06.ルームメイト



ホグワーツの大広間で開かれる年度始めの宴は、新入生達にとって 緊張する暇もないほどに、好奇心をそそられるものだった。
其処此処にかけられた魔法による装飾は素晴らしく、 大皿に盛られた食事は、食べ盛りの子供たちがいくら食べても食べきれないほどにある。
大広間を訪れたゴースト達と交わす、今までしたことのないような会話はとてもエキサイティングだった。


中でも今年のグリフィンドールの寮テーブルは近年稀に見る騒がしさを見せていた。
事のあらましはこうだ。
食が細いのか、あまり食べていないリーマスの皿にシリウスは無言で食事を取り分けていた。
そんな親友の姿があまりに微笑ましくてジェームズは遠慮なく大笑いし、 それが気に障ったシリウスは車中から暖めていた悪戯をジェームズに仕掛けた。
しかし上手くかわされ、近くにいた同じくグリフィンドールの同級生がその被害を被ることとなる。
被害にあった少年の髪の毛は変色し、みるみるうちに蔦のように体に絡まると 彼は針金で作る人形のように自分が全く意図しないおかしなポーズをとらされた。
可哀想な少年にシリウスが謝る気配がないのを見てかリーマスが謝ろうとして、 その際シリウスが親切にも山盛りに盛ってくれたパスタが乗った皿とスープの入ったボウルを盛大にひっくり返した。
そのスープを頭からかぶったジェームズを見て、シリウスは至極満足し、リーマスは真っ青になった。
自分が寮監を勤めるテーブルでの出来事に、教員席のマクゴナガルはリーマス以上に顔を青くし、 減点を言い渡そうとしたが、ダンブルドアに初日くらいは大目にみてあげなさいと やんわり止められ、こめかみをひくつかせるに留めた。
そうして咎められないのをいいことに、上級生達は益々楽しそうに囃し立てる。


かくして3人プラス巻き添えをくった被害者、4人の顔は入学初日にして一気に学校中に知れ渡った。



その騒ぎもようやく落ち着いてきた頃、 マクゴナガルが壇上に注目を促すと、ダンブルドアが厳かに立ち上がった。

「新入生の諸君。
 君達には『無限の可能性』がある。
 その数多くの可能性を君たちが、この学校で、ひとつでも多く見つけられるよう」

ダンブルドアの声が合図となり、盛大な宴は締められた。



監督生に促され、席を立ちながらジェームズはついと教員席へと目を向けた。
ジェームズには、先程ダンブルドアが立ち上がり、新入生へと言葉をかけた時に ほんの一瞬だけ、目線をこちらに寄越したように見えた。
一際うるさかった自分たちの所に目を向けるのは不自然なことではなかったが、 ジェームズはどうしても気になった。
ダンブルドアは、こちら・・・正確には、自分の隣に座るリーマスに目を向けていたような気がした。










刀@ 刀@ 刀@ 刀@ 










寮へと案内されると新入生達の荷物は談話室にまとめられていた。
その荷物を手に彼らはこれから7年間生活をすることになる部屋へと促される。
シリウスは何も言わずにジェームズに自分の荷物を預けると一人部屋へと続く階段を駆け登った。
「シリウス、どうしたの?」
すごい勢いで駆けて行くシリウスを呆然と見やりながら、リーマスは隣に立っているジェームズへ問いかけた。
「先に行って、いい部屋を取っておいてくれるってさ」
「そういう打合せをしていたの?」
「いいや、別に?」
「・・・・・・・」

リーマスはただただ感心してしまった。
こんな風に、その行動をいちいち説明しなくても相手のことがわかってしまうなんて、 まるで自分の両親のようだ。
母は父の言動を取り違えることはなかったし、 父は母の行動をいつも言われるより早くサポートしていた。

「君とシリウスって夫婦みたいだ」

リーマスは純粋に褒め言葉としてそう言ってみたのだが ジェームズは一瞬間を置いてから大爆笑した。

「な、何?どうしたの?」
「いいや・・・リーマス、君ってその・・・・感性が豊かだね、とっても」
ジェームズは目尻に溜まった涙を拭う。
「シリウスが待ちくたびれてるよ。僕らも行こうか」
リーマスはクエスチョンマークを浮かべながらも 荷物を手にしたジェームズの後について行った。






