last resort −Side；Retsu Seiba 「烈･･･風邪？」 昨日、豪から預かったＣＤを手渡すとミキは心配げに僕を見た。 「んー･･･朝から少し熱っぽいみたい。 たいした熱じゃないし、すぐさがると思うけど」 自分の額に手を当てながら答えて、ふと思う。 見てわかるほどバテてもないんだけど･･･。 疑問が顔に出たんだろう。 ミキはいたずらっぽく笑うと僕の机の上に置いてあるリンゴジュースを指さした。 お昼に飲んでまだ少し残ってるリンゴジュース。 それで？ 「烈って、体調悪いとき、よくそれ飲んでるじゃない」 「そう？」 「そうって････なんだ意識してるわけじゃなかったの？」 「･･････気づかなかった」 そーいえばなんとなく飲みたくなる時ってそーゆー時が多いかも。 昨日の夜も、お風呂上がりに飲みたいなって思ったっけ。＊＊ ＊＊ ＊＊ ＊＊ ＊＊ お風呂から上がって冷蔵庫をあけると、そこには封をあけてないジュースのパック。 あれ？コレ、昨日飲み切っちゃったんじゃなかったっけ？ 疑問が頭をかすめたけど、母さんが買い物のついでに買ってきたのかも、と たいして気にもとめなかった。 ２階に上がって、豪の部屋をノックして。 返事がないのでドアを開けると、ベッドに俯せていた豪がのそのそと体を起こした。 僕の手の中のコップにジュースが入っているのを見て 「そのジュース、うまい？」と聞く。 「あぁ」と答えると「んじゃ、俺も後でのもー」と笑った。 ･････めずらしいものでもないのに変なヤツ。 首をかしげながらも「お前も早く風呂入っちゃえよ」と、 空いてる方の手で豪の頭をかき回した。 何故か、しっとり汗ばんでる豪の髪。 この部屋････空調きいてるよなぁ？ まるで、軽く体を動かした後のような。 「･･･豪･･･このジュース･･･」 タンスをごそごそと漁る豪の背中に声をかけたが、それは豪の声でかき消された。 「兄貴ー、俺のスウェットしらねー？青いヤツ」 「あぁ、リビングに他の洗濯物と一緒にたたんであったぞ」 「さんきゅー」 風呂の準備をして、さっさと降りていく豪に、なんとなく聞けないまま、 手に持ってるリンゴジュース一口飲むと、口の中にほのかな酸味がひろがった。＊＊ ＊＊ ＊＊ ＊＊ ＊＊ 豪は、知っていたんだろうか。 僕が体調悪いときに欲しいモノ。 僕が熱っぽかったコト。 知っていたから？ 「烈･････顔が笑ってるわよ･･･？」 げ。 「可愛いミキちゃんが心配してあげてるのに誰のことを想ってたのかなぁ？この子は」 ミキ。顔が笑ってないって。 彼女がずいっと顔を近づけてくる分、頭を後退させて。 病人には優しくって、知らないのか？ 彼女にそんな優しさを求めるのも間違ってる気がするけれど。 これ以上は背骨が折れる。ってトコロまでいって、すっとミキの顔が遠ざかった。 ほっとしながら体を戻すと、ミキはさっき渡したＣＤを手に 「CD、よかったらまた貸すわよってジュンちゃんに伝えておいてくれる？」 と、言って僕の席を離れて行った。 教室を出る前に「今日は退散するわ。病人には優しいの。アタシ」と言い残して。 だいぶ慣れたと思った彼女の行動パターンはまだまだ謎だ。 そう思いながら机の上のリンゴジュースに手をのばすと今度はクラスメートに声をかけられた。 忙しないなー。 クラスメートが指さした先ミキが出ていったのと反対側のドア口には 豪が立っていた。 「英和辞書くらい、ジュンちゃんにでも借りればいいだろ。 わざわざこっちの棟まで来なくったって」 文句を言いながらも貸してやるんだから僕って優しい。 「ジュンのヤツ、俺が忘れ物すんと鬼のよーに怒るんだよ･･･。 アレは兄貴とタメを張る恐ろしさだぜ」 って、人のトコに借りに来ておいてソレはどーゆーことだ、豪？ 「あ、いや。そーじゃなくて。 ジュンよか100倍やさしー烈お兄様に貸してもらおうかなーってｖ」 うげー。お兄様って何だよ、気持ちワルーっ。 「さすがのお前も可愛い彼女には頭が上がらないんだ？」 「そ、そんなんじゃねーけどっ」 「慌てるトコがあやしー」 「うっせーな。いいから貸してくれよ」 「人に借りるのにその態度はなんだよ」 「貸して下サイ、お兄様」 「････貸すからお兄様はヤメロ」 廊下にあるロッカーに行きかけて、足を止める。 そーいえばさっきグラマーで使ったから机の中だ。 豪にドア口で待ってろと言い、教室へ戻る。 机の上のリンゴジュースが目に入った。 あの、がさつで大雑把を地でいく弟が、まさか････ねぇ？ 机の中から辞書を引っぱり出した僕は、 なぜか緩んでしまう唇を必死に引き締めながら豪の元にもどった。 こんな兄バカみたいな自分を、少しくすぐったく思いながら。to be ... ◇ NEXT ◇ aiko's NOVEL TOP◇ なんか････４角関係のわりには あまり動きがなくてつまんないな･･･。 烈、心配しなくてもアンタは兄バカみたいじゃなくて 立派な兄バカだよ。もっと自信を持って！(違)