいるから、取りに行っている間におまえに食べられやしないかが心配だよ」
そう人が言うと虎は「そんなことが心配ならば、俺をしばっていけばいいだろう。」
「あんたがそういうなら、そうしよう」
人は綱で虎をきつくぐるぐる巻にしばった。虎が身動きできるかどうかためしてみるとまだ少し動く。虎は言った。
「心配だったらもっときつくしばればいいさ」
虎をもう身動きにできないほどきつくしばると、人は家に戻ることにした。
「もう俺は動けないから家に取りに行くがいいさ。戻ってきたら、なわをといてそれでどうするか話し合おうじゃないか」と虎は言った。
人が行ってしまうと、虎は牛と水牛と馬に言った。
「おまえたちの主人が戻ってきて、おれの縄をほどいたら、あっというまもなく、おれのおかずよ!」
すると、水牛は言った。
「そう言ってればいいさ。じきに主人が帰ってきたら、ぼくたちはきばが全部抜けちゃうほど笑ってしまうだろうよ」
こんどは馬は言った。
「主人が戻ってきたら、ぼくたちは角が折れちゃうくらい笑ってしまうだろうよ」
しばらくすると、人が戻ってきた。人は斧を一つ背負ってきただけだ。戻ってくると座って休んでいる。
「おい早くほどいてくれよ。」と虎。
「息ぎれしてるんだ。ひと休みしたらほどいてやるから、そうしたら話し合おう」
虎はまた言う。「おい、ほどけよ」
「ちょっと待ってろよ」
と、人は斧を持ちあげると、虎にふりおろした。とらは大声で泣き叫んで飛び跳ねたので、水牛と牛はきばが全部折れるまで大笑い、馬はころげ回って笑ったので、角が全部折れてしまった。
というわけで、今でも、牛と水牛にはきばがないし、馬には角がないんだよ。
おしまい