勢いで書いたGradationの続き。
しかし、やっぱり甘くならないのであった・・・・・。



「Gradation2」



「豪ーっ!何やってんだよー、早くしないと遅刻だぞ!」
「わーってるよ、今行くって!」
昨日珍しくちゃんと片づけた課題を忘れて部屋に飛び込む。
学校で誰かに写させてもらうつもりだったのに、ジュンの奴が兄貴にベラベラ喋るから
昨夜は強制的に机に向かわされた。
「もぅ、先行くぞ!」
「今行くっつてんだろー」
机の上に取り残されてたノートを手にして階段を駆け下りた・・・ら・・
「ぅわっ・・」
ドタドタドタ・・・・・・
「ってぇ〜〜〜」
ちくしょー、兄貴があんまり急かすから足踏み外しちまったじゃねーか。
頭を抑えながら体を起こすと、2人分の鞄を持った兄貴が目で「バーカ。」と言いながら
見下ろしていた。


ウチの兄貴は可愛くない。
いや、顔は可愛いんだけど。
素直じゃないし、ケチだし、すぐに兄貴ヅラするし(兄貴なんだから当たり前だけど)、
頭いいくせに俺の気持ちには気づかないし・・・・・だから、可愛くない。


半年前、オレは世紀の大失恋をした。
大好きだった女の子。
彼女のことスゴク大切にしてたつもりだし、当然向こうも同じ気持ちだと思ってた。
実は今でもなんでダメになっちまったのかはよくわからねぇ。
一方的な拒絶に見えた。
オレは手を尽くしたけど、どーしても2人の仲は戻らないとわかって・・・
すごい荒れた。
それまで幸せだと感じていた時間はすべて悲しい思い出に変わっちまった。
そんな、彼女の影を追い出したくて、いろんな女の子と遊んでみたけど
誰といても忘れることなんか出来なくて。
ひどい焦燥感と悲しい孤独。
そんなものに支配されて自分以外が見えなくて、いろんな人に心配かけた。
兄貴がいてくれなかったら、オレはまだ、そんなことを続けていたかもしれない。
兄貴はいつも、オレをいい方向へ導いてくれる。


              × × × × × ×


女の子と絡んでるところなんて、兄弟に見られたら恥ずかしくって嫌に決まってる。
けど、兄貴に見られたってわかったとき、もっと違う気持ちがした。
恥ずかしいとか、そういうんじゃない。
何故か、傷ついた。
すぐに後を追って弁解したかった。
もっとも、見たまんまの状況は誤解のしようもないもので、弁解の余地はなかったけど。
なのに、兄貴はオレのこと許してくれた。
ちゃんとオレのこと怒ってくれて、目を覚まさせてくれて、最後に全部許してくれる。
兄貴にキスした瞬間     オレの頭に彼女の姿はなかった。


夕飯の最中だというのに物思いに耽ってしまったオレに兄貴が話しかけてくる。
「豪、あまり箸が進んでないな。これ、お前の好物じゃなかったっけ?」
今朝階段から落ちたときにどっか打ったか?なんて聞いてくる兄貴を見ながら
ため息をつかずにはいられない。
兄貴はホントにオレのこと弟としか思ってないんだろうか?
「おい、ごぉ?」
箸を置いてのぞき込んでくる兄貴は凶悪的に可愛いのだけど・・・ちょっと心臓に悪い。
目線をそらして
「どこも打ってねーよっ。ちょっと、考えごとしてただけ」
と言って途中になってるメシを口に運ぶ。
「豪が考え事?しかも食事中に?!」
「なんだよ、オレが考えごとしてるのがそんなに珍しいのかよっ」
あんまりじゃないかと思ったが、食卓に着いていたオレを除く3人に
首をそろえて頷かれては反論のしようがない。
くそぅ、やっぱり可愛くねぇな、この男。


