ちょーしこいて、第3弾・・・。
烈視点の(一応)完結編。あー、はずかしい。





いつもと同じ。
ここは僕の部屋で、豪は僕の隣でバカ笑いをしながら一緒にTV見てる。
いつもと同じ、日常。
でも、ひとつだけ、昨日と違うことがある。
僕の机の引き出しの中に、小さな秘密。
本当は、そんな所にあるべきものじゃないんだけど。
何故かあるべき場所へ持っていくことができなくて、
なんとなく、見えないところにしまってしまいたくて・・・。
本当は。
そんなことで自分が本当に見たくないものは、隠すことが出来ないんだって、
心のどこかで知っているけど。


「Gradation3」



豪の考える事なんて、手に取るようにわかるって思ってた。
だって、あいつの頭、単純だから。
でもわかってたのは考え方だけ。
一番奥の気持ちを、僕は全然知らなくて。
豪の真剣な眼に痛いくらいの想いを突きつけられて、僕は正直、どうしていいかわからなかった。
でも、一番驚いたのは・・・
弟からでも、真剣に想われるのってちょっと嬉しいかも、なんて思った自分自身。
だからって、あいつの気持ちに応える・・・つもりはない。
ないけど・・・やっぱりどこか意識してしまう。
告白した者とされた者が毎日顔を合わせてるんだから、意識するなと言うのは無理だ。

僕は、今まで通りで楽しかったのに、あいつが均衡を壊すから。
そんなのルール違反。

でも、きっと。
いつもと同じにしていれば、崩れた均衡は元へと戻っていく。
これくらいの小さな亀裂・・・いつもの日常で隠せるはずだから。


              × × × × × ×


「星馬先輩!」
次の授業の為教室移動してた廊下で突然声をかけられた。
振り返ると去年委員会が同じだった1コ下の女の子が立っていた。
「どうしたの?こんな所で・・・あ、どっか3年の教室に用事か何か?」
この辺で2年生の子に会うことは滅多にない。
ところが、久しぶりに会った後輩は急に下を向いてしまう。
「いえ、あの〜、星馬先輩に・・」
「ボク?」
「あ、あの・・先輩にお願いしたいことがあるんです・・・けど
 今日の放課後とかって、何かあります?」
この子が僕に頼み事?
委員会の中ではわりと話をした方だとは思うけど、思い当たることがない。
ま、放課後たいした用事があるわけじゃないし、かまわないけど。
「んー、図書室でちょっと調べものあるんだ。その時でいいなら、かまわないよ」
「ホントですか?ありがとうございます!じゃぁ、また後で・・・」
嬉しそうな笑顔に、あれ?この子こんなに可愛いかったっけ?なんて
思いながら2年の教室がある方へ戻っていく彼女の後ろ姿を見送った。


図書室は好き。
自分の知らないことがたくさん詰まった空間はワクワクする。
静かな中で本を読むのも好き。
家では静かな環境で勉強することがほとんど許されないからかな。
レポートに使う資料になりそうな本をいくつかピックアップして
先程自分の鞄を置いてきた机へと戻った。
すると、ちょうど貸し出しカウンター横のドアが開いて彼女が室内に入ってきた。
きょろきょろと辺りを見回して、僕に気づいたようだ。
「ごめんなさい、遅くなちゃって・・・」
小走りに近づいてくるとぺこりと頭を下げた。
「いや、僕も今ちょうど本を選び終わったところだから」
と言って彼女に椅子を勧める。
「で、どうしたの?」
自分も腰掛けて訪ねると、廊下で会ったときのように急に下を向いてしまった。
よっぽど言いにくいことなんだろうか?
一体、どんなことを頼まれるのかと思うとちょっと不安になってくる。
沈黙に耐えられなくて口を開こうとしたら、彼女が机の上に一通の封筒を差し出した。
「・・・・?」
僕が意味を図りかねていると、彼女は小さな声でこう言った。


「これ・・・、豪くんに渡して欲しいんです」


なるほど。
案外、ありがちな"お願い"だったな。
こういうのは、結構よく頼まれる。
でも、今まで引き受けたことは無かった。
豪はそういうラブレターのもらい方、あまり好きじゃないし。
直接渡す方が気持ちが伝わるから。

「今、彼女いないみたいだし・・・」
静かな図書室の中でも、聞き取れるかどうか、という小さな声。
「でも、好きな人はいるみたいだよ?」
え?何言ってんの、僕・・・
しかも、なんかすごい嫌みな言い方じゃなかった・・・??
彼女は僕の言い方なんか気にしていないみたいで
「それでも、気持ちだけでも知って欲しいから・・・お願いします」
と、言った。
もう、俯いたりしないでしっかり前を見てる。
恋する女の子はみんなキレイになるんだと、誰かが言ってた。
そうなのかな。うん、そーかもしれない。
じゃぁ、恋する男はどうなるの?