「遅い」

3人分の荷物を持ったジェームズとリーマスがシリウスの待つ部屋へ顔をのぞかせるなり シリウスは不遜にそう言い放った。

「悪い。っと、さすがにいい部屋選んだねぇ。
 角部屋だし、窓の前にはとても勝手のよさそうな木まである」
「当たり前だ」
「ホントさすがだよ。野生の勘ってやつだね」
自慢げに鼻を鳴らすシリウスにジェームズは余計な一言を返す。
その様子を見ていたリーマスはこの二人は本当に仲がいいのかよくわからないな。
と、心の中で呟いた。




其々に荷解きをし、3人は宴の興奮が覚めず、頭を寄せ合いおしゃべりをしていた。
ジェームズがゴーストたちは実体がないのに、物理的にどうやって声を出しているのだろう、というテーマで 自分の仮説を話している時に コンコンと部屋をノックする音がした。
「どうぞ」とジェームズが声をかけると 背の低い金髪の少年がおずおずと顔をのぞかせる。
「僕一人なんだけど・・・ベッド空いてるかな?他の部屋はもういっぱいみたいで・・・」
天蓋つきの立派なベッドが4つ置いてあるこの部屋に、現在員は3名。
もう廊下のざわめきは静まり、みんなそれぞれの部屋へ落ち着いた様子だったので、3人はこのベッドはひとつ空きなのかと思っていたが どうやら、ベッドの数と生徒の人数は合っていたらしい。
「あぁ、空いているよ。どうぞ」
ジェームズの声に少年は部屋に1歩足を踏み入れた所で立ち止まった。
きちんと部屋の中を見渡さずに声をかけてしまった彼は気付かなかった。
ここにいるのが、先程、大広間で自分にとんでもない悪戯をしかけたあの3人だったなんて。
(リーマスは直接的に関わっていなかったが、彼からすれば同類だった。)
「!!・・・・・・・失礼しました」
回れ右をする少年の肩にジェームズが手をかける。
「部屋を探してるんだろう?
 ここはちょうどひとつベッドが余っているよ?」
シーツがピンとはってあるベッドを指差す。
「いや、僕・・・・・やっぱり他の部屋を・・・」
「あ!」
逃げ腰な少年と、その肩を離そうとしないジェームズを見比べていたリーマスが声をあげた。
「さっき、シリウスに魔法かけられた・・・?」
リーマスの声にシリウスも少年に目を向ける。
「・・・・・・そうなのか?」
あの時には周囲を巻き込んでのすごい騒ぎになっていたせいもあり シリウスは相手の顔をよく覚えていなかった。
「・・・・こんな時間に部屋を探してるってことは、
 もしかして今まで先生方の所で魔法を解いてもらっていたのかな?」
「・・・・・・う、うん」
少年はもうそのことはいいから早くこの場から離れたいと思ったが シリウスの「悪かったな」というボソリとした声に顔をあげた。
「へ?」
「いや、だからさっきの。
 本当はコイツにかけるつもりだったんだよ。
 悪かったな」
「素直に謝るシリウスなんて初めて見たよ。
 後で姉上にご報告申し上げないとね」
「・・・っ!
 だいたい、てめぇが避けなきゃこんなことにはなってねーんだよ!」
「それは悪かったよ。
 避ける隙があったものだから、つい体が反射的にね」
「俺がノロマだとでも言いたいのか」
「僕がそんなこと言うわけないじゃないか」

少年を置いてけぼりにして本日何度目かになる口げんかを始めた二人にリーマスは軽くため息をついた。
そして、少年に歩み寄る。
「僕も彼らとは今日始めて会ったんだけど・・・
 二人とも、とても優しいし、一緒にいればきっと楽しいよ」
「・・・・・・・」
「ちょっとウルサイけれどね」
「・・・・そうだね」
リーマスと少年は顔を見合わせクスリと笑った。


「僕、ピーター・ペティグリュー。これからよろしく」
「リーマス・ルーピンだよ。こちらこそ、よろしくね」

二人が握手している後ろではまだ幼馴染みの二人が口論を繰り広げていた。


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