食事の後、風呂を済ませて自室に戻った兄貴は机に向かっている。
あいかわらず、マジメだよなぁ。
オレはというと、当たり前のように兄貴のベッドで雑誌なんか読んでた。
何を話すわけでもねぇけど、兄貴といる空間は穏やかで気持ちいい。
高校に上がってからはお互いの部屋を行き来することはほとんどなくなってたが
「星馬豪・大失恋事件(仮)」の後は、当たり前のようにこの部屋に遊びに来てる。
最初は変に思われるかと思ったが、兄貴は特に何も言わないし
最近ではもう習慣になってしまっている。
「で、さっきは何考えてたんだ?」
机に向かったまま、兄貴が唐突に口を開いた。
「あ?」
「食事中。なんか考えごとしてただろ?」
手を休めて椅子ごとこちらに振り向く。
「べつに・・・たいしたことじゃねーよ」
「あ、そ」
特に興味が無いのか、また机に向き直ってしまった。
ちぇ。
雑誌を放っぽって、兄貴の背中を見てたらなんだか自分が情けなくなってきた。
仰向けに転がって目を閉じる。
はぁ〜。
オレが持久戦を強いられるとは。
もともと白黒がはっきりしていないと気が済まない質の、このオレが。
相手が実の兄じゃなかったら・・・さっさとコクッてしまうのに。
さすがにそれはちょっとためらわれた。
烈兄貴が常識派なことは重々承知してるし、他にも障害は数え切れないほどある。
本当は、嫌われてしまったらと思うと怖くて言えない、なんて理由には気づかないフリをした。
はぁぁぁ〜。
さっきより深いため息が出てしまう。
「だから、何をそんなに深刻に考えてるんだよ?」
突然頭上から声が降ってきてオレは目を開けた。
目の前には不思議そうな顔でのぞき込んでる烈兄貴。
「う、うわぁっ!」
慌てて体を起こして兄貴の頭に頭突きをくらわせてしまった。
「「〜〜〜っ」」
おでこを押さえて座り込む男2人。
あまり絵にならねーな。
「いってぇ〜〜・・・何すんだよ、豪っ!」
「兄貴がおどかすからだろ!」
「なんだよ。人が心配してやってるのに!」
ぷぅっと頬を膨らまして怒ったって、怖くもなんともない。
こういう顔も、可愛くて好きだ。
でも、心にちょっとやましいところがあったオレは一応素直に謝った。
「わ、悪かったよ・・・」
兄貴は一瞬、拍子抜けしたみたいな顔をしたが「うん、わかればよし。」なんて一人で納得してる。
「で、何なの?」
ベッドに腰掛けて再度、聞いてくる。
「ホントにたいしたことじゃねーよ。兄貴が心配するよーな事じゃないから、気にすんなって」
「たいしたことじゃないなら、いいじゃん。教えろよ」
教えたら、怒るくせに。
あー、でもやばい。
自慢じゃないけどオレは兄貴に嘘つくのが苦手なんだ。
「あ、わかった!豪、好きな子でもできた?」
ゲッ!
そういうの、疎いくせに・・・なんでこんな時ばっかり・・・
黙ってるオレを見て、兄貴は嬉しそうに続ける。
「図星?へー、僕の知ってる子??」
兄貴の嬉しそうな顔見てたら泣きたくなってきた。
やっぱ、兄貴にとってはオレはただの「弟」なんだ。
「なんだよ、恥ずかしがることないじゃん」
すっかりブルー入ってしまったオレをどう勘違いしたのか兄貴はオレの顔をのぞき込む。
何か、今までいろいろ考えてた自分がバカみたいだ。
「そーだよ。好きな子、できた。
 朝も昼も夜も、ずっとそいつのこと考えてる」
自分でもビックリするぐらい低い声。
兄貴からちゃかすような表情が消える。
「そっか。よっかた・・・」
心底安心したみたいに微笑んで。
いつもなら抱きしめたくなるような微笑みが今日は憎らしかった。
「本当にそう思うのか?
 オレに好きな奴ができて、良かったって。
 本気で?」
「豪?」
困惑した、兄貴の顔。
オレはいたたまれなくなって兄貴の部屋を出た。


              × × × × × ×


今日で1週間か・・・。
あれから、兄貴の部屋には行ってない。
こーゆー状態は精神衛生上、非常にに良くない。
だって、こんなのオレらしくない。
兄貴に嫌われる前に自分で自分が嫌いになっちまう。
そう思って何度も兄貴の部屋の前まで行くが、どーしても入れない。
自分がこんなにも臆病者だったとは知らなかった。
幼い頃の戦友がこんなオレを見たらなんて言うだろうか。
とりあえず、今日の所はあきらめて自分の部屋に戻ることにした。
はぁぁぁぁぁ〜。
オレのため息は長くなるばかりだ。