なんだか、レポートは全く進まなくて、結局僕は重たい資料を抱えながら家に帰ることにした。
結局、引き受けてしまったラブレターと一緒に。
はぁ。
この小さい封筒の方がよっぽど重い。
どうして引き受けちゃったんだろう・・・。
今までならともかく。
僕からなんて、渡せるわけないのに。
そんなことしたら、豪はどんな顔するだろう。
怒る?泣く?軽蔑する?
それとも、喜んで受け取ってしまったりして。
「兄貴!なんだ、今帰りなのか?」
校舎を出て、自転車置き場へ向かおうとするところで、グランドの方から聞き慣れた声がした。
「あぁ、図書室寄ってたからな。豪、部活中じゃないのか?」
「今、終わったトコ。な、着替えてくるから待っててくれよ。一緒に帰ろーぜ」
「・・・急げよな」
「わぁってるって」
豪は大急ぎで部室へ駆けていく。
やっぱり渡せないよなー。

一緒に帰るって言っても自転車だし・・・会話がそんなに弾む訳じゃない。
でも、2人で一緒に風を感じて。
時々豪が坂道でスピード出しすぎて止まれなくなったり、
何がおかしいわけでもないのに笑ってみたり、
商店街を突っ切って、あいかわらず仲がいいのね、なんて近所のおばさんの言葉とか、
夕日に染まった豪の背中。
そういうのって、悪くない。
だけど。
やっぱり今日は、ちょっと気まずい。
僕が一方的に気まずいだけだけど。
封筒の中の気持ちが、僕の気持ちを押しつぶそうとするようで・・・
胸が苦しい。
目尻に涙が溜まってきたような感じがして、僕は自転車のスピードを上げた。
こんな顔、見られてたまるか。

家に着くと、少し遅れて到着した豪がふくれっ面でこっちを見てた。
自転車を片づけながら
「なんだよ?」
と声をかけると
「なんだよじゃねーよ、途中から急にスピード上げやがって!
 ちょっとはオレのことも考えろよな」
とかブツブツ言ってる。
「お前、アレくらいでへばったのか?」
「きぃ〜っ!!オレは部活で走り回った後なの!」
「ぷっ、悪かったよ。謝るからそのサルみたいな顔やめろ」
「誰がサルだー!!!」
うん。やっぱり、僕達はこういう方がいい。
なんだか嬉しくなって思わず笑ってしまう。
すると、ギャーギャー言ってた豪が急に黙って顔を背けた。
頬が少し赤い。
なんだ?何を照れてるんだ、こいつ?
でもそんな仕草が何故か可愛く思えて、僕はますます上機嫌になりながら
「早く家入ろう」
と、豪の手をひいた。


              × × × × × ×



ご飯食べて、お風呂入って、部屋に戻ると、そっと机の引き出しを開けた。
可愛い封筒を見て、ため息をつく。
どうしよう。
豪にはきっと渡せないと思う。
これ以上、日常を壊したくないんだ。
彼女に返すのが、一番いいのだとわかってるんだけど・・・
そういう気にはなれなくて。
どうしよう。って呪文のように心で繰り返してる。

−コンコン

「兄貴ー、入るぜ?」
僕は慌てて引き出しを閉めると、机から離れた。
ガチャ。
「あれ、めずらしーな。今日は勉強しなくていいのか?」
「お前と違って毎日ちゃんとやってるからな。たまには息抜きー」
大抵は豪が部屋に来るとき僕は机に向かってる。
「ちぇ。オレはいーんだよ!兄貴は受験生だろ?」
「その受験生の部屋に毎日入り浸ってる奴がよく言うよ」
「・・〜〜〜〜っっ」
「はいっ、僕の勝ち。
 ったく、いつになったら口で僕には勝てない。って学習するんだ?」
「ちっくしょ〜」
地団駄踏んでる豪を見ながら・・・僕はこっそりため息をついた。


豪も別に用があって来るわけでもないから、
一緒にTV見てたりするけど、僕の頭には全然TVの内容が入ってこない。
どうしよう。どうしよう。
呪文みたいに繰り返して。
それじゃ、何の解決にもならないのに。

「なぁ、兄貴」
「んー?」
「あー、うーん、あのさ・・」
「・・・?」
豪にしては歯切れが悪い。
僕の返事も、かなり"上の空"だったけど。
「今日、さ、・・・兄貴が来る前に、先輩が・・・来たんだ」
「は?」
脈絡がない。
何の話をしてるんだ?
「あ、だからさ・・その、部活の時。兄貴が、通りかかる前に
 引退した3年の先輩がちょっと様子見に来たんだよ」
「ふぅん?・・・それがどーかしたのか?」
話してることはわかったけど、なんでそんな話するのかよくわからない。
「先輩・・・図書室、寄ってから来たって・・・」
「・・・・。」
僕はベッドに寄っかかって、クッションを抱いたまま
自分の足先を見つめてた。


