last resort −Side;Go Seiba 試験前でもないのに部屋で勉強机に向かっている烈兄貴の背後に立つ。 そっとのぞき込むと、俺には理解不能な暗号が並んでいた。 勉強なんて(よりによって数学だぜ?)、よく自主的にする気になるよな。 今更ながら兄貴の生真面目さに変に感心していると 下から「なんだよ?」という声がした。 後ろに立たれると影になって暗いと文句を言うので机の横へ移動する。 ジュンから預かったCDを兄貴の顔とノートの間に滑り込ませると、 「何だコレ?」という目で俺を見上げた。 「ジュンがミキちゃんに借りてたんだと」 「ミキに?」 「だから、烈兄貴から返しといてくれってさ」 「あ、そーゆーことか」 素直に受け取る烈兄貴。 それがすっごい自然な動作だったのが、ムカついた。 って、自分で持ってきたのになんだけど。 俺と烈兄貴の幼なじみであるジュンは今では俺の彼女となっていて。 ある日突然烈兄貴の友達だと名乗ったミキという女はいつの間にかジュンと仲良くなっていた。 「ミキちゃん元気?」 「・・・・・・少し元気すぎるくらいだ」 「ふぅん」 疲れたように言う、その言葉はきっと本音なんだろう。 兄貴が他人のことで溜め息をつく。 そんなコトに腹を立ててる自分がいる。 烈兄貴を振り回すのはいつでも俺の役だったのに。 バカみたいな嫉妬だってわかってるけど。 今まで烈兄貴のことを「烈」呼ばわりする女は母ちゃんとジュンくらいで。 烈兄貴が下の名前で呼ぶ女もやっぱりジュンくらいのもんだった。 それなのに。 烈兄貴の"仲のいい女友達"とゆー普通にありそうで実は空席だったポジションに ちゃっかりおさまった彼女は、特定の彼女のいない烈兄貴にとって一番近い女になっていた。 悪い子じゃないと思う。 性格は明るくて友達も多そうだし、顔だって結構美人タイプだ。 後輩のオレが"ミキちゃん"なんて呼んでも嫌な顔ひとつしないし、 ジュンも優しい先輩ができて嬉しいなんて言っていた。 でも俺は彼女を好きになれない。 兄貴の近くにいるヤツ特に兄貴に好意を寄せるヤツのことは それが誰だって好きになんかならなかったけど。 彼女は今までの奴らと違う。 烈兄貴は彼女に怒る。 彼女に呆れる。 彼女に笑いかける・・・付き合いだけの笑顔とは違う顔で。 それは全部、俺のものなのに。 「豪?」 ちょっとトリップしてた俺は烈兄貴の声で世界を取り戻した。 「どこ見てんだ?」 烈兄貴は椅子に座ったままなので、その横に立つ俺の顔をのぞき込むには 必然的に見上げるようなカタチになる。 それは、ひどく艶っぽくて、俺の心の奥にしまい込んでる何かを刺激する。 何も意識していない無防備さがまたそれに拍車をかける。 こんなに近くにいて。 本当はすぐにでも自分のものにしたいのに。 「・・・・・・豪?」 「あ、あぁ、悪い。なんか頭がぼーっとして・・・」 「熱でもあるんじゃないのか?」 ガタンと音をたてて立ち上がると俺の額に手をのせる。 もともと体温が低いせいか、俺のそれよりも冷たいはずの烈兄貴の手。 ・・・・・・? 熱はないみたいだけどな。と手離す烈兄貴。 当然だ。考え事してただけなんだから。 それより。 烈兄貴の手、少し熱くなかったか? 「オレってデリケートだから疲れがたまってるのかもv」 「お前の神経で疲れがたまるなら オレは今頃胃に穴あけまくってるよ」 いつも通りの憎まれ口だけど、こうしてよく見てみるとやっぱ少し違和感。 兄貴って聡いくせに自分のコトには無頓着だよなぁ。 もう少し自分の体も労れよ? それこそ、オレ、そのうち、胃に穴あいちゃうぜ。 兄貴が風呂に入ってる間にチャリを走らせた。 家から一番近いトコじゃなくて、通りひとつ向こうのコンビニまで。 烈兄貴が熱っぽいときよく飲みたがるリンゴジュース。 何故か、あっちの店にしか置いてないんだよな。 兄貴は自分が体調崩してることにも気づいてないんだろう。 俺が少しでも体調崩したら、誰より早く気づくくせに。 早く、早く。 兄貴が風呂から出る前に戻れるように。 見つかる前に冷蔵庫にジュースを収めるべく、ペダルにかける足に力を入れた。to be ... ◇ NEXT ◇ aiko's NOVEL TOP◇ 豪、こんなですけどジュンと付き合ってるんですよ。 もっと彼女を大切にしろよ・・・。