「・・ふぁ・・ぁ・・」
どうやら、オレは考え事をしながら眠ってしまったらしい。
もう、寝間着に着替えんのかったりーな・・なんて思いながら目を開けると
すぐ横に烈兄貴の顔があった。
「あ、兄貴?!」
「・・ぅん?・・・」
兄貴は床に座ってオレのベッドに頭を乗せたまま一緒に寝ていたらしく
焦点が定まっていない。
「あー・・ごぉ、起きたのか?あんまり気持ちよさそうに寝てるから
 つられて眠くなっちゃったよぉ・・・」
舌は回ってないし、「んー」とかいいながら目をこする姿はメチャクチャ可愛い。
だから、夢かと思った。
だって兄貴がオレの部屋に来て寝ぼけてるなんて、おかしいだろ?
軽く伸びをして少し頭がすっきりしたらしい兄貴は
「豪?何ボーっとしてんだよ?まだ寝ぼけてんのか??」
と、聞いてくる。ホントに、本物・・・だよなぁ?
「え・・と、兄貴、なんでこんなとこにいるんだ?」
この1週間気まずい思いをしてた事の方が夢だったんじゃないかと思うほど
2人の間の空気は穏やかだ。
そりゃぁもう、穏やかすぎて怖いくらい。
兄貴は下を向いたまま答えない。
気まずい。
・・・やっぱり穏やかな空気はそう続かなかったか。
「兄貴?」
なるべく優しく声をかけた。
せっかく、兄貴が部屋まで来てくれたんだからな。
「豪・・・もう、怒ってないの?」
あいかわらず俯いてるが、目線だけをこちらへよこす。
その技は反則だぜ、烈兄貴。
「怒ってねーよ。あれは・・その、オレも悪かったし・・・。
 なんだよ、わざわざそれを聞きに来たのか?」
「だって、なんかよくわかんないけど、豪、凄く怒ってるみたいだったし・・・
 何か、知らないうちにひどいこと言ったのかも、って思って・・・」
すまなそうにボソボソと喋る兄貴を見て、オレはやっぱり悲しくなっていった。
「・・それに、なんか夜1人で部屋にいると・・んー、こう物足りないってゆーか
 なんてゆうか・・・」
え?マジで?
ちょっと嬉しくなってしまう、現金なオレ。
「オレがいても、邪魔じゃないの?」
「んー、いると邪魔なんだけどー・・・」
うっ、余計なこと聞かなきゃよかった〜〜。
「でも、いないよりはうるさい方がいい・・・かな」
そんな一言でも幸せになれるとは安上がりな男だな、オレも。
けど、こんなもんで満足は出来ない。
それじゃ今までとなにも変わらない。
だから。
「オレは、兄貴の側にいる時が一番楽しいぜ」
大好きな烈兄貴に、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
「だって、オレ、烈兄貴のこと好きなんだ」


オレは兄貴から目をそらさない。
この告白を「冗談だろ」なんて流されたくはないから。
「オレ、兄貴のこと好きだよ。烈兄貴のこと、女の子みたく思ったことないけど・・・
 兄弟とか、そんなんじゃなくて、好きだ」
兄貴はぽかんと口を開けたままだったが、やっと意味が飲み込めたらしく
すっと顔に赤みがさした。
「ごめん、ちょっと・・混乱してる。
 だって、いままで・・弟としてしか見てないし・・だから・・・」
「じゃぁ、今からそういう対象として見てくれ」
「・・豪・・・」
そんな、困った顔で見るなよ。
「それでも、どうしてもオレを弟としてしか見れないなら
 ・・・・・・もう、兄貴を困らせるようなこと、言わないから」
きっと今鏡を見たら、すっげ、情けない顔の男が映ってるはずだ。
「・・・わかった」
烈兄貴?
「ちゃんと、考えてみる。お前の気持ちも、自分の気持ちも。
 今は、まだ自分の気持ちとか答えられないけど・・・ちゃんと、考えるから。
 だからそんな顔するなよ。」
と言って兄貴は綺麗に微笑んだ。
なんか、体の力が抜けて・・・思わず床にへたりこんでしまう。
兄貴が「豪っ?!」なんて慌ててるのが目に映ってるけど答えられない。
兄貴の気持ちが嬉しくて。
ちゃんと俺の気持ち受け止めて、答えを出そうとしてくれてることが幸せで。
何より、兄貴が嫌悪の表情を浮かべなかったことに安心して。
「豪、どうしたんだよ?大丈夫か?」
しゃがみ込んで肩に手を置いてくる兄貴を思わず抱きしめて「ありがとう」なんて
兄貴の問いの答えにはならない答えを返したら「『ありがとう』はまだ早いだろ!」って
頭をはたかれた。


この一世一代の告白の後も、兄貴の様子はあまり変わったように見えない。
あいかわらず、オレは兄貴の部屋に入り浸ってるし、兄貴はそれが当たり前のように机に向かってる。
オレはかなり不安になったりもするんだけど・・・
時々、オレを見る兄貴の目が、前と違うことに気づいたから。
オレが兄貴を見るのと同じ目。
だからこの腕に兄貴を抱く日はそう遠くないと、オレは確信してるんだ。


おわり。


うーん、やっぱり甘々まで行けなかった・・・。 だってそんなに簡単にくっついちゃったらやじゃないですか??(あれ?) 紆余曲折があってこそ、で、燃えてほしいなー、と。えぇ。 もう1コくらい書けば甘々まで到達できるかなぁ? それにしても・・・1人称でなんか書き始めるんじゃなかった。 烈も豪も必要以上に思い悩む人間になってしまった・・・無念。 ★GradationへGradation3へSTORYのTOPへ戻るHOMEへ戻る