どうしよう、どうしよう。


「烈兄貴が、女の子と2人でいたの・・・見たとかって言うから・・・
 その、・・気になっちまって・・・・・」
・・・話の内容までは、聞こえてなかったみたいだ。
ちょっと安心して、豪の方を見てみると、頭をかきながら「あーぁ、かっちょ悪りぃ」なんてぼやいてた。
それを見た瞬間。
気づいてしまった。
自分の凄く汚い感情に。
自覚してしまった。
見ないようにしていた気持ちを。


彼女は振られるんだって。
きっと、あの子泣くんだろうな、って。
そう思った。
なのに、僕の心を占めたのは、僕の方が豪の近くにいるっていう・・・優越感。


全く自分が情けなくて涙が出そうだ。
だって、こんな自分は知らない。
いつだって、卑怯なマネは許せなかった。
周りが幸せになるなら多少自分が損したって、その人が笑ってくれれば僕も嬉しかった。
なのに、今、僕は自分が一番可愛くて、そのために人を傷つけてる。
こんなの・・・・・僕じゃない。
豪はきっと、こんな僕、好きにならない。
それでも、まだ・・・間に合うのかな・・・。



引き出しの中で泣いていた手紙を、やっとたどり着くべき場所へ配達して。
「これ。・・・今日図書室で、頼まれた。
 お前あての、手紙」
小さな封筒を差し出す。
僕が女の子と何を話してたかを察した豪はとたんに不機嫌な顔になった。
封筒には、手を出さないで、僕のことをなかば睨みつけるように見てる。
「なんで、兄貴がそんなの、預かって来るんだよ」
僕は何も言えなくて。
「オレ、兄貴のこと好きだって言った。忘れたわけじゃないだろ?」
「・・・忘れてない」
「じゃぁ、なんで?!」
力まかせに肩をつかまれて、ちょっと顔をゆがませる。
肩の痛さとかより、豪の心の痛さの方が直接伝わってくるような気がして。
「・・・ごめん。断れなかった」
豪は、つかんだ肩を放さない。
「彼女、スゴク真剣で、本気で豪のこと好きなんだな、って、思って・・・」
「それで?だから、力になってあげたくなった?その子とオレが付き合えばいいって?
 俺の気持ちは考えなかった?!」
「・・・豪の気持ち・・とか、考えてなかった」
今度は、豪が泣きそうな顔してる。
・・・ごめん、豪。
「僕、自分の気持ちしか考えてなかった。
 ・・・彼女、本当に豪のこと好きみたいだったから・・・
 だから、直接渡されて、豪がこの子のこと好きなったらどうしよう。って思った」
だって、すごく可愛かったんだ。
豪のこと話すときの、彼女の表情。
気持ちがまっすぐに、豪に向けられてて・・・僕には、真似できなくて・・・
だから、邪魔した。
『断りきれなくて引き受けちゃった。』
『豪の気持ちを考えたら渡せない。』
『今更、彼女に手紙を返すなんて出来ない。』
正当っぽい理由付けて。

「だから・・・ごめん」
でも、気づいちゃったから。


「僕、多分・・・豪のこと、好きなんだ」


「・・・・へ?」
豪、めちゃくちゃ間抜けな顔してる。
そんな顔でも"可愛い"なんて感じてしまうんだから、自分でも驚くよな。
「豪のこと、好きなんだ」
繰り返すには、ちょっと抵抗あったけど。
ごまかすのはズルイから。
ちゃんと、豪のことまっすぐ好きでいたいから、豪の目を見てそう言った。

豪は、もっと大騒ぎするかと思ったのに・・・
何も言わないで僕のこと、優しく抱きしめてくれた。
言葉なんかより、ずっとダイレクトに豪の気持ちが伝わって。
・・・僕の気持ちも、豪に同じくらい伝わればいい。



              × × × × × ×



数日後、豪はちゃんと彼女に返事をしたようで、
彼女は僕の所へわざわざお礼を言いに来てくれた。
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったのだけど・・・
彼女はもう吹っ切れたから大丈夫、と笑ってくれた。
・・・・・女の子って強い。



豪は、前とどこが変わったということもなく、今日もやっぱり僕の部屋でくつろいでる。
僕はあいかわらず机に向かってて、交わす言葉もほとんどない。

それでも、まぁ、これはこれで・・・・結構、幸せだったりするけどね。


おわり。
このベタな展開に君はついてこれるか?!(死) もー、だめー(>_<)! 乙女チックすぎて自分で読み返す気にもならなーい! もっと、カッコいい話にしたかった・・・ガクッ ★Gradation2へSTORYのTOPへ戻るHOMEへ戻る